Euclydとは
Euclydは、オランダ・アイントホーフェンに本社を置く半導体システム企業です。Bernardo Kastrup氏とAtul Sinha氏が創業し、基盤モデル向けのAI推論インフラを開発しています。会社が掲げる製品は、AI推論用のシステム・イン・パッケージ「CRAFTWERK」と、32基をまとめたラック型システム「CRAFTWERK STATION CWS 32」です。
ここでいう推論は、学習済みAIモデルへ入力を渡し、回答や画像などを生成する処理です。学習はモデルをつくる工程、推論は利用者の要求に応え続ける工程と考えるとわかりやすいでしょう。Euclydが狙うのは後者です。
| 項目 | 確認できた内容 |
|---|---|
| 本社 | オランダ・アイントホーフェン |
| 事業 | 基盤モデル向けAI推論シリコン、メモリ、データセンターシステム |
| 中核製品 | CRAFTWERK、CWS 32 |
| 開発段階 | 最初のテストチップで設計を検証する段階 |
| 今回の発表 | 2億ユーロ超のSeries A |
投資家のEQTは、学習では構成や実験条件が変わりやすく、柔軟なGPUに合理性がある一方、推論では同じ重みを繰り返し読むため専用化の余地が大きいと説明しています。EuclydはGPU一般を否定する会社ではなく、反復回数が多い推論の費用構造を変えようとする会社です。
2億ユーロの使い道
今回のSeries Aは2億ユーロ超です。Samsung、Somerset Capital Partners、EQTが運用するScaleup Europe Fund、Innovation Industriesが共同で主導しました。EIFO、imec.xpand、Brabant Development Agency、Quadriも参加しています。ASMLを2013年から2024年まで率いたPeter Wennink氏は、取締役会長に就きます。
資金の用途として会社が挙げたのは、次の4つです。
- エンジニアリング組織の拡大
- シリコンとシステムの開発計画の加速
- エコシステム企業との連携強化
- 企業、政府系需要、大規模クラウド事業者に向けた商用展開の準備
大きな調達額は、売上や量産の成功を意味しません。半導体は設計後に製造、パッケージング、ソフトウェア整備、顧客環境での検証が続きます。EQTによると、最初のテストチップはSamsungが製造し、Euclydの計算アーキテクチャを検証します。つまり現在地は「構想だけ」より先ですが、「顧客が量産機を運用中」と言える地点より手前です。
直近のAI半導体では、設計工程そのものをAIエージェントで支援するAgentrysの事例もあります。Euclydは設計支援ソフトではなく、推論を実行するハードウェアをつくる点が異なります。
CRAFTWERKの設計
AI推論では、演算器が計算する時間だけでなく、モデルの重みや途中データをメモリから運ぶ時間と電力が問題になります。EQTは、メモリからデータを取り出して移動させる処理が、演算そのものより多くのエネルギーを使うと説明しています。Euclydの答えは、少数の汎用演算器が遠い共有メモリを取り合う構成ではなく、小さな演算器とローカルメモリを多数並べる構成です。
CRAFTWERKの公表仕様は次の通りです。いずれもEuclydによる設計目標または公表値であり、第三者が量産機で測定した結果ではありません。
| 公表項目 | CRAFTWERK SiP | CWS 32 |
|---|---|---|
| 構成 | 16,384基の128-way SIMDプロセッサ | CRAFTWERK 32基、CPU 16基 |
| 演算性能 | FP16で8PFLOPS、FP4で32PFLOPS | FP4で1.024EFLOPS |
| メモリ | 1TB UBM | 32TB UBM |
| メモリ帯域 | 8,000TB/秒 | 256PB/秒 |
| 消費電力の目安 | 約3kW | 約125kW |
SiPは複数の部品をひとつのパッケージに収める仕組み、SIMDは同じ命令を多数のデータへ同時に適用する方式です。UBMはEuclydが「Ultra Bandwidth Memory」と呼ぶ独自メモリ構想です。演算器の近くへ大容量メモリを置き、次の処理に必要なデータを前もって届けることで、共有部分の混雑を減らそうとしています。
AI需要がストレージや電力、冷却まで押し広げる構造は、HDD不足と供給網の記事でも解説しました。Euclydの設計は、その制約を「より多くの装置を置く」だけで解かず、1トークンあたりの移動と電力を減らす方向から向き合います。
数字をどう読むか
Euclydは、主要な既存ソリューションに比べて電力効率と1トークンあたりの費用を100倍改善できると掲げています。ただし、この100倍は会社の主張です。比較した機種、モデル、バッチサイズ、精度、遅延、測定方法が揃った独立ベンチマークは、今回確認した資料では示されていません。
読者が公表値を読むときは、少なくとも次の3層を分ける必要があります。
- 設計仕様:演算器数、メモリ容量、帯域、想定電力
- テストチップ:設計した回路が実際のシリコンで動くか
- 商用実績:特定モデルを顧客環境で動かした速度、費用、安定性
Euclydは1から2へ進む段階にあります。公表ページにはLlama 4 Maverickで毎秒2500万トークンというCWS 32の想定値もありますが、実機の顧客環境で再現された数字とは書かれていません。投資家が説明する「高頻度の推論に専用設計が合う」という論理と、Euclydの製品がその市場で勝つという結論は別です。
一方で、今回の調達には半導体製造や深層技術に関係する投資家が入り、ASMLの元CEOが会長に就きました。資金だけでなく、製造・量産・顧客開拓のつながりを整えようとしている点は確認できます。次に問われるのは、肩書きや設計図ではなく、テストチップと顧客ワークロードの測定結果です。
導入前に見る4点
Euclydは、現時点で一般の開発者がクラウドAPIから試せるサービスではありません。導入や提携を検討する企業は、次の公開情報を待つ必要があります。
- 出荷時期と提供形態:チップ、ラック、クラウド経由のどれで提供するか
- 対応ソフトウェア:主要なAIフレームワークやモデルをどう移行するか
- 実測条件:精度、遅延、同時利用数を揃えた第三者ベンチマークがあるか
- 量産と運用:歩留まり、冷却、保守、供給能力をどこまで確保できるか
Euclydとは、GPUの新しい商品名ではありません。推論に特化し、演算器とメモリの距離を縮めることで、トークン生成の費用と電力を下げようとする半導体システム企業です。2億ユーロ超の資金で量産と商用化へ踏み出しますが、今の判断材料は設計仕様とテストチップの計画が中心です。採用候補として評価するなら、「100倍」という見出しより、実機で何を、どの条件で測ったかを見たほうが確かです。
まとめ
- Euclydは、AIの学習ではなく反復回数の多い推論へ特化し、演算器とメモリを近づけるCRAFTWERKを開発しています。
- 2億ユーロ超のSeries AとSamsung製のテストチップは商用化へ向けた前進ですが、量産・顧客導入の成功を示すものではありません。
- 公表スペックを評価するときは、設計値、テストチップ、第三者による実機測定を分けて確認することが重要です。




