100超の国でStarlink向け入札の首位
TrendAIは、デジタル広告の取引記録を調べ、特定の事業者がStarlink経由の通信に偏って入札していると分析した。公開報告では事業者を「Shadow-Earth-79」と呼び、社名は伏せた。Reutersが取材した6人の関係者は、この名称がDiscover-Techを指すと説明した。[1]
同社は100を超える国でStarlink向け広告の最大入札者になった。Starlinkが禁止または制限される国も含まれる。シリア、リビア、イエメン、南スーダンでは広告全体でも最大の買い手だった。通常の消費者向け広告なら、紛争地や制裁対象地域へ費用をかけて集中する理由は乏しい。
ここでいう「首位」は、広告を見た人の数ではない。広告枠を得るための入札や落札の記録であり、同じ端末が複数回含まれる場合もある。Discover-Techが実際に何人を特定し、誰の依頼で動いたかは公表資料から分からない。
広告を表示する前に端末情報が渡る
広告は、ページを開いてから短時間のうちに複数の事業者が表示権を競う。入札要求にはIPアドレス、端末の種類、画面サイズなどが含まれることがある。広告IDや閲覧中のサイト、アプリも対象になる。
Citizen LabとConfiantの技術調査によると、Discover-Techの広告タグは表示時に同社のサーバーへ接続した。そこで利用者の識別子を送る。サーバーはIPアドレスや広告IDを基に対象を選び、対象外なら空の応答を返す。選んだ端末だけに別のJavaScriptを返せる仕組みだった。[2][3]
この方法では、利用者が広告を押す必要がない。広告が画面の裏で読み込まれた場合でも、通信は発生する。複数の広告取引で同じ広告IDやIPアドレスを集めれば、端末の接続履歴を結び付けやすくなる。時刻、地域、組織のネットワークをまたいだ動きが手掛かりになる。
Starlinkは通信を衛星へ送るため、現地の通信会社だけを見ても利用者の位置を追いにくい。だが、端末から一般サイトを開けば広告取引は通常どおり動く。Starlink由来と判定できるIPアドレスへ入札を集中させることで、衛星通信の利用者だけを広告市場から選び出せる。
入札の集中と端末感染は同じ事実ではない
Citizen Labは別の調査で、国際放送局Al Jazeeraの端末が2024年から2025年に標的となったと分析した。対象は少なくとも45台で、Candiruのスパイウェア攻撃を受けた。ネットワークログにはDiscover-Techの広告表示が残っていた。続いて端末を選別するサーバーとCandiruの指令サーバーへ接続していた。[2]
この45台はStarlink利用者の感染数ではない。Starlink向けの入札記録と、Al Jazeeraで確認された侵入は別のデータである。同じ企業と広告技術を挟むが、前者は対象候補を探す偵察、後者は選んだ端末へコードを送る攻撃の実例として分ける必要がある。
Reutersは、Discover-TechがStarlink利用者を地理的に特定または監視しようとした可能性が高いと報じた。一方、SpaceXとDiscover-Techは取材に回答していない。どの利用者が追跡されたか、Starlink端末へスパイウェアが入ったかは確認されていない。疑いを「世界中のStarlinkが感染した」と広げることはできない。
広告の許可リストだけでは防げなかった
Discover-Techは2020年から、GoogleやIAB Europeが管理する広告事業者の登録一覧に載っていた。Citizen Labによると、登録によって主要な広告取引へ参加し、利用者データを受け取れる状態だった。調査後、GoogleとIAB Europeは10月上旬に同社を一覧から外した。Googleは広告取引所への接続も停止した。[2]
Beeswaxは同社を買い付け基盤から削除した。Vungleは調査中の接続停止、Eskimiはアカウントとドメインの遮断を表明した。だが、一社を止めても、広告表示のために多数の買い手へ端末情報を同時に渡す仕組みは残る。
Starlinkを使う企業、報道機関、支援組織に必要なのは、衛星回線だけを安全な通信路とみなさない運用である。次の四点を確認できる。
- 業務端末で広告付きアプリや一般サイトを開く範囲を分ける。
- ブラウザとアプリの広告ID、追跡Cookie、位置情報の権限を減らす。
- 既知のDiscover-Tech関連ドメインへの接続履歴を調べる。
- 重要端末では広告と外部スクリプトを遮断し、私物端末と分離する。
これはStarlinkだけの問題ではない。出張者や遠隔拠点が携帯回線、ホテルWi-Fi、衛星通信を切り替えても、同じ広告IDが残れば移動を結び付けられる。通信回線の暗号化と、端末上の広告・追跡制御を別の対策として扱う必要がある。
まとめ
- Discover-Techは100を超える国でStarlink向け広告入札の首位だったと報じられた。ただし入札記録は追跡人数や感染台数を示さない。
- 広告入札へ渡るIPアドレスや広告IDは利用者を絞る手掛かりになり、選んだ端末へコードを返す攻撃にもつながる。
- 衛星通信が破られなくても、端末上の広告が別の入口になる。重要端末では広告追跡と外部スクリプトを減らす対策が要る。
出典・参考
- Reuters「Alleged Israeli spy company heavily targeted Starlink users, sources say」2026年10月27日
- The Citizen Lab「Exposing AdFection: How Discover-Tech Turned Targeted Ads Into a Pipeline for Zero-Click Mercenary Spyware」2026年10月15日
- Confiant「ADINT: Weaponized Ad Tech for Zero-Click Spyware and Mass Identity Vacuuming」2026年10月15日







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