ワクチン供給が切れた1年間
世界保健機関(WHO)とユニセフの調査によれば、今回の流行の直接の引き金は2024〜2025年のワクチン供給の断絶だ。新型コロナウイルスのパンデミックが収束した後、多くの国で免疫化プログラムの再建が遅れた。バングラデシュでは特に農村部でワクチンが届かない期間が続き、集団免疫に必要な95%以上の接種率が保てなくなった。
DHSの統計では、バングラデシュ農村部の2〜5歳児を対象にしたはしか予防接種率は2024年末時点で79%にとどまっていた。
集団免疫のラインを一度割ると、ウイルスは急速に広まる。はしかの基本再生産数(R0)は12〜18とされ、インフルエンザの3〜5倍の感染力がある。
南部と北部、二つの流行中心地
流行は国内全土で記録されているが、特に感染者が集中しているのはジェソール管区(南部)とラジシャヒ管区(北部)だ。国境を接するインドのベンガル語圏とも人の往来が多く、国境を越えた感染連鎖も起きているとみられている。
ジェソールの地方病院長は「病棟がいっぱいで、点滴も足りない。ビタミンAの補給も十分にできていない」と訴えた。はしかそのものより、脱水と二次感染による肺炎が死因になるケースが多い。
WHOの緊急接種計画
WHOとバングラデシュ政府は合同の緊急接種キャンペーンを始めた。9月末までに6か月〜5歳の子どもを対象に全国約1,500か所の仮設接種所で無料接種を実施する。
目標は2週間で700万人に接種することだ。接種には1回あたり約25円相当(日本円換算)のコストがかかるため、日本を含む国際支援が求められている。UNICEFは9月下旬に850万ドルの緊急拠出を呼びかけた。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 感染疑い例(2026年累計) | 188,041件 |
| 死者数 | 1,096人 |
| 死者に占める5歳未満の割合 | 76% |
| 農村部の接種率(2024年末) | 79%(目標95%) |
| 緊急接種目標 | 700万人・2週間 |
なぜ2026年に急増したのか
はしかは適切な予防接種が普及した地域ではほぼ消える感染症だ。しかし接種率が下がると再び猛威を振るう。今回のバングラデシュの流行は、パンデミック後の「免疫格差」が現実化したケースとして国際的に注目されている。
「コロナ禍でワクチンの物流インフラが崩れ、医療従事者も疲弊した。その影響が2〜3年後に出てくることは予測されていた」とWHOの担当者は述べた。
世界全体でも再拡大
バングラデシュは単独の例ではない。WHO/UNICEFの2026年上半期報告では、パンデミック後の接種率低下を背景に世界のはしか報告例が2019年比で約40%増加している。アフリカ東部とアジア南部が特に影響を受けており、バングラデシュのほか、エチオピア、コンゴ民主共和国、インドネシアでも感染者が増加している。
はしかは一度感染すると免疫が形成されるが、感染中の脳炎や肺炎で後遺症が残ることがある。「ワクチンで防げる病気で後遺症を抱えた子どもが増えているのは、予防医療の失敗を意味する」と公衆衛生の研究者は述べた。
日本から何ができるか
日本はUNICEFと日本政府を通じてワクチン支援を行ってきた実績がある。日本製のはしかワクチンは品質が高く、途上国への無償供与プログラムに組み込まれている。
今回のバングラデシュの流行について、外務省は「二国間の保健協力の枠組みを通じた支援を検討している」としている。1,096人の死者という数字を、遠い国の出来事として素通りするかどうか、問われているのは支援する側の意志でもある。
まとめ
1,096人の子どもが、予防可能な病気で亡くなった。ワクチンがあれば防げた死だ。パンデミック後のワクチン供給の断絶が今になって命を奪っている。緊急接種は始まったが、流行の規模に対して追いついていない。日本を含む国際社会が今できる支援は何か、問われている。
出典・参考
- [1] WHO「Bangladesh measles outbreak situation report」 2026年9月27日
- [2] UNICEF「Emergency appeal for measles response in Bangladesh」 2026年9月下旬
- [3] BBC News「Bangladesh measles deaths top 1,000 as outbreak spreads」 2026年9月27日






