到着を知ると、荷物を先にそろえられる
「バース」とは、トラックが荷物を積み降ろしする場所を指す。MOVO Berthでは、運送会社などが到着枠を事前に予約し、受け入れる側が車両の受付や呼び出し、作業の進み具合を管理する。受付だけの利用もでき、到着後の待ち時間や荷役時間を記録して、どこで滞っているかを調べられる。[2]

名古屋市の鉄鋼メーカー、中部鋼鈑の事例を見てみよう。最大1枚9トン超の鋼材を扱い、トラックは構内17カ所のバースを回って集荷していた。Hacobuが掲載した2026年7月の顧客講演によると、到着順の運用から予約制へ変え、製品・置場情報を持つ社内システムとMOVOをAPIで連携させた。APIは、システム同士が情報をやり取りする仕組みだ。[3]
15分単位で、どの車両がどこに何を積みに来るかが分かれば、荷役担当者は先に製品を準備できる。同社が報告した平均の荷待ち・荷役時間は、110分から29分へ短縮した。積み込みなどの作業を含む数字で、比較した期間や対象台数の詳細は掲載事例に示されていない。予約枠の調整やドライバーへの説明も併せた改革であり、ソフトを入れるだけで同じ成果が出るという意味ではない。[3]
ここで売っているのは、時間枠を選ぶ機能だけではない。相手が来る前に準備できるようにして、工場と運送会社の両方が失っていた時間を減らす仕組みだ。
誰が、何に、いくら払うのか?
MOVOは原則として工場、倉庫、物流センターなどの拠点単位で契約する。Berthの料金も1拠点あたりで、公式ページの月額下限は3万円から、税別だ。利用機能などで費用が変わるため、予約・受付や追加機能をすべて含む一律料金ではない。[1][4]
| 費用・契約の項目 | 公開されている条件 |
|---|---|
| 月額利用料 | 1拠点あたり3万円から。価格は税別、詳細は利用内容に応じて相談 |
| 初期費用 | 初回導入企業の初回拠点に限り0円。追加拠点は別途確認が必要 |
| 操作サポート・更新 | 基本料金に含む。追加要件やオプションは個別確認 |
| 無料試用・短期利用 | 原則として受け付けていない |
料金・条件は2026年10月26日時点の公式料金ページによる。[4]
支払うのは、受け入れ拠点の混雑や受付業務を改善したい導入企業だ。一方、日々の予約や受付では、取引先の運送会社やドライバーも使う。費用を払う企業の社内だけで操作が完結しないところに、この事業の難しさがある。
それでも荷主側に支払う理由がある。到着が読めれば、荷役の人員や設備を準備しやすい。長く待たせる現場を改善することは、運送会社に運び続けてもらうための条件にもなる。中部鋼鈑も輸送を引き受けてもらえるかという危機感から改革を進めていた。[3]
4万7,000超の利用事業所は、何を示すか?
Hacobuは2026年9月30日の発表で、同年8月末時点のMOVO導入企業が1,100社超、利用事業所が4万7,000カ所超と公表した。先の9,900から4万4,000への拡大に続き、物流の現場で利用範囲が広がっている。[5]
ただし、利用事業所数はMOVOの導入拠点と、MOVOを利用する事業所のIDを合計した数字だ。4万7,000すべてが月額料金を払う契約拠点という意味ではない。また、導入企業数と利用事業所数はMOVO全体の公表値で、Berth単独の有料顧客数や売上高ではない。[5]
需要の背景には運転以外の時間を減らす必要がある。国土交通省が2026年7月に公表した調査では、2025年4〜8月の通常期の代表的な1運行について、平均拘束時間10時間13分のうち、荷待ち・荷役等が2時間2分を占めた。全国調査の平均と個別拠点の成果は直接比較できないが、積み降ろしの前後が改善対象であることは分かる。[6]
待たされる本人の努力だけでは減らせない時間を、受け入れ側が管理できるようにする。そこに、物流の効率化を求める企業が継続して支払う理由が生まれる。
広がるほど、導入とサポートにも人手が要る
MOVOのサイトには資料請求、問い合わせ、紹介セミナーの窓口があり、課題を知った企業が相談できる。その後は、専任担当者が業務フローを確認し、設定と運用ルールを設計する。社内外への説明、練習、本稼働を経て、稼働から1〜2週間後を目安に効果や定着度を振り返る。[7]

コールセンターは年中無休の6〜21時に対応し、協力会社やドライバーも直接問い合わせられる。契約先だけを教えれば済むサービスとは、必要な支援の範囲が違う。予約機能を内製する場合や他社サービスを選ぶ場合にも、画面の機能と併せて、取引先への周知や運用変更を誰が担うかを比べる必要がある。[7]
その支援経験は別の拠点へ広げる際にも役立つと考えられる。同社によると、本社主導の複数拠点導入が増え、100拠点以上をまとめて導入する例もある。現場ごとの運用を理解しつつ、全拠点で展開できるようにする力は、予約画面だけをまねしても得にくい。[1]
一方で、提供側にも費用がかかる。開発・保守だけでなく、営業、導入設計、説明、問い合わせ対応が必要だ。Hacobu自身も、受注増に伴って社内の依頼作業が膨らみ、複数拠点の受注処理をまとめる業務改革を行った。公式noteではこの改革によって月140時間の工数を削減したと報告している。これはHacobu社内の成果であり、導入顧客の削減時間ではない。[1]
利用が増えても、一件ずつ人手をかけ続ければ利益は残りにくい。拠点展開と同時に、提供する側の作業を標準化できるかが採算を左右する。導入数の増加だけから、MOVOの利益率や収益の伸びまでは判断できない。
予約の先へ広げるには、現場のルールを変えられるか?
MOVO Berthは製品そのものを顧客ごとに改造するサービスではない。個別要件への対応が必要なら、Hacobuの別事業による開発支援がある。通常の本稼働までの目安も契約から1〜2カ月だ。導入企業には、設定作業に加え、運送会社との調整や現場への説明を担う人が必要になる。[2]
到着枠を設けても、実際の荷役能力を超えて予約を受けたり、予定変更が共有されなかったりすれば、混雑は残る。逆に、車両が少なく混雑もない拠点では、予約管理の効果より導入・運用の負担が大きいかもしれない。選ぶ基準は機能の多さより、自分たちのどの損失を減らせるかになる。
Hacobuは2026年9月、企業ごとに異なる物流データや業務をつなぐAI基盤「Hacobu X」も発表した。まず個社向けシステム開発で活用し、将来は人の確認を経ながら配車や請求などを進めるAIエージェントも構想する。会社をまたぐ業務の自動化は今後の展開であり、予約受付の導入実績と同じ段階の成果として扱うことはできない。[5]
新規事業への応用を考えるなら、複数の会社の間で繰り返される待ち時間や確認作業が手がかりになる。建設現場への搬入や、設備修理の日程調整などでも、相手の予定が分からず人や設備が遊ぶ場面はありそうだ。これは本記事から導く仮説であり、各市場で需要が確かめられたという意味ではない。
小さく検証するなら、まず一つの現場で、待機時間と、受け入れ担当者の調整時間を記録する。次に、一部の取引先と到着予定を共有し、どちらの負担がどれだけ変わるかを比べる。入力の手間や支援にかかる人件費も含め、誰が改善の価値を受け取り、継続して払うのかを確かめたい。そこで初めて、月額サービスとして成り立つ条件が見えてくる。
まとめ
- MOVO Berthは到着予約と現場の準備をつなぐ。運送会社だけでは解けない待ち時間を、工場・倉庫側が改善する事業だ。
- 利用事業所は拡大しているが、IDを含む利用範囲と有料契約数は異なる。拠点ごとの月額収入と、導入・サポートに要する費用を併せて見る必要がある。
- 別の事業へ応用する際は、会社間の調整で失われる時間に注目したい。支払う顧客と実際に使う相手の双方に、続ける理由があるかが検証の出発点になる。
出典・参考
- Hacobu公式note「ボトルネックになる前にーー成長の裏で複雑化した業務を1年がかりで紐解いた話」(2026年5月26日)原文
- Hacobu「MOVO Berth トラック予約受付サービス」(2026年10月26日確認)公式ページ
- Hacobu「中部鋼鈑株式会社|最大1枚9トン超の鋼材を、構内17カ所のバースで巡回集荷。超重量物の制約を超えた物流改革」(2026年9月4日更新、同年7月の顧客講演に基づく)導入事例
- Hacobu「MOVO Berth 料金プラン」(2026年10月26日確認)公式料金
- Hacobu「物流AI基盤『Hacobu X』を発表」(2026年9月30日)発表
- 国土交通省「トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間に関する調査結果の公表」(2026年7月10日)報道発表
- Hacobu「支援体制と導入プロセス」(2026年10月26日確認)公式ページ
カバーは物流拠点のイメージで、MOVOの導入現場ではない。写真:Giant Asparagus/Pexels(Pexels License)。









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