東芝デバイス&ストレージは何をつくる会社?
東芝デバイス&ストレージの事業は、大きく「半導体」と「ストレージ」に分かれます。半導体には電力や信号を扱う多様な部品があり、ストレージではHDDを手がけています。製品を組み込む自動車・産業機器・情報機器などのメーカーや、データセンターの用途を考えると理解しやすくなります。[1]
| 事業 | 主な製品 | 製品が担う役割 |
|---|---|---|
| 半導体事業 | パワー半導体、アナログIC、マイコン、フォトカプラーなど | 電力の変換・制御、機器の動作制御、信号の受け渡し |
| ストレージ事業 | データセンター向けHDD、各種機器向けHDD、ポータブルHDD | データの保存 |
同社の事業承継日は2017年7月1日。本店は神奈川県川崎市にあり、従業員は2026年3月時点で連結17,400人、単独3,200人と公表しています。連結の人数はグループ会社を含むため、本体の人数と分けて見る必要があります。[2]
パワー半導体は、電気を使うときの損失を抑える
パワー半導体を理解する入口は、充電器やモーターです。電源から受け取った電気を機器に合う状態に変換したり、流れを制御したりする過程では、電力の一部が熱などの損失になります。電気を制御・変換するときの損失を小さくすることが、パワー半導体に求められる役割です。東芝は自動車、鉄道、電源、産業機器などに向けた製品を展開しています。[3]
同社は、従来のSi(シリコン)の製品に加え、SiC(炭化ケイ素)のパワーデバイスを製品化し、GaN(窒化ガリウム)の開発も進めています。材料の違いだけで性能が決まるわけではなく、どの電圧や用途で使うかを含めて製品を見ていく必要があります。[3]
具体例が、2026年6月30日に出荷開始を発表した80V耐圧のパワーMOSFET「TPM1R408RH」です。MOSFETは電気の流れを切り替える半導体の一種。同製品はAIデータセンターや通信基地局などのスイッチング電源を用途に挙げています。[4]
東芝は、既存製品TPM1R908QMと比べ、電流を流すときの抵抗を約26%低減したと説明しています。ただし、部品の抵抗が26%下がることと、データセンター全体の電力が26%減ることは別です。 同社の発表も、電気を流すときと切り替えるときの損失に加え、熱や電磁ノイズを考慮したシステム設計の必要性を示しています。製品の数字を施設全体の省エネ率に置き換えないことが大切です。[4]
半導体事業には、機器を制御し信号を伝える部品もある
東芝デバイス&ストレージの半導体を、電力を扱う製品だけで捉えると事業を見落とします。同社はマイクロコントローラー(マイコン、MCU)、アナログIC、フォトカプラー、デジタルアイソレーターなども扱います。[1]
例えば、2026年10月1日発表のデジタルアイソレーター「DCL32xx00シリーズ」は、産業用機器の信号伝送に向けた製品です。電圧の異なる回路を電気的に絶縁しながら、信号を伝えます。工場の制御装置やインバーターなどで、機器故障の波及やノイズによる誤動作を防ぐための部品です。機器の中では、電力を扱う部品と信号を受け渡す部品が、それぞれ異なる役割を持つと考えると、製品群を整理できます。[5]
HDDは、増え続けるデータを蓄える事業
ストレージ事業の中心は、HDD(ハードディスクドライブ)です。同社はクラウドデータセンター用のニアラインHDDのほか、PC、監視カメラ、NASなどに向けた製品を展開しています。NASはネットワークにつないで使う保存装置。ニアラインHDDは、大規模データセンターなどで大量のデータを保存する用途の製品です。[6]
大容量化の具体例が、2026年3月31日に発表された「M12シリーズ」です。東芝は、SMR方式で30〜34TBの容量を持つHDDを開発し、特定顧客向けのサンプル出荷を開始したと発表しました。これは評価用の段階を示す発表で、一般向けの店頭販売や量産開始と同じ意味にはなりません。容量は可変容量フォーマット適用時の範囲で、利用できる容量は環境やフォーマットによって変わります。[7]
SMRは、屋根瓦のように記録トラックの一部を重ねて密度を高める方式です。重なる部分があるため、データを不規則に書き換えると転送速度が低下する場合があります。M12のSMR製品は、サーバーなどのホスト側で書き込みを管理する方式を採用しています。容量だけでなく、使う側のシステムとの適合が必要になるわけです。[7]
AIとの接点も整理できます。半導体側はサーバーに電気を供給する電源、HDD側はデータを保存する装置に関わります。同社を知るうえでは、AIの計算そのものに加え、その周囲の電力と保存容量を見ることが手がかりになります。[4][7]
製造拠点を見ると、事業の変化がわかる
東芝デバイス&ストレージは、製品開発だけでなくグループの製造拠点も持っています。加賀東芝エレクトロニクスでは、300mmウエハー対応のパワー半導体新製造棟が2025年2月に量産を開始しました。ウエハーは半導体をつくる基板で、300mmはその直径です。[8]
HDDの製造では、東芝情報機器フィリピン(TIP)の動きが参考になります。1996年にPC向け2.5型HDDの拠点として操業を始めた同社は、2026年10月2日、ラグナ・テクノパーク工場で増設したラインからニアラインHDDを初出荷したと発表しました。PC向け製品を主に扱ってきた拠点に、データセンター向けの生産ラインを増設した形です。[9]
TIPは2027年度に、2025年度比で記憶容量ベースの年間生産能力を約2倍にする目標も示しています。ここでいう約2倍はHDDの台数や売上高ではなく、記憶容量ベースの能力目標です。大容量化と製造能力の増強を、同じ数字にまとめて読まないことが、事業理解につながります。[9]
キオクシアとの違いと、半導体事業の統合協議
東芝デバイス&ストレージと、旧東芝メモリのキオクシアは別の会社です。東芝は、メモリ・SSDを開発・製造・販売するキオクシアとその関係会社について、2018年6月から独立した企業活動を開始したと案内しています。東芝メモリからキオクシアへの社名変更は2019年10月です。HDDを手がける東芝デバイス&ストレージと、メモリ・SSDを担うキオクシアを分けると、社名の混同を避けられます。[10]
もう一つ、会社を調べる際に押さえたいのが半導体事業の再編です。東芝は2026年3月27日、東芝デバイス&ストレージとロームの半導体事業、三菱電機のパワーデバイス事業の事業・経営統合について、協議開始に向けた基本合意書を締結したと発表しました。[11]
この発表は、検討開始段階の合意であり、取引条件や統合の具体的内容は未決定と明記されています。この記事では、その発表を統合完了とは扱いません。また、発表対象の半導体事業を、同社のHDD事業まで含む話へ広げないことも必要です。企業研究で後続の発表を読む際には、対象事業、最終契約、実行時期を別々に確かめると整理できます。[11]
まとめ
- 同社を理解する軸は、電力・信号を扱う半導体と、データを蓄えるHDD。 製品を使う自動車、工場、データセンターまで見ると、部品の役割がつながる。
- AIとの接点は、電源と保存装置にもある。 部品の性能改善率を施設全体の省エネ率に置き換えず、容量と書き込み方式などの条件を一緒に読むことが大切だ。
- 会社と事業、計画と実績を分けて見る。 キオクシアとの違い、生産能力の単位、サンプル出荷、統合協議の段階を確かめると、企業の発表を具体的に理解できる。
出典・参考
本記事は2026年10月15日に確認した公開資料に基づく解説です。製品の実機評価や独自取材は行っていません。
- 東芝デバイス&ストレージ「事業内容」
- 東芝デバイス&ストレージ「基本データ」(従業員数は2026年3月時点)
- 東芝デバイス&ストレージ「カーボンニュートラルな未来をつくるパワー半導体とは?」
- 東芝デバイス&ストレージ「80V耐圧NチャネルパワーMOSFET発売について」(2026年6月30日)
- 東芝デバイス&ストレージ「2チャネルスタンダードデジタルアイソレーター発売について」(2026年10月1日)
- 東芝デバイス&ストレージ「当社ストレージ製品の概要」
- 東芝デバイス&ストレージ「SMR方式で30〜34TBを実現したニアラインHDDのサンプル出荷開始について」(2026年3月31日)
- 東芝デバイス&ストレージ、加賀東芝エレクトロニクス「加賀東芝エレクトロニクスおよび姫路半導体工場においてオフサイトPPAモデルを導入」(2025年6月17日)
- 東芝情報機器フィリピン、東芝デバイス&ストレージ「操業30周年記念式典と増設ラインからのニアラインHDD初出荷」(2026年10月2日)
- 東芝「メモリ・SSDに関するご案内」
- 東芝「半導体事業の事業・経営統合に関する協議開始に向けた基本合意書を締結」(2026年3月27日)






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