「危機的水準を超えた」
きっかけは2月下旬に始まった対イランの軍事作戦である。
報道によれば、イラン側の弾道ミサイルによる反撃は複数回にわたった。迎撃に使われた弾数は、平時の消費とは桁が違う。
高高度迎撃システムのTHAADについても、この期間に約150発の迎撃弾が撃たれたと当局者は説明している。
パトリオットの在庫は、もともとウクライナ支援で削られていた。そこに中東での大量消費が重なった形になる。
長距離地対地ミサイルのATACMSも同じく不足している、と当局者は述べている。
「事実ではない」と国防総省
国防総省の報道官を務めるショーン・パーネルは、この報道を明確に否定した。
「主張は誤りである」とし、「大統領が選んだ時と場所で攻撃するために必要なものは、すべて揃っている」と述べている。
NATOの上級軍報道官である米陸軍大佐のマーティン・オドネルも、同じ日に「そのようなことはない」と語った。NATOはパンチを受け止められる、という言い方だった。
否定は明確である。ただ、どちらの発言も「何発ある」には触れていない。
在庫数は各国とも公表しない類いの情報なので、外から検証する手立てはほとんどない。当局者側は匿名で、公式側は実名で、正反対のことを言っている。
読む側にできるのは、どちらの言い分にも公開された裏づけがついていないと理解しておくことくらいだろう。
安い攻撃と高い迎撃
在庫の話が重いのは、迎撃という行為の費用構造にある。
飛んでくる側の弾道ミサイルや自爆型ドローンは、量産すれば単価が下がる。攻撃側は数で押せる。
迎撃する側のパトリオットPAC-3は、1発が数億円規模とされる。撃ち落とすたびに、安いものを高いもので消していくことになる。
しかも1つの脅威に対して2発を撃つ運用が珍しくない。命中率を上げるためである。
つまり在庫は、想定より速く減る。設計上そうなっている。
作る速度は変えにくい
減った分を作れば済む、という話にもならない。
固体燃料ロケットモーター、赤外線シーカー、特定の半導体。迎撃弾の中身には、供給元がひと握りしかない部品が並んでいる。
製造元のロッキード・マーティンは生産能力の引き上げを進めてきた。ただ、工場を建て、人を育て、部品の調達契約を組み直す工程には年単位の時間がかかる。
戦争の消費速度は月単位で動く。生産の増強は年単位で動く。
この差が、在庫の議論をやっかいにしている。
日本の空にも同じ算数がある
日本にとって、これは遠い倉庫の話ではない。
航空自衛隊もペトリオットを運用している。保有数は公表されていないが、同じ部品を同じ供給網から調達する構図は変わらない。
米国の在庫が薄くなれば、生産ラインの割り当てをめぐる順番待ちは長くなる。日本の追加調達も、その列に並ぶことになる。
さらに、迎撃弾は「持っているだけ」で意味を持つ装備でもある。相手に「撃っても止められる」と思わせられるかどうかが抑止の中身だからである。
在庫が薄いという報道そのものが、抑止の材料を削る側面がある。当局が強い言葉で否定した理由も、そのあたりにあるのかもしれない。
まとめ
- AP通信は8月27日、欧州の米軍パトリオット在庫が「危機的水準を超えた」ところまで減っていると報じた。対イラン作戦での大量消費が背景にある
- 国防総省報道官のショーン・パーネルとNATOのマーティン・オドネル大佐は、いずれも報道を否定した。ただし残量そのものには触れていない
- 迎撃弾は狙われる側の兵器より単価が高く、1つの脅威に複数発を使う。在庫は構造的に速く減る
- 生産の増強には年単位の時間がかかる。日本の追加調達も同じ供給網の順番待ちに並ぶことになる
出典・参考
- US military faces 'beyond critical' shortage of Patriot missiles in Europe — France 24
- AP Exclusive: U.S. Patriot missile stocks in Europe 'beyond critical' due to Iran war, officials say — PBS NewsHour
- US Patriot Missile Stocks in Europe Are 'Beyond Critical' Due to Iran War, Officials Say — Military.com



