「米国なしで安全を守る」という意思表示だ
中東地政学を専門とするカイロ大学政治学者のアハマド・ファルーク教授は「習近平の発言は、中国がパックス・アメリカーナに代わる秩序形成者として中東に登場するという明確なシグナルだ」と分析した。
米国がイラン軍事施設への爆撃を繰り返す中で、中国はイランとの経済的パートナーシップを維持しつつ、同時にサウジアラビアやエジプトとも関係を深めている。この「全方位外交」が今回の宣言の背景にあると見られている。
ホルムズ海峡の航行は、イラン侵攻以降の緊張で大幅に制限されてきた。タンカーの通過数は以前の3分の1程度に落ち込んでおり、中東産原油の調達コストが上昇。原油価格は1バレル90ドル台で推移している。日本はこの状況でエネルギーコストの上昇と電気代の高騰に直面している。
「中国海軍の展開も選択肢の一つ」との見方が出ている
エジプト訪問に同行した中国人民解放軍海軍の幹部が、エジプト海軍との合同演習を提案したと複数のメディアが報じた。中国は2008年から長年にわたりソマリア沖での海賊対処に艦隊を派遣してきており、紅海・アデン湾域での作戦遂行能力を蓄積している。
「ホルムズ海峡での展開は現時点では具体的なスケジュールが決まっていない」と中国軍関係者は述べた。しかしアナリストの間では「具体化すれば米国との海上プレゼンスが中東で正面衝突する初の事例になる」との見方が広まっている。
米国防総省はこの動きに対して「中国がいかなる役割を果たそうとも、ホルムズ海峡の航行安全に関する主要な責任は引き続き米国が担う」と声明を出した。ワシントンとカイロの間に生まれた外交的な緊張感は今後も続く見通しだ。
日本の原油輸入の9割が通る海峡の行方
日本にとってホルムズ海峡は原油輸入の約9割が通過する生命線だ。中国が秩序形成に乗り出す場合、日本はその恩恵を受けつつも米国との同盟関係との兼ね合いという難しい外交判断を迫られる。
経済産業省の担当者は「航行安全の確保は誰が行うにせよ歓迎だが、日本はあくまでルールに基づく国際秩序の維持を重視する」と述べた。中国による「安全保証」が実態として何を意味するのか、日本政府内では慎重な分析が続いている。
エジプト訪問は約10年ぶりで、アフリカ大陸最多の人口を持つエジプトとの関係強化は、アフリカ全体への影響力浸透という中国の長期戦略とも連動している。スエズ運河沿岸の経済特区への投資拡大も同時に表明された。
「一帯一路とホルムズを一体化させる構想だ」
インド太平洋研究所の鈴木健一郎上席研究員は「今回のエジプト訪問は単なる外交儀礼ではない。インフラ投資・貿易・海洋安全保障を三位一体で中東・アフリカに広げるという中国の大構想の一環だ」と指摘する。
習近平は会談で「一帯一路は中東・アフリカとアジアをつなぐ現代の絹の道だ」と述べ、インフラ投資と安全保障を一体化させる構想を改めて訴えた。この発言を踏まえると、ホルムズの「保証」は経済的な結びつきを担保するための布石とも読める。
サウジアラビアはこの動きに対して慎重な立場を取っている。サウジ外務省の高官は「中国のイニシアチブは歓迎するが、ホルムズ海峡の安全は地域全体の協調によって確保されるべきだ」と述べた。イランと複雑な関係にあるサウジにとって、中国がイランの協力のもとで海峡の秩序を形成することへの警戒感は拭えない。
中国にとってホルムズ海峡は輸入原油の約40%が通過する重要な航路だ。自国の資源確保という観点からも、海峡の安全保障に関与する動機は一貫している。過去の「不干渉原則」から「利益保護のための積極関与」へと、中国の外交哲学が転換しつつあるとの見方も広まっている。今回の宣言がどこまで実効性を持つのか、今後の動向が注目される。
まとめると、習近平のエジプト訪問は中国が中東の海洋安全保障において米国の代替プレーヤーとして台頭しようとする意思の表れだ。ホルムズ海峡は日本の原油輸入の9割が通る生命線でもあり、この地政学的変化の行方は目を離せない。
出典
- 中国外交部 エジプト訪問関連声明(2026年9月2〜3日)
- カイロ大学 アハマド・ファルーク教授コメント(2026年9月3日)
- 米国防総省 声明(2026年9月3日)
- シカゴ商品取引所 原油先物価格(2026年9月4日)



