Circuit Mindとは?回路の生成と検証を分けるAI
Circuit Mindは英国のCircuit Mind Limitedが提供する電子設計自動化プラットフォームだ。一般的な文章生成AIへの指示だけで回路を作る方式とは異なる。部品データ、組織の承認部品リスト、設計ルール、レビュー用チェックリストを構造化し、生成と検証へ使う。
主な役割は二つに分かれる。
| 製品 | 担う工程 | 人が確認すること |
|---|---|---|
| ACE | 要件から回路構成、部品選定、回路図、BOMの初稿を作る | 要件、未対応部品、コスト、供給性、安全性 |
| AVE | データシート、設計ルール、チェックリストとの不一致を探す | 指摘の妥当性、例外判断、最終承認 |
公式サイトは、数万件の部品データシートをAIが扱える「Digital Twins」へ変換し、Cadence、Altium、Siemens Xpedition、部品・フットプリントライブラリ、サプライチェーン、ERPデータと連携すると説明する。顧客のデータと知的財産は顧客に帰属し、AIモデルの学習に使わないとしている。[2]
この構成では、生成した回路を同じAIの「もっともらしい説明」だけで正しいと扱わない。部品ごとのデータシート、許容値、組織の規則へ照らす検証層を分ける。ただし、AVEが指摘を出しても、製品の安全性や規制適合を自動で保証するわけではない。最終判断は顧客の技術者へ残る。
LANL評価では中難度が4時間13分になった
Circuit Mindの効果を数字で確認できる資料が、LANLの「AI Assisted PCB Design to Increase Productivity and Efficiency」だ。2025年11月に公開承認された報告書で、中難度と高難度の2種類の基板をACEで設計した。Circuit Mind自身の顧客紹介だけでなく、公的研究所名義の評価記録を読める。[1]
中難度の設計には、マイクロコントローラー、メモリー、音声、LED、RTC、CAN、RS-232、電源系統が含まれた。従来の手作業見積もりは60〜80時間。ACEを使った合計時間は4時間13分で、内訳には初期設定、AIのsolve、生成後の人手修正が含まれる。完成度は90%で、残り10%は人が仕上げた。
| LANL中難度評価 | 時間・比率 |
|---|---|
| 従来の手作業見積もり | 60〜80時間 |
| 初期設定 | 1時間15分 |
| AIによるsolve | 58分 |
| 生成後の手修正 | 2時間 |
| 合計 | 4時間13分 |
| Circuit Mindでの完成度 | 90% |
「95%短縮」という見出しだけを見ると、設計が自動で完成したように見える。実際には2時間の手修正があり、完成度は90%だった。それでも、部品選定や回路図の初稿に数十時間かかる案件では大きい。導入時はAIの処理時間だけでなく、入力準備と手修正を含む合計時間を測る必要がある。
高難度設計では約80時間の人手が残った
同じ評価の高難度基板では結果が変わった。FPGA、DDR4、RF、トランシーバーなど、当時のプラットフォームが十分扱えない部品や設計領域が含まれたため、Circuit Mindの完成度は50%にとどまり、約80時間の人手が残った。LANLは自動化できた部分の時間を短縮しつつ、未対応部分を技術者が完成させた。[1]
| 比較 | 中難度 | 高難度 |
|---|---|---|
| 主な構成 | MCU、一般的な周辺回路 | FPGA、DDR4、RF等を含む |
| Circuit Mind完成度 | 90% | 50% |
| 人が残す作業 | 生成後の修正2時間 | 約80時間 |
| 読み取れること | 定型ブロックで効果が大きい | 未対応部品が多いと効果が限定的 |
この差が導入判断の中心になる。自社の過去設計を部品と難度で分け、成功例の短縮率を同じ条件の案件だけに当てはめる。電源、通信、一般的なマイコン周辺のように再利用しやすいブロックから始め、FPGAや高速メモリー、RF、安全規格が関わる領域は別の検証計画にする。
半導体設計そのものを物理AIで高速化する別のアプローチは、TechCreateの「Vinciとは?半導体設計を速める物理AI」で扱っている。Vinciがチップ内部の物理設計を扱うのに対し、Circuit Mindは電子製品の回路構成と部品選定、回路図、検証を対象にする。
AVEは再スピンを防ぐが、承認者にはならない
回路基板の設計では、初稿が速くても、試作後に電源、部品定格、ピン接続、供給性の問題が見つかれば作り直しになる。AVEはデータシート、レビュー用チェックリスト、組織の設計規則を使い、そうした不一致を試作前に見つける製品として発表された。Circuit Mindは設計時間を最大90%、BOMコストを最大25%減らせると説明するが、これは会社が複数の利用例から示す最大値で、全顧客の平均ではない。[3]
AVEを導入するなら、警告の総数よりも次の結果を記録したい。
- 人のレビュー前に見つかった重大な接続・定格ミス
- 誤検知と見逃しの比率
- 未対応部品や読めないデータシートの数
- ルール登録と保守にかかった時間
- 試作後の再設計と廃棄を減らせたか
AIの指摘が増えるだけでは、レビュー時間は短くならない。どの警告を止める条件にし、誰が例外を承認し、判断根拠をどこへ残すかまで決める必要がある。製造業でAIを使う場合も、最終責任と変更履歴を人が追える状態が重要だ。
公開定価なし、年額契約を前提にPoCを設計する
Circuit Mindのサイトには公開価格表がなく、「Request a Demo」から相談する。利用規約では、顧客とCircuit MindがOrder Formを結び、Web型SaaSプラットフォームとAPIを利用する契約になっている。別段の定めがなければ料金は年額で前払いされる。したがって、無料のセルフサービスツールとしてすぐ試す製品ではない。[4]
2026年10月28日に発表した新規資金は2,500万ドルで、1,850万ドルのSeries Aと、未公表だったシードを含む。累計調達額は3,340万ドルになった。これは開発・販売体制を広げる資金であり、導入企業のROIを証明する数字ではない。[3]
公開価格がないため、PoCでは「何時間減るか」を契約前に測る。たとえば過去に完成した3案件を、一般的なマイコン基板、電源・通信が多い基板、FPGA・高速メモリーを含む基板に分ける。入力準備、AI処理、手修正、レビュー、ECADへの受け渡しまで計時し、年間件数を掛ければ上限予算を作れる。
| PoCで残す数字 | 判断できること |
|---|---|
| 入力データの準備時間 | 導入前整備の負担 |
| ACE生成後の手修正時間 | 実際の自動化率 |
| AVEの重大指摘・誤検知 | レビュー品質 |
| 未対応部品の割合 | 対象案件の広さ |
| 再スピン回避の件数 | 試作費と納期への効果 |
導入は「自動化率」より対象範囲で決める
Circuit Mindが向くのは、回路設計の件数が多く、承認部品、設計ブロック、レビュー規則を組織として整理できるチームだ。特に、既存製品の派生機種や、同じ電源・通信ブロックを繰り返す仕事は初稿短縮の余地が大きい。
反対に、一品ごとに未対応部品や特殊規格が多い場合、AIへ入力する準備と手修正が増える。まず過去案件で対象範囲を測り、設計者の最終承認を残したまま、定型部分だけを自動化するのが安全だ。日本の回路基板産業や工程の基礎は「日本電子回路工業会とは?」も参考になる。
まとめ
- Circuit MindはACEで回路の初稿を作り、AVEでデータシートや組織ルールとの不一致を探す。生成と検証を分ける点が特徴だ。
- LANL評価では中難度が4時間13分まで短縮した一方、高難度では約80時間の人手が残った。短縮率は部品と案件難度に左右される。
- 公開定価がないため、過去案件を使うPoCで入力準備、手修正、誤検知、再スピン回避を測り、年額契約の上限を決めたい。
出典・参考
- Los Alamos National Laboratory「AI Assisted PCB Design to Increase Productivity and Efficiency」LA-UR-25-30842 Rev.1、2025年11月14日
- Circuit Mind「The AI platform for electronics design」2026年10月30日確認
- Circuit Mind「Circuit Mind Announces $25M in Funding to Accelerate the Rise of Electronic Design Intelligence」2026年10月28日
- Circuit Mind「Terms and Conditions」2026年10月30日確認









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