社内報の先に、日報や申請がある
富士シティオでは経営メッセージの配信、売り場の写真や改善提案、スタッフ紹介、マニュアルの集約にTUNAGを活用している。2025年11月から段階的に導入を進めたと、スタメンは説明する。社内情報を読むだけでなく、現場から書き込める仕組みに移している。[1]
導入理由として挙げられているのは、一人に一つのアカウントを発行する管理体制、目的別の投稿フォーマット、導入後の継続支援だ。自由投稿だけに頼らず、店舗自慢やアイデア募集といった用途をあらかじめ用意できる。新しいアプリを配っても、何を書けばいいかわからなければ投稿は増えない。何を投稿するかを決めるところに、支援の仕事が生まれる。[1]
店舗や工場、配送の現場では、全員が同じ時間にパソコンを開くわけではない。TUNAGは、勤務時間や拠点が異なる従業員が個人のスマートフォンからも使えることを、利用拡大の理由に挙げる。会社への関心や働く意欲を指す「エンゲージメント」の向上と、毎日の業務を同じアプリで支える狙いだ。これは提供企業の説明であり、導入すれば一律に離職率が下がるという実証ではない。[2]
誰が、何に支払っているのか?
TUNAGの支払者は導入企業だ。従業員一人ひとりに有料会員登録を求めて集金する消費者向けサービスとは、契約の単位が異なる。公式料金ページでは、初期費用と月額費用があり、利用人数や活用方法によって金額が変わる。定額の公開料金表はなく、個別見積もりとなっている。[3]
ただし、実際の収益規模を知る手掛かりはある。2026年6月末の平均MRRは同社の開示で19万9,000円。顧客1社あたりの平均的な月次継続収益を見る指標であり、新規契約の見積価格や最低利用料ではない。前年同月末は20万円で、顧客数の増加と単価の上昇が常に同時に進んでいるわけでもない。[4]
収益は次の二つに分けるとわかりやすい。
| 収益の区分 | 顧客が購入するもの | 売上の性質 |
|---|---|---|
| プラットフォーム | TUNAGの利用と初期導入 | 利用料は継続収益、初期費用は一時的な収益 |
| プロフェッショナルサービス | 採用・人事・社内運用などへの支援 | 契約に基づく継続収益と、単発の支援収益 |
スタメンの説明資料には、評価制度の設計、研修、採用支援、各種コンテンツ制作、バックオフィス業務代行などが、周辺サービスとして示されている。アプリの利用料に加え、顧客の組織課題を手伝うことでも売上が発生する。すべてが標準の月額料金に含まれるという意味ではない。[4]
2026年4〜6月のTUNAG事業の売上は約9.79億円で、前年同期比25.6%増。そのうちプラットフォーム収益は約9.12億円、プロフェッショナルサービス収益は約6,729万円だった。事業全体の売上高に占める継続収益の割合は88.2%。88.2%は売上の構成比であって、顧客が契約を更新した割合ではない。[4]
1,500社への成長を、どう読むか?
スタメンは2026年9月15日、利用中企業数が1,500社を突破したと発表した。2022年8月の500社から約4年で3倍になり、直近は年間250〜300社の純増が続いているという。170万IDというユーザー規模も公表しているが、ID数を有料契約社数や毎月使う人数へ置き換えることはできない。これらは同社公表のサービス全体の数値であり、国内・海外別の内訳は示されていない。[2]
決算の同じ時点同士でも成長を確認できる。2025年6月末の1,195社に対し、2026年6月末は1,460社で265社増えた。6月末の継続収益を12倍して年換算したARRは34.9億円。将来1年間の確定売上や、過去1年に計上した売上とは異なる指標だ。[4]
国内の導入先では富士シティオのようにパート・アルバイトまで情報を届けたい企業や、外出先から日報を承認したい企業に使われている。スタメンは人手不足や人材の流動化によって、従業員の定着や働きやすさへの投資需要が高まったと説明する。ただ、需要の背景と、個別の契約を獲得できた理由は同じではない。導入事例を読むと、日常のどの作業を変えられるかが選定理由になっている。[1][2]
押印のために戻る仕事を減らす
水道事業などを手掛ける佐賀県のヤマトカンキョウでは、紙の日報を帰社後に書き、複数の上長が順に押印する運用が負担になっていた。2026年6月2日の公表事例では、全社員へ社用スマートフォンを支給し、日報や運行記録をTUNAGへ移したという。管理職も外出先から承認でき、押印のために待つ時間を減らしている。[5]
この事例でスタメンは人件費や用紙代を含め年間約200万円のコストを削減したと紹介する。月平均20〜25時間あった1人あたりの残業が、ほぼ全員30分以下になったという数値もある。ただし発表はTUNAGの導入とその他の業務改善を組み合わせた結果としている。アプリ単独の削減効果ではなく、利用料や端末費用を差し引いた投資回収額は示されていない。[5]
同社はTUNAG導入前から、10年以上の離職率ゼロを維持していたとも説明されている。したがって、この会社を「TUNAGによって離職をなくした成功例」にするのは誤りだ。ここで確かめられるのは、もともと定着率の高い会社にも紙の承認業務の負担があり、その改善に使われたという点である。[5]
新規事業へのヒントになるのは、抽象的な「働きがい」を掲げるサービスが、日報や承認という具体的な用事も引き受けていることだ。日々開く理由と、会社や仲間の情報が同じ場所にある。閲覧を呼び掛けるだけでは届きにくい情報を、毎日の仕事の中で目にする設計と読める。
売るにも、定着させるにも人手がかかる
TUNAGの公式サイトでは、資料請求や無料デモから活用提案へ進み、初期設計と利用者向け説明会、本格運用後の専属担当者による支援につなぐ流れが示されている。顧客が申し込んだ後にも仕事は続く。アカウントを発行すれば売上だけが積み上がるモデルではない。[3]
集客にも費用を投じている。2026年4〜6月のTUNAGの主要広告宣伝費は約1.32億円で、Web広告、展示会、認知獲得施策などを含む。同期間のグループ全体の営業利益率は11.2%だった。TUNAGの売上成長と、複数事業を含むグループの採算は区別して読む必要がある。[4]
販売現場の姿は、商談獲得ツールimmedioが公開したスタメンの導入事例にも表れている。同社マーケティング責任者の説明ではWeb施策に加え、展示会、ダイレクトメールなどを使って商談をつくっている。販売担当者と顧客が対話し、使い方を理解して契約する経路だ。immedio側が販売促進のために公表した対談であり、商談経路についての当事者の説明だ。[6]
メッセージを送る機能だけなら、TUNAGを選ぶ理由にはなりにくい。富士シティオが評価した投稿の型や継続支援、他社の運用事例を蓄積して提案に使えることが比較すべき点になる。後発企業にとって再現しにくいのは、機能の数だけでなく、異なる現場でどの運用が定着するかを知る経験だ。ただし、それが他社にはない独占的な強みだとは断定できない。[1][2]
AIへ広げると、支援の仕事も変わる
スタメンは2026年7月から、AI活用を支援する別サービス「TUNAG AX」を提供すると発表した。発表時の料金は月額10万円(税別)から。顧客が自動化したい業務を伝え、同社が処理の設計やAIへの指示、システムの実装を担う。TUNAG本体の利用料金と混同してはいけない。[7]
たとえば申請の承認をきっかけに後続処理を動かしたり、社内マニュアルへの問い合わせにAIが一次回答したりする用途を想定している。共通基盤と標準テンプレートを用意し、標準の範囲を超える個別対応は別見積もりとする設計だ。顧客の仕事へ組み込む工程までサービスにする方向は、既存の導入支援と通じる。ただし、この発表からAXの契約数、顧客の削減時間、利益への貢献を確認することはできない。6月末までの成長を、7月開始のAIサービスの成果へ結び付けることもできない。[7]
この事業を別の業種で小さく試すなら、いきなり総合アプリを作る必要はない。以下は編集部の仮説だ。
- 一つの業種、一つの繰り返し業務を選び、誰が情報を送り、誰が確認・承認するのかを追う。
- 顧客が払える金額と、初期設定、説明、毎月の問い合わせにかかる時間を一緒に記録する。
- 開いた人数だけでなく、処理の完了数、差し戻し、未読のまま残る連絡、担当者の作業時間を導入前後で比べる。
私物端末を使う場合の費用負担や利用ルール、投稿する担当者、情報の閲覧権限も決めなければ運用は続かない。AIを使うなら、回答の誤りを誰が確認し、どの条件で人へ戻すかも検証対象になる。月額料金を得る設計と、毎月の支援を採算に合わせる設計は、同時に必要だ。
まとめ
- TUNAGは社内情報の配信と日常業務を一つにまとめ、利用料と周辺の支援で収益を得る。アプリに加えて、使い続ける運用も提供する事業である。
- 利用社数と売上は増えているが、平均MRRは前年同月末をわずかに下回る。社数の成長、単価、継続収益の構成比を分けると、事業の実像を読みやすい。
- 応用の出発点は現場の繰り返し作業を一つ減らすこと。顧客の効果と、提供側の設定・支援工数を同時に測ると、小さく事業性を検証できる。
出典・参考
- スタメン「富士シティオ、全社のエンゲージメント向上を目指し『TUNAG』を導入」(2026年4月16日)
- スタメン「TUNAG利用中企業数が約4年で3倍の1,500社に成長。利用ユーザー数は170万IDへ」(2026年9月15日)
- TUNAG「料金案内」(2026年11月6日確認)
- スタメン「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算説明資料」(2026年8月14日、資料内p.3〜4、11〜15、36)
- スタメン「10年以上『離職率ゼロ』のヤマトカンキョウ、TUNAG導入で紙の日報を廃止し年間200万円のコスト削減を達成」(2026年6月2日)
- immedio「株式会社スタメン様の導入事例」(公開日表示なし、2026年11月6日確認)
- スタメン「産業構造によるAI格差の解消へ。BPaaS型AIプラットフォーム『TUNAG AX』の提供を開始」(2026年6月29日)








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