いつもの帳票を、現場で仕上げる
SPIDER+はタブレットなどで図面を開き、写真や検査結果を図面上の位置と結び付けて管理するサービスだ。その中でS+Reportが担うのは、検査記録を帳票にする仕事である。検査する場所と記録がつながれば、後から写真を探し直したり、数字を転記したりする負担を減らせる。[3]
清水建設との取り組みでは検査対象や室名などを事前に入れておき、現場で入力する項目を減らした。複数の端末から同時に作業でき、協力会社が補修した結果も、その場で確認しやすくなる。会社の発表では、次のように仕事が変わったと説明されている。[1]
- 現場で検査結果を記録し、提出する帳票まで作成する。
- 電気・衛生・空調の各社が同じ仕組みで記録し、資料を統合する手間を減らす。
- 軽微な指摘なら、検査した日のうちに補修と確認を進められる。

使い慣れた帳票を残すことにも、導入を進める価値がある。提出する帳票には、元請会社や発注者が確認したい項目と、現場が長く使ってきた手順がある。その見た目を保ち、入力と受け渡しを変える。顧客の仕事を丸ごと作り直さず、二度やっている部分を減らすのが入り口になっている。
月額利用料と、個別の仕事で稼ぐ
スパイダープラスの主な顧客は総合建設会社であるゼネコンや、設備工事をまとめるサブコンだ。顧客企業がSPIDER+のクラウドサービスに月額の利用料を払う。この利用料が毎月の継続的な売上になる。[2]
一律の利用料金は公表されておらず、公式FAQは企業の規模や現場に合わせて提案すると案内している。利用できる端末はiPad、iPhone、PC。導入する側はサービス料金とともに、必要な端末や通信環境、操作を覚える時間も考えることになる。[4]
収入は月額だけではない。同社は図面や検査の準備などを代行する「S+BPO」と、企業ごとの要望に応じて開発やコンサルティングを行う「プロフェッショナルサービス」も提供する。これらは主に既存顧客に向け、仕事ごとに料金を得る。[2]
2026年1〜6月の売上を分けると、月額利用料などの継続的な売上は25.33億円で前年同期比8.5%増。受託開発やBPOなどの単発売上は1.08億円で、前年同期の0.26億円から増えた。共通のソフトを使ってもらいながら、顧客ごとの難しい部分は開発や代行で引き受ける。 二つの収入が組み合わさっている。[5]
ただし、単発の仕事は受注や進捗で売上の時期が動く。上期の単発売上1.08億円のうち0.89億円は4〜6月に計上された。月額サービスと同じ安定性がある収入として扱うことはできない。[5]
成長の中心は、既存顧客の使い方を広げること
スパイダープラスは国内建設業界を主な市場としている。会社が開示する全社の契約企業数は、2025年6月末の2,172社から2026年6月末の2,297社へ増えた。同じ時点の利用者ID数は7万6,694から7万8,438。累計の無料登録数ではなく、契約と利用規模を見る指標だが、ID数は利用者の実人数とは分けて読む必要がある。[2][5]
2026年6月末のARRは52.05億円で、前年同月末の48.24億円から約8%増えた。ARRとはその月の一時的な収入を除く月額利用料を12倍した、年間換算の指標である。1〜6月に実際に計上した売上高や、今後1年間の確定売上とは異なる。[5]
伸び方を詳しく見ると、2026年4〜6月に既存顧客から増えたARRが1.65億円、新規顧客からの増加が0.62億円、解約による減少が0.56億円だった。会社は、前年下期から進めていた大型商談が、既存顧客の追加契約としてまとまったことを主因に挙げている。新しい会社を獲得するだけでなく、すでに使う会社で、利用する範囲を深める成長だ。[5]
現場で一度役立てば、同じ企業の別の工事や業務にも広げやすい。一方、機能を増やしても使われなければ追加契約にはつながらない。その分かれ目が導入後の支援である。
1IDから広がった会社は、運用ルールも作っていた
福岡県のシナノ設備の事例には、SPIDER+が社内へ広がる過程が見える。スパイダープラスが2025年8月に公開した顧客インタビューによると、同社はまず1IDを導入した。担当者が改修工事で使い、写真管理に加えて風量測定などの検査機能も示すことで、工事部内へ利用が広がったという。[6]
その過程では写真やメモを増やした結果、最新の情報を見つけにくくなる失敗もあった。そこで工事が始まる前に、着手前・完成といった段階ごとのフォルダ構成や、図面に写真を結び付けるルールを決めた。必要な帳票が標準の書式では作れないときには、サポートセンターに相談して現場に合う形へ設定している。[6]
これは、ソフトを配るだけでは解けない仕事だ。どの写真を残し、誰がどこへ入力し、次の人が何を見て判断するか。使い方をそろえて初めて、便利な機能が日々の作業になる。導入顧客側にも準備や教育の時間はかかる。
清水建設の公開事例でも、協力会社を含む運用が重視されている。設備工事会社6社が関わる現場でS+Reportを使い、困り事と改善要望を一覧で共有しながら改良を続けた。見慣れた帳票を保つのは、操作を覚えやすくするだけでなく、品質管理で確認する項目を引き継ぐ意味もある。[7]
これらは提供会社が公開した顧客事例で、全顧客に同じ効果が出るという証明ではない。それでも、選ばれる理由と、使いこなすために必要な仕事は具体的に分かる。導入支援は売った後のおまけではなく、利用が広がる条件の一つなのだ。
顧客と作る強みは、開発の負担にもなる
スパイダープラスが売る相手は、単独で仕事が完結する会社ではない。元請、設備工事会社、協力会社、発注者の間で情報が動く。会社は決算説明会で、複数企業をまたぐ多様な要求に応える必要があるため、一社だけの内製では対応しにくいと説明している。競合を上回ると独立に確認した評価ではないが、製品を作る範囲を考えるうえで示唆がある。[8]
競争相手は同種の施工管理ソフトだけではない。紙とExcelを使い続ける方法、顧客が自社向けに開発する方法もある。その中で同社は現場の検査機能と帳票、複数社間の運用をまとめ、顧客との共同開発で足りない部分を埋めていく。
販売にも既存の顧客接点を使う。2026年8月の決算説明で同社は提携したインフォマートの商品を同社顧客へ提案し、受注が出ていると説明した。両社で営業に同行する一方、機能の連携は段階的に進める方針だ。すでに現場で関係を持つ相手へ、隣接する業務を提案する。ただし、提携の受注額やSPIDER+の顧客獲得単価は開示されておらず、販売効率の優位性までは分からない。[8]
顧客ごとの要望に応えるほど、開発の手間は増える。2026年4〜6月には、利益率が相対的に低い受託開発案件の計上もあり、売上総利益率は前四半期の74.1%から72.4%へ下がった。新たな売上が増えることと、利益率が上がることは同じではない。[5]
AIは、すでにある検査の手順へ入れる
スパイダープラスは、鴻池組が使う「KOCoチェック」の仕上検査に、音声入力AIを共同開発した。部屋のどこに、どんな傷や不具合があるかを話すと、図面上の検査記録へつなげる仕組みだ。既存の検査アプリで、手入力が集中する工程を変えようとしている。[9]

鴻池組は試験運用に先立つ共同計測で、従来の仕上検査機能に比べて作業時間が33%短くなったと発表した。ただし、対象人数や測定回数、作業ごとの内訳は示されていない。2026年6月の発表は同社の特定現場での試験運用開始を指し、同発表での一般提供の想定時期は2026年冬〜2027年春ごろだった。すべての利用者が使える機能や、全社の業務時間が33%減る効果としては読めない。[9]
AIを入れるだけで、開発投資が回収できるわけでもない。2026年1〜6月の連結営業利益は8,966万円と黒字に転じた一方、販売費・一般管理費は18.45億円かかっている。さらに、開発の優先順位や使用見込みを見直した結果、ソフトウェア仮勘定の一部について約3,879万円の減損損失を計上した。開発中の資産の価値を引き下げたということだ。顧客の仕事に深く入る戦略にも、作った機能が使われないリスクは残る。[2][5]
別の現場で試すなら、入力から提出までを測る
スパイダープラスの仕組みから応用できるのは、現場で情報を集めた後、別の人へ渡すために同じ内容を整え直している仕事を探す発想だ。たとえば、保守点検の報告や、工場での検査記録が候補になる。以下は編集部の検証案であり、実施済みの事業ではない。
最初は一つの帳票と一つの現場に絞る。見た目を大きく変えず、現場で入力した内容を提出まで通して使えるようにする。その際には、入力だけの速さで判断しない。
- 記録から提出・承認までの時間は減ったか。
- 確認の差し戻しや、相手側の入力し直しは増えていないか。
- 初期設定と説明に何時間かかり、次の現場でも同じ仕組みを使えるか。
この三つを確かめたうえで、利用者が毎月払ってでも続けたいか、支援する人件費を含めて成り立つかを見る。共通に使える部分と、個別に開発費を受け取る部分も分けておく。学びの中心は機能の数ではない。自社の画面の中だけでなく、顧客が仕事を終えるところまで手間を減らせるかである。
まとめ
- スパイダープラスは図面・写真・検査と帳票作成をつなぎ、月額利用料と個別の開発・代行で収益を得る。使い慣れた書式を保つことも、導入を進める価値になる。
- 契約企業数とARRは前年から増加し、既存顧客の追加契約が伸びを支えた。操作説明や運用ルール、協力会社との調整までが、利用を広げる条件になる。
- 新規事業で試すなら、一つの帳票を入力から提出まで通して改善する。時短だけでなく、手戻り、導入支援の費用、次の現場でも使えるかを確かめたい。
出典・参考
- スパイダープラス「S+Reportが清水建設の設備試運転帳票に対応」、2025年12月9日、PR TIMES。原典
- スパイダープラス「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」、2026年8月12日。原典
- スパイダープラス「S+Report」公式機能ページ。2026年11月4日確認。原典
- スパイダープラス「よくある質問」。2026年11月4日確認。原典
- スパイダープラス「2026年12月期 第2四半期 決算説明資料」、2026年8月12日。売上区分はPDF15頁、ARR・企業数・ID数は10〜13頁、事業モデルは30頁。原典
- スパイダープラス「SPIDERPLUSの機能を駆使して、業務効率アップと労働時間の削減を目指す」シナノ設備導入事例、2025年8月8日。原典
- スパイダープラス「個の時短から現場全体の最適へ 共に目指す『より良い働き方』」清水建設導入事例、2026年2月3日。原典
- スパイダープラス「決算説明会質疑応答書き起こし」、2026年8月13日。2026年8月12日の説明会、PDF4〜6頁。原典
- 鴻池組「鴻池組開発アプリ『KOCoチェック』に『仕上検査音声入力AI機能』を追加」、2026年6月15日、PR TIMES。原典








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