伸びているのは、設置台数だけではない
CHARGESPOTの国内事業では、設置場所の拡大とともに実際の利用も増えている。INFORICHが2026年5月に公表した決算短信から、日本の事業に絞って数字を整理すると次のようになる。[1]
| 指標 | 国内の実績 | 比較・注意点 |
|---|---|---|
| 月間レンタル数 | 229万回 | 2026年1〜3月平均。前年同期比36.2%増 |
| 月間アクティブユーザー数 | 122万8000人 | 同期間平均。前年同期比30.9%増 |
| バッテリースタンド | 6万548台 | 2026年3月末。2025年末比764台増 |
| 国内セグメント売上高 | 約28.2億円 | 2026年1〜3月の3カ月合計 |
| 国内セグメント利益 | 約5.85億円 | 同期間。全社共通費用の配賦前の営業利益 |
レンタル数は延べ回数であり、229万人が利用したという意味ではない。また、国内セグメント利益には全社共通費用が配賦されていない。グループ全体の最終利益や、1台ごとの利益と混同しないことが必要だ。
なお、INFORICHは2026年6月16日に上場を廃止している。本記事で成長の根拠に使うのは、公表済みの2026年1〜3月実績と2025年の資料であり、2026年10月時点の売上や利益を示すものではない。[2]
利用者から料金を受け取り、店舗には置く理由をつくる
CHARGESPOTの基本的な収入は、利用者が支払うレンタル料金だ。一方、店舗や施設はバッテリースタンドを置く場所を提供する。INFORICHの事業説明には利用料金に加え、広告主から受け取る広告枠使用料、設置先への設置料、代理店への紹介料など、複数の相手とのお金の流れが示されている。[3]
通常料金は利用時間に応じて変わり、公式料金表では30分未満165円、30分以上1時間未満330円、1時間以上3時間未満430円。長く借りれば料金が加算される。一部のスタンドには特別料金があるため、実際には借りる際に表示される料金を確認する必要がある。[4]
継続的に利用する人向けには「CHARGESPOT Pass」がある。月額390円を最低料金とし、利用回数に応じて増え、月額上限は2340円。390円で無制限に借りられるプランではなく、利用がない月にも最低料金が発生する。1回の利用期間は48時間未満で、超過時には延長料金がかかる。[5]
では、店舗側はなぜ場所を提供するのか。公式の設置先向けページでは、設置に伴う利用料を原則0円とし、貸し出し・返却は利用者が自分で行う仕組みを案内している。店舗は、充電器やケーブルを個別に貸す手間を抑えながら、来店客の充電需要に応えられる。ただし、場所や台数によっては無償貸与できない場合があり、集客効果も立地などで異なる。[6]
料金を払う利用者と、設置を決める店舗では求める価値が違う。 利用者には外出を続けられる利便性を、店舗には接客負担を増やさずに提供できるサービスを用意する。この両方がそろって初めて、街に置ける場所が増えていく。
「置く数」より、借りたい場所と返せる場所
CHARGESPOTは、借りた場所と別の場所で返却できる。駅で借り、移動先のコンビニで返せるなら、元の場所へ戻る手間がなくなる。利用者にとっては、近くに借りられる場所があることと同じくらい、行き先に返せる場所があることが大切になる。[6]
INFORICHは設置を一定のエリアに集中させることで、認知や採算を高め、メンテナンス費用を抑える方針を説明している。審査では人通りやアクセス、営業日なども見る。利用される場所を選び、近隣の設置網とつなげる考え方だ。[3]
場所選びの具体例が、2026年9月公開の同志社大学の導入事例にある。運営会社が掲載したインタビューによると、大学側は学生が長く滞在する場所で、コンセントが少ないところを選んだ。すでにコンセントがあるラウンジではなく、エントランスに置いた建物もある。人が多いだけでなく、充電が必要になる理由まで見ている。[7]
この事例では、授業の開始や無料キャンペーンの周知に伴って利用が伸びたとも説明されている。したがって、利用増を設置場所だけの効果と断定することはできない。それでも新規事業の検討には、「人が集まるか」に加え、その場所で既存の手段では解消できない不便があるかを確かめる、という視点を持ち帰れる。
1台の売上から、補充・設置・本社の費用まで引く
無人で貸し出せても、人手のいらない事業ではない。借りられる場所と返される場所が異なれば、バッテリーの在庫は偏る。空になったスタンドへ運び、満杯の場所から回収する作業が必要になる。INFORICHは、この偏りを解消する人員の費用を「ラウンダー」として開示している。[3]
同社の2025年通期決算説明資料には、日本のスタンド1台あたりの売上と費用が示されている。2025年10〜12月の数字を円に直すと、次のようになる。月額ではなく、3カ月分の数値だ。[3]
| 1台あたりの項目 | 2025年10〜12月 |
|---|---|
| レンタル売上 | 4万9500円 |
| 広告売上 | 1800円 |
| 変動費合計 | 1万1500円 |
| 固定費合計 | 1万2900円 |
| 全社共通費 | 1万400円 |
| 営業利益 | 1万6500円 |
変動費には決済手数料、一部の設置先・代理店に支払う売上分配、バッテリーを移動する費用などが含まれる。固定費には機器の減価償却費、通信費、設置料、広告宣伝費などがある。同社の説明では、コンビニや鉄道駅などの一部にはレンタル回数にかかわらず月額の設置料を支払う。設置先が原則無料で導入できても、運営側の場所代まで無料になるわけではない。[3]
この表は同社が示した平均で、どの設置先でも同じ利益が出るという意味ではない。また、のれん償却費と無形資産償却費を除く会社独自の集計であり、開示単位での丸めもあるため、表の項目を足し引きした結果は公表値と完全には一致しない。
見逃せないのは、同四半期の1台あたりレンタル売上が前年同期比で3%減っている点だ。同社は、レンタル数は増えたものの、分母となる台数も増えたと説明する。一方、1台あたり営業利益は19%増えた。事業全体の利用増、1台あたりの売上、費用を引いた利益は、それぞれ別に見る必要がある。 [3]
充電のためにつくった接点を、広告にも使う
CHARGESPOTの設置網には充電以外の収入を得る余地もある。公式の広告サービスはスタンドの画面、アプリ、バッテリー本体を広告媒体として提供している。広告主は、充電のために立ち寄ったり、アプリを開いたりする利用者との接点に対価を払う。[8]
充電サービスを始めるために確保した場所と機器を、別の顧客である広告主にも提供する構造だ。店舗側が画面を店内のお知らせに使えることも、設置する理由になる。[6]
ただし、広告がすでにレンタルを上回る主力収益になったわけではない。前の表では、同じ3カ月間の1台あたりレンタル売上4万9500円に対して、広告売上は1800円だった。広告が伸びる可能性と、現在の収入の中心は分けて考えたい。[3]
新規事業のヒントは「小さな不便」と運営費用の組み合わせ
CHARGESPOTの事例から得られるのは、あらゆる商品をレンタルにすれば伸びる、という結論ではない。外出先で急に必要になり、持ち運べて、別の場所へ返す価値があるという条件が、このサービスには合っている。
この仕組みを別の事業で検討するなら、どこから試せるだろうか。以下の3点は編集部による仮説だ。
- 顧客が何を続けるために払うのかを決める。 「道具を貸す」だけでなく、移動や仕事、イベント参加など、何が中断されると困るのかを具体的にする。購入や持参、無料の代替手段と比べて、料金を払う理由が残るかを確かめる。
- 利用者以外の協力者にも価値を用意する。 店舗や施設の場所・人手を使うなら、来訪者の不便やスタッフの負担をどう減らせるかを考える。協力を得るための費用も採算に含める。
- 狭い範囲で、返却と補充まで試す。 近接した施設で小さく実施し、有料で使われる回数、返却のしやすさ、在庫の偏り、補充の移動時間、故障や問い合わせを記録する。取引が増えたときに、利益も残るかを確認する。
広告などの追加収入は、本体のサービスが使われ、顧客との接点ができてから検討するものだろう。最初から見込んで採算をよく見せるより、利用料金だけでどこまで運営費用を賄えるかを確かめる。そのうえで、同じ設備や場所を必要とする別の顧客を探す順序が参考になる。
まとめ
- CHARGESPOTの国内利用は2026年1〜3月の月間レンタル数で前年同期比36.2%増えた。成長は設置台数だけでなく、実際の利用でも確認できる。
- 収益を支えるのは、利用者の利便性と店舗の設置動機を両立させ、返却や補充まで運営する仕組みだ。全体の成長と、1台ごとの採算は分けて見る必要がある。
- 新規事業では、顧客が困る具体的な場面、協力者が参加する理由、運営にかかる費用を一緒に検証する。広告などの追加収入は、使われるサービスをつくった先にある。
出典・参考
- INFORICH「2026年12月期 第1四半期決算短信」(2026年5月13日、国内事業は添付資料3ページ)
- INFORICH「IRトップ」上場廃止に関する案内(2026年10月21日確認)
- INFORICH「2025年12月期 通期決算説明資料」(2026年2月13日、台あたり採算は19〜20ページ、設置基準は60ページ、収益構造は62ページ)
- CHARGESPOT「利用料金」(2026年10月21日確認)
- CHARGESPOT「定額プラン CHARGESPOT Pass」(2026年10月21日確認)
- CHARGESPOT「設置店舗募集」(2026年10月21日確認)
- CHARGESPOT「同志社大学様」導入事例(2026年9月17日)
- CHARGESPOT「サイネージ広告出稿」(2026年10月21日確認)
カバー写真:那覇空港のCHARGESPOT(2025年1月撮影)。Naha Mama Pavilionz / Wikimedia Commons、CC0。トリミング・縮小・WebP変換。写真内の表示は撮影当時のもの。







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