グラフェンEUVペリクルとは?
EUV(極端紫外線)露光は、13.5ナノメートルという短い波長の光で、半導体の微細な回路パターンをウエハーへ転写する。原版になるフォトマスクに微粒子が付くと、同じ欠陥が複数のチップへ繰り返し転写される。ペリクルは、マスクの前に薄い膜を置き、異物が回路パターンへ直接付くのを防ぐ部品だ。
膜は光を2回通すため、高いEUV透過率が必要になる。同時に、光を吸収して生じる熱、水素ラジカル、装置内の圧力変化に耐えなければならない。薄くすれば光は通りやすいが、破れやすくなる。この相反条件を、原子層の薄さと熱・機械特性を持つグラフェンで解こうとしている。独立した研究でも、実用サイズに近い膜では透過率だけでなく、厚さの均一性、熱安定性、化学耐久性が量産条件になると整理されている。[1][2]
| 評価項目 | なぜ必要か | 量産前に見る数字 |
|---|---|---|
| EUV透過率 | 光の損失と装置負荷を抑える | 波長13.5nmでの透過率、面内ばらつき |
| 熱安定性 | 吸収した光で膜が高温になる | 高出力照射後の変形・破損 |
| 化学耐久性 | 水素環境で膜が劣化し得る | 長時間照射後の透過率低下 |
| 機械強度 | 搬送や圧力変化に耐える | 実寸膜での破損率、寿命 |
| 欠陥密度 | ピンホールや厚さむらを防ぐ | 大面積での均一性、歩留まり |
AirMembraneは何を量産しようとしている?
AirMembraneは2017年創業の材料スタートアップで、古賀義紀氏と長谷川雅考氏が創業した。2026年10月30日、第三者割当増資、三井住友銀行の融資、NEDOの支援を合わせて約8.5億円を調達したと発表した。創業後の資金調達、融資、助成金の累計は約10億円としている。今回の8.5億円はすべて株式調達ではなく、融資と公的支援を含む。[3]
資金の用途は多層グラフェンEUVペリクルの生産設備と開発体制の拡充だ。同社は2027年にパイロット生産、2028年に量産ラインを立ち上げる計画を示す。販売済み数量や顧客名、歩留まり、価格は公表していないため、「量産を開始した」「顧客採用が確定した」とはまだ言えない。
NEDO支援で確認できる範囲
NEDOは、同社の「多層グラフェンを用いた超高透過率・高耐久EUVペリクルの開発」をGX分野のディープテック支援事業に採択している。事業期間は2025〜2027年度、交付決定額は2億9,300万円である。NEDO資料は、膜の適用によって露光装置の消費電力を1〜3%削減し、歩留まり低下による廃棄ウエハーを減らす目標を示している。[4]
ここで確認できるのは、研究開発テーマ、期間、交付額、目標である。1〜3%の電力削減は量産工場で達成済みの実績ではなく、NEDO採択事業が目指す効果だ。会社発表にある「従来手法の100倍超」という合成速度も、測定条件や比較対象を示す第三者データが公開されていないため、同社の主張として扱う必要がある。[3]
公的支援を受けたことは技術の完成を意味しない。NEDOのSTSは、研究から実用化へ進むスタートアップを支える枠組みであり、2027年度までに量産へ必要な性能と工程を検証することが課題になる。
グラフェンなら薄ければよいわけではない
グラフェンは炭素原子が一層に並んだ材料で、薄さと高い熱伝導性を持つ。ただし、一層だけで実用サイズの膜を作り、欠陥なくフレームへ移すのは難しい。層を重ねれば丈夫になる一方、EUV光の吸収は増える。保護膜を加えれば化学耐久性を上げられるが、透過率や熱放射への影響も出る。
過去の公開研究では、100mm角のナノメートル厚グラファイト膜を製作し、30mm角の測定領域で平均EUV透過率87.2%、相対標準偏差0.78%を報告した例がある。研究者は実用条件として90%超の透過率や、110mm×140mmの大面積でさらに小さなばらつきが必要だと整理している。これはAirMembrane製品の性能値ではなく、材料開発全体が直面する難しさを示す研究例である。[2][5]
量産判断では、最高値より次の再現性が重要になる。
- 実用サイズの膜を何枚作り、何枚が規格を満たしたか
- 面内の透過率と膜厚が、製造ロットをまたいで揃うか
- 高出力EUVと水素環境で、どれだけの時間性能を保てるか
- フレームへの固定、搬送、装置への組み込みで破損しないか
- 既存ペリクルを含む総コストと、装置稼働率への影響はどうか
半導体メーカーにとっての判断材料
ペリクルの価値は、膜単体の性能だけでは決まらない。透過率が上がれば同じ露光量を得るための光源負荷を下げられる可能性がある。一方、膜が途中で破れれば装置停止やマスク汚染の損失が大きい。半導体メーカーは、電力削減と歩留まり改善の期待を、寿命、交換頻度、装置互換性、供給安定性と合わせて評価する。
AirMembraneの2027年パイロット生産は、この評価に必要なサンプルを安定供給できるかを見る節目になる。2028年の量産ラインでは、研究室で作れるかではなく、顧客が必要とする枚数を同じ規格で届けられるかが問われる。資金調達額より、パイロットの歩留まり、顧客評価、量産装置の能力を追う方が事業の進捗を判断しやすい。
AI半導体の性能競争はチップ設計だけでなく、露光装置や材料の供給にも広がる。設計側の技術については「Vinciとは?半導体設計を速める物理AI」、推論用チップの実装条件は「FuriosaAI RNGDとは?電力効率2倍の条件」で扱っている。
まとめ
- グラフェンEUVペリクルは、マスクを異物から守りながらEUV光を通す膜で、透過率、熱、化学耐久性、機械強度を同時に満たす必要がある。
- AirMembraneは約8.5億円を調達し、2027年のパイロット生産と2028年の量産ラインを計画するが、顧客採用や量産歩留まりはまだ公表されていない。
- 今後は調達額や最高性能ではなく、実用サイズでの均一性、長時間耐久、製造歩留まり、顧客評価を追うことが量産性の判断につながる。
出典・参考
- Membranes「Investigating the Degradation of EUV Transmittance of an EUV Pellicle Membrane」2023年
- Advanced Materials Interfaces「Graphite Pellicle: Physical Shield for Next-Generation EUV Lithography Technology」2023年
- AirMembrane「約8.5億円の資金調達を実施」2026年10月30日
- NEDO「株式会社エアメンブレン」最終更新2026年4月21日
- RSC Advances「Fabrication of a 100×100mm² nanometer-thick graphite pellicle」2022年







読者のコメント (0)
コメントを残す