「休みたい」を、毎晩着る服にする
BAKUNEは就寝時に着るリカバリーウェアだ。TENTIALは休息を支える機能と肌ざわり、着心地を組み合わせた商品として展開している。2026年秋冬には特殊繊維「SELFLAME」をポリエステル、ナイロン、レーヨンの3種類で展開し、BAKUNEのリカバリーウェアで扱ってきた素材は累計23種類になった。[2]
機能が同じように説明されていても、肌に触れる感覚や暖かさの好みは人によって違う。素材や形を選べるようにすることで、買い手が日常着として選ぶ余地をつくっている。特定の機能だけで購入が決まると考えず、毎晩着続けられるかという衣服の条件も商品開発に含める発想だ。
支払うのは商品を購入する個人で、基本は購入時の代金だ。公式ストアには、長袖とロングパンツを組み合わせた「BAKUNE スウェット メンズ」が参考税込価格26,840円で並ぶ。スムースライトスウェットのウィメンズ上下セットは31,900円だ。衣服を一組販売するたびに売上が生まれ、支払いの頻度は購入者の買い替えや買い増しによる。価格は2026年11月2日の掲載内容による。[3]
2万円台からという価格では、普通の部屋着より高くても選ぶ理由が必要になる。TENTIALは休息を支える機能を商品価値として示し、着心地や贈り物としての選びやすさを加えている。ただし、売上の伸びが個々の購入者の疲労回復や睡眠改善の大きさを示すわけではない。事業の評価では商品の売れ方と健康効果の検証を分けて考える必要がある。
売上は伸びた。ただし比較する期間をそろえる
332.18億円は、TENTIAL全社の2025年9月〜2026年8月の12カ月間の売上高だ。BAKUNEの衣服だけの売上ではなく、寝具やサンダル、ワークウェアなども含む。このうちリカバリーウェアは273.72億円で、全社売上の82.4%を占める。[1]
同社は決算期を1月から8月へ変更しており、直前の2025年8月期の会計期間は7カ月だった。そのまま12カ月の実績と比べると、成長を大きく見せてしまう。決算説明資料は2024年9月〜2025年8月の売上を193.89億円に組み直し、同じ12カ月の長さで71.3%増と示している。この前年値は会社が再構成した参考値で、監査法人の監査・レビューを受けていない。[1][4]
購入件数にも伸びがある。自社ECと他社ECを合わせたオンラインの2026年6〜8月ののべ購入件数は277,792件で、前年同期間の206,667件から増えた。これは注文の件数であり、購入者の実人数や新規顧客数ではない。同じ期間の購入単価は21,349円から21,754円への変化にとどまる。値上げや高価格商品の比率だけでなく、購入の機会そのものが増えていると読める。[1]
ECで買える商品に、店で触れる理由をつくる
TENTIALはオンライン中心の販売に、国内の店舗で商品に触れる接点を重ねている。2026年1月には阪急うめだ本店の売場を拡張し、2月1日にリニューアルすると発表した。生地の質感やサイズ感を確かめたい買い手にとって、店舗はネットの商品説明だけでは埋めにくい判断材料を提供する。[5]
10月15日の決算説明資料では、9月10日開店のルミネ有楽町店も含め、直営店は22店と説明している。オンラインでは自社ECと他社ECを使い、直営店舗と卸売も組み合わせている。[1]
集客も一本ではない。検索連動型などのデジタル広告で購入につなげながら、テレビCMで商品やブランドを知ってもらう。クリスマスや母の日、父の日に合わせた販売促進も行う。休息への需要に、贈り物を選ぶ機会を重ねる売り方だ。会社は、既存顧客比率の上昇やブランド名での検索増加が、広告による顧客獲得の効率向上につながったと説明する。個別施策の効果を切り分けた数字は公表していない。[1][4]
これらの決算数値は全社の実績で、国内向け売上だけを切り出した金額ではない。一方、日本の百貨店や商業施設で商品に触れる売場を増やし、販売を広げていることは、店舗展開の一次資料から確認できる。
パジャマを買った人の、次の買い物へ
衣服は一度売れば、毎月同じ額が自動的に入る商売ではない。次の売上をつくるには、別の季節向けの一着や贈り物に選んでもらうか、ほかの商品を買ってもらう必要がある。
TENTIALが広げているのは、同じ休息の場面にある寝具だ。2026年8月期の「SLEEP」区分の売上は33.71億円。会社が同じ期間・区分に組み直した前年参考値の12.75億円に対し、約2.6倍となった。リカバリーウェアを入口に、掛け布団などで睡眠環境を整える商品へ展開している。[1]
会社は既存顧客への追加販売を成長要因に挙げる一方、寝具のテレビCMでは新規顧客の獲得も進んだと説明している。寝具の売上増を、すべてパジャマ購入者の買い増しと決めつけることはできない。顧客一人あたりの継続購入率や、追加販売の利益額は、この資料からはわからない。[1]
商品を増やす際に、すでに顧客へ伝えてきた価値や販売の接点を使える。これが新規事業を考えるうえでの利点だ。ただし、掛け布団は衣服より大きく、配送にも費用がかかる。売る商品を広げれば、そのまま同じ利益率で伸ばせるわけではない。
粗利72.8%でも、広告と在庫に資金が要る
TENTIALの2026年8月期の売上総利益率は72.8%だった。商品原価を引いた段階で売上の7割超が残るが、その後に集客、配送、販売や運営の費用がかかる。
決算説明資料では、売上に連動する広告費が58.97億円、ブランド投資の広告費が35.23億円。合計は約94.2億円で、売上高の約28.4%を広告に投じている。さらに荷造運賃15.82億円、人件費29.83億円、店舗関連費用9.05億円などを負担し、最終的な営業利益率は11.5%となる。粗利率と営業利益率の間には大きな差がある。[1]
運営には商品企画や素材開発に加え、広告の運用、店舗での接客、受注と配送を回す人手が要る。直接販売する事業では、集客から受注、購入後の対応までを運営する必要がある。顧客と直接つながる販売経路には、販売手数料だけでは測れない負担がある。
在庫の負担も見逃せない。2026年8月末の商品在庫は57.85億円で、前年8月末から39.90億円増えた。同社は秋冬商戦の欠品を防ぐための積み増しと説明しているが、売れる前に商品を用意する資金が必要になる。その年の営業活動によるキャッシュフローはプラス3.16億円で、営業利益38.18億円より小さい。在庫増加や税金の支払いなどが影響している。[1][4]
会社は低価格帯への参入が増えていることも認めている。リカバリーウェアの2026年6〜8月の売上成長率は前年同期間比27.2%で、通期の63.3%より低い。どちらも会社の組み直した前年参考値との比較だ。伸びが続いていても、競争や成長率の変化を見ながら投資を調整する段階に入っている。[1]
同じような服をつくることはできても、素材の選択肢、国内の売場、ブランド名で探してもらう認知、既存顧客への販売経路を同時にそろえるには時間と費用がかかる。模倣しにくさを考えるなら、商品の見た目だけでなく、この積み重ねを見る必要がある。もっとも、それが競合に対する永続的な優位を保証するわけではない。
別の事業で試すなら、行動と採算をセットで測る
TENTIALから応用できる発想は、顧客がすでに行っている行動に価値を組み込み、同じ場面の隣接商品へ広げることだ。たとえば通勤やデスクワークの道具でも、毎日の使い方を大きく変えずに、不便を減らす商品を考えられる。以下は編集部による検証案で、成功が確認された方法ではない。
最初は対象を一つに絞る。顧客に今の不満を聞き、試作品を生活の中で使ってもらう。機能を説明したときの好感だけでなく、実際に使い続けるか、提示した価格で購入するかを確かめたい。
売る段階では、広告費と配送・返品対応を引いた後に、いくら残るかを測る。売上や粗利が増えても、顧客を集めるたびに費用がかさみ、在庫の支払いが先行すれば資金は足りなくなる。小ロットで始めれば、売れる色やサイズを確かめながら、余る在庫を抑えられる。
隣接商品は最初の商品を使った顧客の不満や次の要望から試す。二つ目も買う人がどれだけいるか、新規顧客向け広告に頼らず届けられるか、配送や接客の負担がどう変わるかを調べる。休息への需要を毎晩使う商品に結びつける発想は、別の事業にも応用できる。その検証には、使われ方と購入意思に加え、販売にかかる費用と資金の出入りまで含めたい。
まとめ
- TENTIALは「毎晩着替える」という既存の行動に休息の価値を組み込み、素材・着心地・店舗での体験を通じて選ぶ理由をつくっている。
- 2026年8月期の売上は332.18億円。同じ12カ月に再構成した前年参考値比で71.3%増だが、前年値は監査・レビューを受けておらず、全社売上には衣服以外も含まれる。
- 衣服から寝具へ広げる際には、既存の認知や顧客接点を使える。一方、約94.2億円の広告費や在庫の積み増しが示すように、成長には採算と資金繰りの管理が伴う。
出典・参考
- TENTIAL「2026年8月期 通期決算説明資料及び中期経営計画」(2026年10月15日)。比較期間と監査の注記は5頁、費用は9〜10頁、商品別売上は11〜13頁、販売経路・購入件数は14〜15頁、在庫と資金は18〜19頁。
- TENTIAL「26年秋冬『BAKUNE』、リカバリーウェアは累計23種類の素材展開へ」(2026年9月10日)。カバーは同発表の着用イメージ写真。写真・画像:© TENTIAL Inc.
- TENTIAL公式オンラインストア「新商品一覧」(2026年11月2日確認)。価格・商品構成は確認時点の掲載内容。
- TENTIAL「2026年8月期 決算短信〔日本基準〕(非連結)」(2026年10月15日)。会計期間、全社実績、ギフト施策、貸借対照表、キャッシュフローを確認。
- TENTIAL「大阪初の常設店舗・TENTIAL 阪急うめだ本店が2月1日(日)にリニューアルオープン」(2026年1月30日)。国内店舗の売場拡張と店舗イメージの出典。







読者のコメント (0)
コメントを残す