何が起きたのか
ピュー・リサーチ・センター(6月23日付)は、36カ国の4万2151人を対象にした調査結果を発表した。調査は2026年2月8日から5月13日にかけて行われた。最も目を引く数字は、トランプ大統領の世界における指導力を信頼すると答えた人の割合である。36カ国の中央値で23%にとどまった。多くの国で、前年より信頼が低下した。
他の指導者との比較が、評価の低さを際立たせる。調査でトランプ氏への信頼は、フランスのマクロン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領のいずれよりも低かった。比較対象となった主要な指導者のなかで、トランプ氏より評価が低かったのは、イスラエルのネタニヤフ首相だけである。西側の同盟国の指導者だけでなく、対立する国の指導者と比べても、信頼の数字は見劣りした。
この比較の意味は重い。習近平氏やプーチン氏は、米国と対立する陣営の指導者である。その両者よりも、米国の大統領への信頼が低い。これは単なる人気の問題ではない。世界の人々が、誰の指導力を信じ、誰の判断に従うかという、影響力の地図に関わる。米国は長く「自由世界の盟主」を自任してきた。その地位を支えてきたのは、軍事力だけでなく、各国からの信頼だった。対立国の指導者に信頼で劣る状況は、その地位の土台が揺らいでいることを示す。
調査の規模も、結果の重みを支える。36カ国で4万人を超える人々に尋ねた大規模な調査である。一部の国の特殊事情では説明できない、世界規模の傾向が浮かぶ。しかも調査期間は2026年2月から5月で、イラン戦争の開始とほぼ重なる。戦争という大きな出来事のさなかに、世界が米国をどう見ているかを切り取った。数字は、その時々の空気を映す鏡である。
米国そのものへの評価も下がった。米国に好意的な見方は、過去1年で多くの国で減った。Axios(6月23日付)によれば、インドネシア、イタリア、ナイジェリア、南アフリカ、韓国、トルコでは、好感度が2桁の幅で落ち込んだ。地域や経済状況の異なる国々で、そろって評価が下がった点に重みがある。特定の地域に限った現象ではない。米国への視線が、世界規模で冷えている。
落ち込んだ国の顔ぶれにも注目したい。韓国は米国の同盟国であり、イタリアは欧州の主要国である。インドネシア、ナイジェリア、南アフリカは、新興国として存在感を増す国々だ。同盟国でも、成長著しい新興国でも、米国への好感が下がった。これは、特定の立場の国に限った反発ではない。先進国から新興国まで、幅広い層で米国への見方が冷えている。世界の人々が、米国の現在の姿勢に距離を感じ始めている。その広がりが、今回の調査の特徴である。
欧州の冷え込みは、とりわけ深い。ピューによれば、調査対象となった欧州10カ国すべてで、トランプ氏が世界の問題で正しく対処すると信頼しない人が過半数を占めた。うち8カ国では、およそ4分の3かそれ以上がこの見方を示した。長く米国の最も近い同盟者だった欧州で、指導力への不信がここまで広がった。大西洋をまたぐ信頼関係に、深い亀裂が走っている。
欧州の不信は、安全保障の文脈でも重い。欧州の防衛は、北大西洋条約機構(NATO)を通じた米国との結びつきに支えられてきた。その米国への信頼が4分の3規模で失われれば、欧州は自前の防衛をどう固めるかを真剣に考え始める。関税をめぐる摩擦も、欧州の対米感情を冷やした。経済と安全保障の両面で、欧州と米国の距離が開きつつある。戦後の国際秩序を支えてきた最も太い絆に、変化の兆しが見える。これは一過性の不満では済まない可能性がある。
一方で、評価が分かれる国もある。コロンビア、ハンガリー、イスラエル、フィリピンの4カ国では、トランプ氏への評価が他の指導者より高かった。米国への視線は一様ではなく、国ごとの事情や政権の立場によって濃淡がある。世界全体では評価が下がるなかでも、特定の国では支持が保たれている。信頼の地図は、単純な反米一色では描けない。
この4カ国に共通点を探すと、各国の国内政治や対米関係の事情が見えてくる。指導者の政治的な立場がトランプ政権と近い国、安全保障で米国に強く依存する国などである。世界全体の評価が下がるなかでも、自国の利害がトランプ政権の方針と重なる国では、支持が保たれる。評価は理念だけでなく、損得の計算でも動く。だからこそ、信頼の地図は国ごとに塗り分けられる。一律に語れないことが、世論調査の難しさであり、面白さでもある。
「信頼できる相手」という指標も、調査の柱である。指導者個人への評価とは別に、米国という国を安定した協力相手と見るかどうかを尋ねている。この数字も、過去1年で下がった。指導者は選挙で代わるが、国への信頼はより根深い。それが下がるということは、米国という存在そのものへの見方が変わりつつあることを意味する。一時の政権への評価を超えた、構造的な変化の兆しである。
背景:これまでの経緯
評価低下の背景には、トランプ政権の外交姿勢がある。同盟国への関税圧力、国際的な枠組みからの距離の取り方、そして2026年2月に始まったイラン戦争。これらが積み重なり、米国を「信頼できる相手」と見る視線を細らせた。同盟を重んじるより、取引と力を前面に出す外交が、各国の警戒を呼んだ面がある。米国の振る舞いが、米国への評価を直接に左右している。
関税をめぐる摩擦は、その典型である。トランプ政権は同盟国にも関税の圧力をかけ、貿易を交渉の道具に使ってきた。相手が同盟国であっても、経済的な利害では容赦しない。この姿勢は、米国を予測しにくい相手だと印象づけた。長く築いてきた経済の協力関係が、政権の判断ひとつで揺らぐ。各国は、米国との取引に以前ほどの安心を感じられなくなった。経済の不確実性が、信頼の低下に拍車をかけた。
イラン戦争は、その象徴になった。米国とイスラエルによる対イラン軍事行動は、中東に新たな混乱を持ち込んだ。国連の調査機関は、ガザの子どもへの戦争の影響について深刻な被害を指摘し、イスラエルはこれを強く否定した。戦争をめぐる評価の分裂が、米国への視線にも影を落とす。力による解決を選んだ米国の姿勢は、支持と反発の両方を呼んだ。
調査期間がこの戦争の時期と重なっていた点は、結果を読むうえで重要である。世論調査は2026年2月から5月にかけて行われた。戦争が始まり、各地で混乱が広がるさなかである。人々の米国への評価には、この戦争への見方が色濃く反映されている。戦争が支持を集める出来事であれば数字は上がり、反発を呼べば下がる。今回の低下は、力を前面に出した米国の選択への、世界の反応という側面を持つ。数字は、その瞬間の世界の感情を写し取っている。
米国内でも、戦争への異論が表面化した。米上院は、対イランの軍事行動を止める決議を可決した。共和党からも4人が造反し、議会が大統領の戦争遂行に歯止めをかける意思を示した。決議は象徴的なものだが、大統領の判断に対する内側からの異議である。外からの不信と、内からの異論が、同時に米国の指導力を問うている。
歴史を振り返ると、米国の信頼は何度か揺れてきた。だが、そのたびに回復してきた面もある。政権が代われば、外交の姿勢も変わる。世論調査の数字は、その時々の政権への評価を強く反映する。今回の低下も、トランプ政権の外交への評価という側面が大きい。とはいえ、国への信頼が連動して下がっている点は、政権交代だけでは戻りにくい。一度離れた信頼を取り戻すには、行動の積み重ねが要る。回復は可能だが、自動的ではない。
同盟国の不安も募る。ロシアは、プーチン氏とトランプ氏が昨年8月にアラスカで開いた首脳会談での「了解事項」を米国が履行していないと不満を表明した。米国の約束がどこまで守られるのか。その疑問は、敵対する国だけでなく、同盟国の側にもある。米国が方針を頻繁に変えれば、相手は長期の約束を信じにくくなる。信頼は、一貫性の上に築かれる。その土台が揺らいでいる。
ここで問われているのが「ソフトパワー」である。軍事力や経済力が相手を従わせる力だとすれば、ソフトパワーは相手から進んで信頼され、協力を引き出す力である。米国は戦後、自由や民主主義という価値観、文化、そして同盟への信義によって、世界を束ねてきた。このソフトパワーは、目に見えないが強力な資産だった。各国が米国に協力したのは、強制されたからではなく、米国を信じられたからである。その信頼が細れば、米国は同じ目的を達するのに、より多くの力とコストを使わざるをえなくなる。
評価低下が現実の不利益につながる点も見逃せない。米国が国際的な合意や協力を取りつけようとするとき、相手国の世論が冷えていれば、その国の政府は米国への協力に慎重になる。世論の支持がなければ、政治家は動きにくい。信頼の低下は、外交交渉の現場で具体的な抵抗となって表れる。同盟の結束や、有事の協力にも影を落とす。目に見えない資産の目減りは、やがて目に見える形で外交力を削っていく。
世界トップメディアの見立て
各メディアの評価は、米国の「ソフトパワー」の低下という点で重なる。軍事や経済の力とは別の、信頼という資産の目減りに焦点が当たる。
ピュー・リサーチ・センター(6月23日付)は、調査の主眼を「米国が信頼できる相手だと見る人の減少」に置いた。トランプ氏個人への信頼の低さだけでなく、米国という国への評価が連動して下がっている点を重く見る。報道は、欧州での落ち込みが特に深いことを強調し、同盟関係の基盤が揺らいでいると分析した。信頼の低下は、外交の選択肢を狭める。
Axios(6月23日付)は、信頼低下が米国の外交力に与える実害に注目した。米国を信頼できる相手と見る人が減れば、同盟国の協力は得にくくなる。報道は、好感度が2桁下がった国々を具体的に挙げ、評価の悪化が幅広い地域に及ぶことを示した。米国の指導力は、相手国の世論という土台に支えられている。その土台が崩れれば、外交の実行力も細る。
The Hill(6月23日付)は、調査結果を「圧倒的に否定的」と総括した。報道は、トランプ氏への信頼が主要な指導者のなかで最低水準にあることを強調した。比較対象に対立国の指導者が含まれる点が、評価の低さを際立たせる。米国の指導者が、対立する国の指導者よりも信頼されない状況は、外交資産の損失を示す。
Newsweek(6月23日付)は、調査結果を地図で示し、信頼の高い国と低い国の分布を視覚化した。欧州で深く、一部の国で相対的に高い。地図にすると、評価の濃淡がひと目でわかる。報道は、地理的な偏りそのものが、各国の対米関係の違いを映していると読み解いた。信頼は世界に均一に分布しているわけではない。地域ごとの事情が、評価の地図を形づくっている。
各メディアは、欧州での落ち込みを共通して重く見る。長く米国の最も近い同盟者だった欧州で、10カ国すべての過半数がトランプ氏を信頼しないと答えた。8カ国では約4分の3以上に達する。大西洋を挟んだ同盟関係は、戦後の国際秩序の背骨だった。その背骨にひびが入れば、安全保障から経済まで、広い範囲に影響が及ぶ。報道は、この欧州の冷え込みを、調査全体のなかで最も深刻な兆候として扱った。
ただし、各社は評価の一様でなさにも触れる。コロンビア、ハンガリー、イスラエル、フィリピンのように、トランプ氏を相対的に高く評価する国もある。信頼の低下は世界の趨勢だが、すべての国で同じではない。各国の国内政治や対米関係の事情が、評価の濃淡を生む。報道は、反米一色という単純な図式では現実を捉えきれないと注意を促した。
数字で見る
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査機関 | ピュー・リサーチ・センター |
| 公表日 | 2026年6月23日 |
| 対象 | 36カ国・4万2151人 |
| 調査期間 | 2026年2月8日〜5月13日 |
| トランプ氏への信頼 | 中央値23% |
| 比較で下位 | ネタニヤフ首相のみがトランプ氏より低い |
| 好感度2桁減の国 | インドネシア、イタリア、ナイジェリア、南アフリカ、韓国、トルコ |
| 欧州 | 10カ国すべてで不信が過半数、8カ国で約4分の3以上 |
| 相対的に高評価 | コロンビア、ハンガリー、イスラエル、フィリピン |
日本への影響・示唆
第一に、日米同盟の土台である。日本の安全保障は、米国との同盟を基軸にしてきた。その米国が世界で信頼を失えば、同盟の価値そのものが揺らぎかねない。米国の約束がどこまで信頼できるか。その問いは、日本の安全保障の前提に関わる。同盟を補う備えとして、日本自身の防衛力や、米国以外の国との連携も改めて問われる。
ただし、これは同盟を疑えという話ではない。日米同盟は今も日本の安全保障の柱であり、その重要性は変わらない。問われているのは、その柱に寄りかかりきる姿勢の見直しである。米国の方針が以前より読みにくくなったなら、日本は自らの判断と備えの幅を広げておく必要がある。同盟を強く保ちつつ、万一に備える。その両立が、不確実な時代の現実的な構えになる。
第二に、外交の多角化である。米国一辺倒の構図は、米国の信頼低下というリスクをそのまま背負う。欧州、アジア、グローバルサウスとの関係を厚くしておくことが、リスクの分散になる。米国が頼れる相手であり続けるという前提に寄りかかりすぎない。複数の関係を束ねる外交が、不確実な時代の備えになる。日本はすでに、欧州やインド太平洋の国々との連携を進めてきた。この流れを太くすることが、一国への依存リスクを和らげる。外交も、投資と同じく分散が効く。
第三に、日本自身の信頼という資産である。米国の評価が下がるなか、日本が国際社会で保つ信頼は、相対的に価値を増す。一貫した姿勢と約束を守る実績は、目に見えない資産として効く。経済力の順位が下がっても、信頼という資産は積み上げられる。日本の立ち位置を考えるうえで、ソフトパワーの視点は欠かせない。日本は世論調査で、各国から比較的安定した評価を得てきた。この信頼を意識して育てることが、外交や経済の場面で日本の交渉力を支える。目立たないが、確かな国の資産である。
第四に、企業活動への波及である。国への信頼は、その国の企業やブランドへの視線にも影響する。米国製品やサービスへの見方が冷えれば、市場に変化が生まれる。日本企業にとっては、信頼される国の企業という立場が、競争上の利点になりうる。国の評判と企業の評判は、無関係ではない。日本ブランドが世界で保ってきた信頼は、こうした局面で改めて価値を持つ。
第五に、グローバルサウスとの関係である。調査では、インドネシア、ナイジェリア、南アフリカといった新興国でも米国への好感度が下がった。世界の成長の中心は、こうした国々に移りつつある。米国がこれらの国の信頼を失うなか、日本がどう関係を築くかは、長期の国益に関わる。経済協力や人材交流を通じて、信頼を積み上げる余地がある。米国の退潮は、日本にとって関係構築の好機にもなりうる。空いた席に、誰が座るかが問われている。
第六に、日本の発信力という課題である。信頼という資産は、放っておいて貯まるものではない。一貫した行動と、それを伝える発信があって、初めて積み上がる。日本は良質な製品や文化で評価される一方、国としての発信は控えめだった。米国の信頼が揺らぐ局面は、日本が自国の価値を世界に伝え直す機会でもある。信頼は、語らなければ伝わらない。
今後の見通し
注目点は三つある。第一に、イラン戦争の行方である。停戦が定着し、混乱が収まれば、米国への視線も和らぐ可能性がある。逆に戦争が長引けば、信頼の低下はさらに進む。世論調査がイラン戦争の時期と重なっていたことを思えば、戦争の収束は評価の回復につながりうる。外交の結果が、評価を左右する。
第二に、同盟国との関係修復である。欧州での深い不信を、米国がどう立て直すか。関税や安全保障をめぐる協議の進め方が、信頼の回復を左右する。一度傷ついた信頼を取り戻すには、傷つけた時間の何倍もの時間がかかる。一貫性のある対応の積み重ねが、揺らいだ土台を固め直す鍵になる。
第三に、米国内の政治の動きである。議会が大統領の外交に歯止めをかける動きが続けば、米国の方針は内側から修正されうる。上院が対イランの軍事行動を止める決議を可決したように、内側からの異論は方針を変える力を持つ。国内の政治が、対外的な評価にも跳ね返る。信頼の回復は、外交だけでなく内政の安定にもかかっている。世界は、米国が自らをどう律するかを見ている。
信頼という資産は、築くのに長い時間がかかり、失うのは一瞬である。今回の調査は、その目減りを数字で突きつけた。米国がこの資産をどう取り戻すか、あるいは取り戻せないのか。その行方は、米国だけの問題ではない。米国を基軸に世界と向き合ってきた日本にとっても、自らの立ち位置を問い直す材料になる。
米国が失いつつあるのは、軍事でも経済でもなく、信頼という見えない資産である。同盟を基軸とする日本にとって、それは他人事ではない。
