FORGEとは
FORGEとは、重要鉱物の供給網を多角化し、安全で強靱なものにするための多国間協力枠組みである。正式名称は「Forum on Resource Geostrategic Engagement」。日本語では「地戦略的資源協力フォーラム」や「地政学的資源関与フォーラム」などと訳される。
米国のマルコ・ルビオ国務長官が、2026年2月4日にワシントンD.C.で開かれた重要鉱物閣僚会合で創設を発表した。FORGEはまったく新しい組織をゼロからつくったのではなく、2022年に発足した鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)の後継枠組みとして再出発したものだ。
初代議長は韓国が2026年6月まで務め、7月に米国へ議長国が移った。韓国の国連代表部によると、韓国議長期には投資の予見可能性、環境・労働・透明性の基準、責任ある企業行動などを示す指導原則を合意し、案件を戦略的に選ぶプロジェクト審査プロセスも導入した。
FORGEは企業名や投資ファンドの名称ではない。参加政府が政策と案件を調整するフォーラムであり、資金の拠出や許認可、融資、出資は各国政府、開発金融機関、輸出信用機関、民間企業が担う。
なぜ重要鉱物が問題になるのか
重要鉱物とは、産業や安全保障に欠かせない一方、供給途絶の影響が大きい鉱物を指す。何を重要鉱物に指定するかは国によって異なるが、レアアース、リチウム、コバルト、ニッケル、黒鉛、銅などが代表例になる。
問題は、地下資源の埋蔵量だけではない。鉱石を採掘できても、分離・精錬して純度を高め、部材へ加工できなければ産業には使えない。とりわけレアアースなどでは、精錬・加工能力が特定国へ集中している。輸出制限、紛争、災害、港湾の混乱が起きれば、遠く離れた自動車工場や半導体工場の生産も止まりうる。
新しい供給源をつくるのも簡単ではない。鉱山開発には地質調査、環境審査、地域住民との合意、道路や港の整備が必要だ。市況が下落すれば、長期投資を回収できなくなる。加工施設には技術、人材、安定した電力、長期の買い手も要る。民間企業だけでリスクを負うには規模が大きいため、政府間の調整が必要になる。
FORGEの4つの役割
FORGEの役割は、大きく4つに整理できる。
重点案件を選ぶ
各国が別々に鉱山や精錬所へ投資すると、必要な工程が抜けたり、同じ分野へ資金が重なったりする。FORGEは供給網の弱点を共有し、採掘、精錬、加工、再資源化のどこへ投資すべきかを検討する。
前身のMSPは、対象を鉱山だけに限定していなかった。採掘、回収、精錬、加工、リサイクルまでを一つの価値連鎖として扱ってきた。FORGEもこの案件基盤を引き継ぎ、プロジェクト審査を強化している。
資金と買い手をつなぐ
鉱物案件の成否は、埋蔵量より資金調達で決まることがある。FORGEは政府、輸出信用機関、開発金融機関、民間金融、資源会社、最終需要家をつなぐ。融資や保証だけでなく、将来の購入を約束するオフテイク契約も重要になる。
長期の買い手が決まれば、価格変動が大きい鉱物でも投資判断をしやすい。自動車、電池、半導体、防衛、電力設備の企業は、単なる購入者ではなく、上流投資を成立させる当事者になる。
政策を調整する
重要鉱物の供給網は複数国にまたがる。採掘国と加工国で環境基準や投資審査、補助金、関税が食い違えば、案件は進まない。FORGEは政策と外交の調整を行い、供給途絶への備えや市場の安定化策を検討する。
米政権は重要鉱物について、価格下限や調整関税を使う優遇貿易圏の構想も示している。ただし、この貿易圏がそのままFORGEを意味するわけではない。韓国政府も2026年2月の説明で、両者は目的を共有しつつ性格の異なる仕組みだと整理した。FORGEの確定事項と、別途交渉中の通商措置を分けて読む必要がある。
責任ある供給網をつくる
供給先の多角化だけを急げば、環境破壊、危険な労働、地域社会との対立を招きかねない。韓国議長期に採択された指導原則は、環境、労働、透明性、責任ある企業行動を共通方向として掲げた。
資源国に採掘だけを担わせず、現地加工、人材育成、雇用、税収を増やすことも重要になる。生産国と消費国の双方に利益がなければ、長期的な供給網は維持できない。
前身MSPから何が変わったのか
MSPは、米国、日本、オーストラリア、カナダ、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、イタリア、韓国、ノルウェー、スウェーデン、英国とEUが参加し、責任ある重要鉱物案件への官民投資を促してきた。
FORGEはこのネットワークと案件を引き継ぐ。公式発表で強調された変化は、より「大胆で決定的な行動」を取り、政策レベルとプロジェクトレベルの双方で協力を進めることだ。韓国議長期には指導原則と審査プロセスを整え、案件群を成果志向に組み直した。
| 比較項目 | MSP | FORGE |
|---|---|---|
| 発足 | 2022年 | 2026年2月 |
| 位置づけ | 重要鉱物の投資協力 | MSPの後継枠組み |
| 主な手段 | 案件共有、金融・外交支援 | 政策協調、案件審査、投資促進を強化 |
| 対象工程 | 採掘から再資源化まで | 同じ価値連鎖を継承 |
| 今後の焦点 | 多様で持続可能な案件形成 | 実行速度、投資確実性、供給途絶対応 |
名称の変更だけで成果が生まれるわけではない。今後は、選ばれた案件へ実際に資金が入り、生産や加工が始まるかが問われる。
Pax Silicaとの違い
FORGEとパックス・シリカ(Pax Silica)は、どちらも米国が重視する経済安全保障の枠組みだ。ただし、対象範囲が異なる。
FORGEは重要鉱物が中心である。採掘、精錬、加工、リサイクルの案件を政策と資金で前へ進める。これに対しPax Silicaは、重要鉱物から半導体、AIインフラ、通信、エネルギー、物流、AIモデルまで技術スタック全体を扱う。
たとえるなら、FORGEはAI・半導体供給網の「原料と素材」を整え、Pax Silicaは原料を使う「製造・計算・サービス」までつなぐ。両者が連携すれば、上流の鉱山に長期需要を示し、下流の半導体工場には安定調達を用意できる。
米国の重要鉱物政策には、戦略備蓄と政府金融を組み合わせるProject Vaultもある。役割を簡略化すると、Project Vaultは備蓄と需要の下支え、FORGEは国際的な案件調整、Pax Silicaは技術需要との接続を担う構図になる。
日本にとっての重要性
日本は鉱物資源の多くを輸入に頼る一方、自動車、電池、半導体材料、電子部品、工作機械などの大きな需要国である。特定の国から供給が止まれば、製造業全体へ影響が広がる。FORGEを通じて調達先を増やすことは、企業の事業継続と日本の経済安全保障に直結する。
商機もある。日本企業は探鉱、分離・精錬、素材加工、リサイクル、省エネルギー設備、水処理などで技術を持つ。資源国に鉱山だけでなく加工や再資源化の産業を築く案件では、設備供給、共同事業、技術移転、長期購入の形で参画できる。
一方で、国際枠組みへの参加だけで安価な鉱物が自動的に手に入るわけではない。供給網を多角化すれば、短期的な調達費用が上がる場合もある。企業は最安値だけでなく、供給途絶の確率、代替までの時間、在庫、再輸出規制、環境・人権リスクを含めて総コストを評価する必要がある。
実務では、次の点が重要になる。
- 重要原料を一次取引先だけでなく鉱山・精錬所まで遡って把握する
- 単一国・単一企業への依存率と、代替に要する期間を確認する
- オフテイク契約や共同投資で上流案件へ関与する
- リサイクル材と代替材料を調達計画へ組み込む
- 環境、労働、人権、地域社会への影響を投資前に調査する
FORGEの課題
最大の課題は、政治合意を採算の取れる案件へ変えられるかである。重要鉱物は市況の変動が大きい。高値のときに計画した鉱山が、稼働時の価格下落で立ち行かなくなることもある。長期契約、保証、出資、備蓄などをどう組み合わせるかが成否を分ける。
二つ目は、参加国間の利害調整だ。生産国は現地加工と雇用を求め、消費国は価格と安定供給を重視する。環境審査を急げば地域社会の反発を招き、時間をかけすぎれば供給網の弱点を残す。共通原則を個別案件で守れるかが試される。
三つ目は、複数の枠組みの重複である。G7、IEA、二国間協定、Pax Silica、Project Vaultなど、重要鉱物を扱う制度は増えている。役割分担が曖昧なら、会議は増えても投資は進まない。FORGEには、案件の優先順位と担当を明確にする調整役が期待される。
FORGEは、重要鉱物を単なる商品ではなく、産業・外交・安全保障を支えるインフラとして扱う枠組みだ。名称を覚えるだけでなく、どの案件へ誰が資金を出し、誰が買い、どこで加工するのかを見ることで、その実効性がわかる。
よくある質問
FORGEは何の略ですか
Forum on Resource Geostrategic Engagementの略である。重要鉱物をめぐる地戦略的な協力を進める多国間フォーラムを指す。
FORGEはいつ発足しましたか
2026年2月4日の重要鉱物閣僚会合で、米国がMSPの後継枠組みとして発表した。韓国が2026年6月まで初代議長を務め、7月に米国へ引き継いだ。
FORGEは価格下限を決める制度ですか
FORGEの役割は政策・案件の調整であり、価格下限を自動的に設定する制度ではない。米国は別途、価格下限や調整関税を含む重要鉱物の通商枠組みを提案しているため、区別が必要だ。
FORGEとPax Silicaは同じですか
同じではない。FORGEは重要鉱物の上流・中流工程が中心で、Pax Silicaは半導体、AI、通信、エネルギーを含む技術供給網全体を扱う。両者は補完関係にある。




