Monday.comの630人削減——何が変わったのか
Monday.comはコロンバスの南方約80キロに本社を置くイスラエル企業で、プロジェクト管理ツール「monday.com Work OS」で知られる。 同社CEOのロイ・マン氏は社員への書簡の中で、「私たちは選択肢を持って変化を選んだ。その変化がAI主導の未来に向けた組織の再設計だ」と述べた。
削減された630人のうち約350人がイスラエル国内の職員で、株価は発表直後に約50%下落した。 ただし同社は、削減によって生まれたコストの一部をAIエージェント開発チームの増員に充てると表明しており、「削減=縮小」ではなく「削減=再配置」という枠組みで語られている。
2026年に「AIを理由に解雇」した20社以上の全容
TechCrunchが集計した「AIに言及した主要テック企業の解雇リスト」には、2026年に入ってから以下のような顔ぶれが並んでいる。
Microsoftは7月9日に4,800人(全体の2.1%)を削減し、主にXboxゲーム部門に集中している。 Oracleは12ヶ月の間に21,000人(13%)を削減し、AIへの移行を主な理由として挙げた。 GitLabは2026年6月に350人(14%)を解雇し、AIインフラへの投資原資を確保するとした。 そのほかAmazon、Meta、Samsungなどを含む複数の大手が計15万人近い削減を実施し、うちMicrosoft・Amazon・Oracle・Metaだけで約5万人に上る。
社会学者の視点から見ると重要なのは、これらの解雇が「業績悪化」ではなく「業績好調を前提とした戦略的再編」として実施されている点だ。 企業側は「AIによって生産性が上がるため、同じアウトプットを少人数で実現できる」と説明しており、これは労働経済学において「技術失業(technological unemployment)」と分類される現象だ。
「AIが仕事を奪う」ではなく「AIが人員配置の根拠を変える」
ここで精度よく見ておきたいのは、解雇の「理由」と「根因」の違いだ。
「AIが仕事を奪った」という単純化は正確ではない。 正確には「AIの導入によって、既存の人員配置の経済的正当性が薄れた」という方が実態に近い。 例えばGitLabが解雇したエンジニアの多くは、コードレビューやテスト自動化の領域で業務を担っていたが、この領域はGitHub CopilotやCursor Automationsのようなツールが急速に代替を進めている(Cursor Automationsの詳細参照)。
労働の消失ではなく、労働の形態変容が起きている。 人間が担う業務は「AIが苦手とする領域」——曖昧な判断、社会的文脈の読解、倫理的責任の引き受け——へとシフトしつつある。
「AI再投資サイクル」が生む社会的非対称
問題は、削減された人員と新規採用される人員の間に大きな断絶があることだ。 Monday.comが増員するのはAIエージェント開発エンジニアであり、削減されたのはカスタマーサクセス担当者やバックオフィス職員だ。
「AI失業者」と「AI恩恵者」は必ずしも同一人物ではない。 高度な技術スキルを持つ人材はAI波及の波に乗れるが、そうでない人材は「AIに最適化された組織」に居場所を失う。 この非対称構造は、2008年のリーマンショック後に顕在化した「格差の固定化」と類似のメカニズムで社会に蓄積されていく。
日本への影響——「遅れて波が来る」のか「来ない」のか
日本の大手テック・SaaS企業はどうか。 現状、国内大手による「AI起因の大量解雇」は表立っては起きていない。 理由の一つは雇用慣行の違いだ。日本では解雇要件が厳しく、「戦略的再編」という名目で大量削減を行うことへの法的・文化的障壁が高い。
しかし中長期的には、AIエージェントの内製化が進む企業では、業務量の増加を新規採用でなくAIで吸収するという「静かな雇用の収縮」が起きる可能性がある。 解雇ではなく「自然減+採用抑制」という形で労働市場に影響が及ぶシナリオは、統計上は見えにくいだけに、早期からの注視が必要だ。
今後の注目点
「AIを理由にした解雇」が正当化される組織文化が定着するのか、あるいは反発や規制の波が生まれるのかが、2026年後半の労働政策の重要な論点になりつつある。 EUはすでにAI法でアルゴリズムによる人事決定への規制を設けており、米国でもニューヨーク州などが採用・昇進へのAI活用に関する透明性義務を課す動きを見せている。
「AIが仕事を変える」という抽象的な未来が、「AIが解雇を正当化する」という具体的な現在になった。 あなたの組織でAIと人間の役割分担を設計するとき、どの業務を「AIが担えるもの」と定義し、その境界線を誰が、どのような基準で引くのだろうか。
ソース:
- Monday.com is the latest tech company to blame AI for layoffs — here are 20 others — TechCrunch (2026年7月25日)
- Monday.com Cuts 630 Jobs in Restructuring Built Around AI Agents — TechTimes (2026年7月22日)
- Layoffs at Monday.com: Israeli Software Firm Cuts 620 Jobs in AI-era Restructuring — Haaretz (2026年7月22日)
- Tech layoffs tracker 2026 — Yahoo Tech