WeatherNext 3とは
WeatherNext 3は、Google DeepMindとGoogle Researchが開発した確率的な全球気象モデルです。ひとつの未来を断定するのではなく、64通りの予報をまとめて計算し、気温や風、雨の起こりやすさを幅で示します。Googleは2026年9月3日に発表し、同日から自社製品への反映と予報データの提供を始めました。
重要なのは「最大5km」という数字を、すべての予報へ広げて理解しないことです。公式仕様では、地上観測所に合わせて学習した気温と露点が約5km、地表の風や雲、日射、降水量などが約10km、上空の気温や風などが約25kmです。用途ごとに解像度が違います。
| 項目 | WeatherNext 3 | WeatherNext 2 |
|---|---|---|
| 予報の初期化 | 毎時 | 主に6時間ごと |
| 最も細かい出力 | 約5km | 約25km |
| アンサンブル数 | 64 | 64 |
| 主な入力 | 衛星観測、数値解析、地上観測 | 数値解析が中心 |
| 新しい強み | 局地的な地表変数、降水、再生可能エネルギー向け変数 | 全球の確率予報 |
この違いは、単に画像が細かくなる話ではありません。更新間隔が短くなれば、急に発達する雨雲や前線を、次の6時間周期を待たずに予報へ取り込めます。店舗、物流、発電設備など場所を持つ事業では、自社データと天気を結びつける単位も小さくできます。
6時間を待たない理由
従来の多くのAI気象モデルは、物理シミュレーションが整えた解析値を学習や初期値に使います。解析値は扱いやすい一方、作成に時間がかかります。Googleの説明ではWeatherNext 2が利用していた数値予報データには約6時間の遅れがあり、急変する雨や地表気温を追う際の弱点になっていました。
WeatherNext 3は、静止気象衛星が集める全球の画像を1時間ごとのモザイクとして直接入力します。地上観測所の値も学習目標へ加え、実際に計器が測る気温や露点へ近づける専用の出力を持たせました。処理の流れは次の4段階です。
- 静止気象衛星の最新画像と従来の数値解析を受け取る
- Functional Generative Networkという網目状のモデルで大気の変化を計算する
- 64通りの予報から平均や10、25、50、75、90パーセンタイルを作る
- 地表、上空、観測地点ごとに異なる解像度で配布する
毎時作る予報が、毎回15日先まで続くわけではありません。00、06、12、18 UTCの6時間周期は360時間、つまり15日先まで計算します。それ以外の時刻に始まる途中運転は48時間先までです。この条件を無視して「1時間ごとに15日予報が更新される」と説明すると、実際のデータ範囲とずれます。
WeatherNext 3が扱うのは気温や雨だけではありません。風力発電のハブ高さに近い100mの風速、雲の層、地表へ届く日射量も出力します。予報が外れたときの損失が大きい電力需給では、平均値だけでなく幅を持つ64通りの予報が、発電量の上振れと下振れを考える材料になります。
雨の精度はどう変わる
雨は局地性が強く、全球モデルが苦手としてきた変数です。WeatherNext 3は、NASAの衛星降水データIMERG、米国のレーダー観測MRMS、雨量計を別々の基準として学習と評価に使います。Googleの発表は、中期の確率予報でCRPSという誤差指標が、初期の予報時間帯においてIMERG比で最大60%、MRMS比で30%、雨量計比で10%改善したとしています。
| 評価先 | Googleが示した最大改善 | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| NASA IMERG | 60% | 衛星から推定した降水量との比較 |
| 米国MRMS | 30% | 米国のレーダーと雨量計を統合した基準 |
| 地上雨量計 | 10% | 地点観測との初期予報時間帯の比較 |
ここで「降水予報が一律60%正確になった」とは言えません。最大値であり、地域、予報時間、評価指標によって差が出るためです。独立系のOperational WeatherBenchでは主要モデルを共通手順で継続評価しており、発表時点でWeatherNext 3は温度、風、湿度などの総合比較で上位に位置しました。一方、Googleが「生の観測を直接使う初の高解像度全球AIモデル」とする点には、気球などの観測を先に取り込んでいたと主張する新興企業もあります。技術の先行性と、予報の使いやすさは分けて見る必要があります。
生活者が目にする変化は、Google検索、Gemini、Google Maps、Google Maps PlatformのWeather APIで順次始まります。1日以上先の降水予報は最大50%改善するとGoogleは説明していますが、地域ごとの提供状況や個々の予報の当否までは、この数字だけで保証されません。避難や航行に関わる判断では、気象庁など公的機関の警報を優先します。
データをどう使うか
開発者がWeatherNext 3の予報データを使う入口は3つです。公式クイックスタートの申請フォームにGoogleアカウントを登録し、許可リストへ追加されると、同じアカウントでGoogle Cloud Storage、Earth Engine、BigQueryを利用できます。審査は通常5〜7営業日で、既存の有料Google Cloud契約は必須ではありません。
| 提供面 | 向いている用途 | 受け取れる主な範囲 |
|---|---|---|
| Cloud Storage | PythonやHPCで生データを読む | 64メンバーを含む完全なZarrデータ |
| Earth Engine | 地図や衛星画像と重ねる | 地表変数の平均と分位点 |
| BigQuery | 店舗、物流、設備データとSQLで結ぶ | 地表変数の平均と分位点 |
データの利用料として独立したWeatherNext 3価格は、公式ページに示されていません。契約が不要という説明は、BigQueryのクエリ量、Cloud Storageの転送、Earth Engineの商用利用まで無料になることを意味しません。試す際は、使う提供面の無料枠と従量料金を別に見積もる必要があります。
ライセンスも時刻で分かれます。1時間前より新しいデータと未来の予報には、リアルタイム気象予報の実験データ規約が適用されます。1時間以上前の履歴データはCC BY 4.0です。どちらも公的な警報ではなく、情報提供目的の「現状有姿」です。顧客向け機能へ組み込む場合は、表示方法、出典、障害時の代替データ、公的警報への導線を先に決めておくべきです。
もうひとつの境界は、モデルそのものです。オープンソース案内によれば、WeatherNext 3は予報サービスとして提供され、重みやコードは公開されません。自社データを入れてオンデマンド推論できるGoogle Cloudの管理対象モデルも、現時点ではWeatherNext 2です。WeatherNext 3を「ダウンロードして社内で動かせる新モデル」と受け取らないよう注意が必要です。
読者が選ぶ3つの道
WeatherNext 3は、同じ技術でも利用者によって入口が違います。一般利用者はGoogle製品の予報更新を待てばよく、API利用者はGoogle Maps Platformの提供条件を確認します。自社の需要、物流、発電量を天気と結びたい分析担当者は、BigQueryかEarth Engineのデータ申請が最短です。独自の初期値で気象モデルを動かしたい研究者は、公開済みのWeatherNext 2や他のオープンモデルを選ぶことになります。
- 旅行や日常の判断:Google検索、Gemini、Google Mapsで更新後の予報を確認する
- 事業データとの分析:WeatherNext 3のデータ利用を申請し、SQLならBigQuery、地図ならEarth Engineを選ぶ
- 独自推論や再現研究:WeatherNext 3ではなく、重みとコードが公開された旧モデルを検討する
Google Mapsが場所検索を会話へ広げた経緯は、TechCreateのAsk Mapsと3Dナビの解説で整理しました。WeatherNext 3は、その地図に入る情報の更新速度を上げる動きです。また、AIが自然災害予測の計算を改善する別の道筋はAlphaEvolveの1年で、気象AIと電力需給の接点はAI電力危機の解説で確認できます。
WeatherNext 3が変えたのは、予報を作る速さと細かさだけではありません。完成した天気図を見る利用者と、予報の分布を自社データへ結ぶ利用者を、同じモデルの出力がつなぐようになりました。次に問われるのは、精度の数字よりも、外れたときに人がどの情報へ戻るかを含めてサービスを作れるかです。
まとめ
- WeatherNext 3は最大5km、毎時初期化、64通りの予報を特徴とします。ただし変数ごとに5〜25kmの違いがあり、15日予報は6時間周期の運転に限られます。
- 衛星と地上観測を直接使うことで雨や局地的な地表変数の改善を狙います。最大60%という値は特定の基準と条件での誤差改善であり、すべての地域の的中率ではありません。
- 開発者は申請後にBigQuery、Earth Engine、Cloud Storageからデータを使えます。一方、WeatherNext 3の重みとオンデマンド推論は未提供なので、データ利用とモデル運用を分けて選ぶ必要があります。
出典・参考
- Google「Introducing WeatherNext 3」
- Google for Developers「WeatherNext 3」
- Google for Developers「Quick start: Accessing WeatherNext forecasts」
- Google for Developers「Open source models」
- Earth Engine Data Catalog「WeatherNext 3 0.05°」
- Operational WeatherBench「Methodology」
- TechCrunch「Google's latest AI weather model gives you no excuse to forget your umbrella」


