計画の構造: 国債・国有企業・Huawei80%内製化
計画の概要は、Bloombergの独自調査と中国側政府文書に基づく。主な内容は以下の通りだ。
資金は主に超長期特別国債(10年超の国家債)と戦略産業向け国家ファンドで調達する。 データセンターの建設・運用は中国移動(China Mobile)と中国電信(China Telecom)という国有通信事業者が担う。 技術調達の方針は「国産比率80%以上」——NVIDIAやAMDを排除し、Huawei製のAIチップ(Ascend系)を中心に据える。 目標は2028年までに全国のデータセンターを相互接続した「統合コンピュートネットワーク」を構築することだ。
この計画が従来の中国AI政策と異なるのは、「消費側(AI活用)」ではなく「インフラ側(チップ・データセンター)」に国家財政を直接投入する点だ。
米国輸出規制との相互作用
2022年のBIS(米商務省産業安全保障局)によるHuawei・SMICへの半導体輸出規制、そして2023年以降のH100・A100の中国向け輸出制限は、「NVIDIAなしで高性能AIを構築できるか」という実験を中国に強制した。
答えはまだ明確ではないが、Huawei Ascend 910Cは訓練用途でH100の60〜70%程度の性能を持つとの評価がある。 不十分な性能をカバーするのが「数」だ。 2,950億ドルを使えば、性能差を台数で埋めることができる。
中国系AIスタートアップZhipu AIのGLM-5.2が2026年6月にSWE-benchでGPT-5.5を上回ったことは、このアプローチが空振りでないことを示す最初のシグナルだ。
ヒューマノイドロボット「1万台国家計画」でも中国政府の産業介入は顕著だったが、AIインフラ計画は規模で2桁上をいく。
「主権AI」という概念の具体化
地政学的文脈で重要なのは、この計画が「主権AI(Sovereign AI)」という概念を国家予算レベルで具体化した世界初の事例になる可能性がある点だ。
NVIDIAのジェンセン・ファンがVivaTech 2026で「欧州20カ所以上のAIファクトリーを構築する」と語ったのも、各国が「自国内でAIを動かす」ことへの強い需要が生まれているからだ。 欧州のケースでは民間企業(NVIDIA)が商業的動機で主権AIを推進するが、中国は国家財政と国有企業が直接担う。
この違いは単なる制度の違いではない。国家が主体であれば、商業的採算性を問わずに計算資源を積み上げられる。 米国もSandboxAQ(Alphabetスピンオフ)への5億ドルCHIPS交付金のように半導体研究を国家で支援しているが、規模と一貫性で中国計画とは質が異なる。
SandboxAQがCHIPS法案交付金でAI・量子技術の融合に取り組んでいる事例は、米国の対抗策の一端を示している。 AI覇権競争の構造は「民間企業対民間企業」から「国家バックの技術エコシステム対国家バックの技術エコシステム」へと変わりつつある。
2028年の「相互接続ネットワーク」は何を意味するか
中国の計画が目標通りに実行されると仮定した場合、2028年には全国規模のAI計算インフラが稼働する。 このネットワークは民間企業も利用できる「国家クラウドインフラ」として機能し、中国のAIスタートアップが計算資源の制約から解放される。
さらに一帯一路(BRI)経済圏への計算リソース輸出が始まれば、中国は自国内のAI産業競争力向上にとどまらず、途上国・新興国のAIインフラを担う「Global South向けAIプロバイダー」になりうる。 米国がAnthropicやOpenAIをAI外交の駒として使うように、中国はHuawei+国産AIインフラを外交の柱にする可能性がある。
日本企業への二重の影響
日本企業にとって、このシフトが直接影響するのは二つの文脈だ。
第一に、製造業・部品メーカーへの影響。NVIDIAを迂回したHuawei Ascend向け需要が拡大すると、日本の半導体製造装置・素材メーカー(東京エレクトロン・信越化学等)はどこまで対中輸出が継続できるかを再評価する必要が生じる。 米国の対中輸出規制の強化に伴い、日本企業への圧力も増している。
第二に、中国市場でのAIサービス競争。2,950億ドルのインフラを背景に、中国国産AIモデルが低価格・高性能を実現すると、日本企業が中国市場でAIサービスを展開する際の競合環境が根本的に変わる。
どちらのブロックに属するか
AIインフラは今や安全保障政策と産業政策の交差点に位置する。 どの政府の管轄下に置かれるかによって「誰が使えるか」「誰と取引できるか」が変わる。
日本はどちらの「コンピュートブロック」に属し、どちらと取引するのか——その決断を迫られる局面が、着実に近づいている。
ソース:
- China Plans $295 Billion Investment to Build Nationwide AI Data Centers — Bloomberg(2026年6月9日)
- China's $295 Billion Plan Shows It's Going All In on AI to Rival the US — Bloomberg(2026年6月12日)
- China preps $295 billion plan to fund nationwide AI buildout — Spokesman Review(2026年6月11日)
- China's AI Infrastructure Plan: $295 Billion Project — FourWeekMBA(2026年6月)