「来月に出す」が2度消えた
1度目の締め切りは6月末だった。ピチャイの「あと1ヶ月」を素直に受け取れば、6月19日前後が目安になる。
その日、Googleは何もリリースしなかった。
ロイターが後に確認したところによると、6月末にGoogleはトレーニングデータを入れ替えてコーディング性能を改善しようとしていた。だが結果は期待を下回った。
2度目の締め切りは7月17日だった。社内に流れていたスケジュールが漏れ、業界メディアが「7月17日リリース」と書き始めた。
7月17日も、何もなかった。
4日後の7月21日、ロイターが報じた。Googleは旗艦モデルの代わりに、安価で小型のモデルを3本リリースした。新しいリリース日程は示されなかった。
それ以降、Googleは3.5 Proの次の公開日を一切アナウンスしていない。
コーディングで壊れたデッドライン
なぜここまで時間がかかるのか。Googleから漏れてきた説明は一貫している。コーディングのベンチマークスコアが、内部の基準を満たせていないのだ。
6月に行ったトレーニングデータの入れ替えは、まさにコーディング性能の改善を目的としていた。ところが「結果は失望的だった」とロイターは書いた。
一部の報道は「構造的な問題」という言葉を使う。単にデータやパラメータを調整する問題ではなく、事前学習から作り直さなければならない規模の課題があるかもしれない、という見立てだ。まだ確認されていないが、もしそうなら6月の遅延が解消しなかったことの説明がつく。
もう1つの要因として指摘されるのが、研究者の流出だ。Google DeepMindからAnthropicや他の研究機関に移った主要な研究者が複数おり、コーディング性能の弱点を補う専門知識が手薄になっている、という話が業界内に広まっている。
ForbesはGemini 3.5 Proを「2026年で最も長く待たれているモデル」と呼んだ。 同記事が出たのは8月13日、ピチャイの「あと1ヶ月」発言から86日後のことだった。
Flashが「穴」を埋めた2ヶ月
3.5 Proが出ない間、Googleは別の手を打ち続けた。
7月21日、Gemini 3.6 Flashが出た。ロイターの3本という報道のうちの1本だ。エージェントのツール利用において「Claude Opus 4.8より優秀だ」とGoogleは主張した。安く、速く、特定の用途では旗艦モデルを超えるという位置づけだった。
そして8月13日、Gemini 3.7 Flashが出た。3.6 Flashから3週間も経っていない。
コーディングの数字は大きく動いた。エージェント型コーディングの基準とされるFrontierCode 1.1のMainカテゴリで43.6%を記録し、前世代の34.4%から9ポイント以上改善した。もう1つの基準であるDeepSWE v1.1では65.3%と、前世代の49.0%から16ポイント超の伸びだ。
処理速度も記録した。独立テストで比較された186モデルの中で最速の1秒あたり340.1トークンを出し、1位となった。
価格は年末の期間限定設定で、入力トークン100万あたり0.75ドル、出力100万あたり3.75ドル。2027年1月1日からはそれぞれ倍の1.5ドルと7.5ドルに上がる予定だ。年内に使い始めた開発者が有利になる設計にして、普及を急いでいることがわかる。
| モデル | FrontierCode 1.1 Main | DeepSWE v1.1 | 入力単価($/1M) |
|---|---|---|---|
| Gemini 3.6 Flash | 34.4% | 49.0% | 非公開 |
| Gemini 3.7 Flash | 43.6% | 65.3% | $0.75(年内) |
| GPT-5.6 Sol | 88.8%(Terminal-Bench) | — | $5.00 |
FlashはFlashだ。フラッグシップではない。3.7 Flashがいくらコーディングで伸びても、Gemini 3.5 Proが目指していた「GPT-5.6と渡り合えるフラッグシップ」というポジションとは別の話だ。Googleはその空白を、フラッグシップではなくFlashで埋め続けている。
GPT-5.6はその間、値下げまで終えた
ライバルの足取りは速かった。
OpenAIのGPT-5.6は7月9日、Sol、Terra、Lunaの3ティアで一般公開に切り替わった。Sol は入力トークン100万あたり5ドル、出力30ドル。ミドルのTerraが2.5ドルと15ドル、最廉価のLunaが1ドルと6ドルで始まった。
Lunaの1ドルは、Gemini 3.7 Flashの0.75ドルと近い価格帯だ。
ところが3週間後の7月30日、OpenAIはTerraを20%、Lunaを80%値下げした。Lunaの入力単価は1ドルから0.2ドルになった計算になる。GAから3週間でここまで値下げする例は珍しく、競合他社との価格戦争が始まっている、と受け取られた。
ベンチマークではSolがTerminal-Bench 2.1で88.8%を記録した。エージェント型コーディングの指標として使われる Artificial Analysis Coding Agent Index では80点に達し、Claudeのfable 5を2.8ポイント上回っている。
Gemini 3.5 Proがリリースされたとして、その数字がGPT-5.6 Solを超えるという保証は今のところない。リリースを待っている間に、比較対象が動いている。
Googleが語らなかった日程
8月13日にGemini 3.7 Flashを発表したとき、ピチャイはGemini 3.5 Proについて言及しなかった。新しいリリース日程も示さなかった。
ピチャイはここ最近、Gemini 4と「月次リリース」について語り始めている。InfoWorldはこれを「3.5 Proの遅延から注意をそらすための話題転換ではないか」と書いた。
3.5 Proが今後出るかどうかより、出たときにまだ意味のある数字を出せるかが問われている。コーディング性能でGPT-5.6 Solを追いかけているうちに、OpenAIがGPT-5.7か別のモデルを出せば、また最初からやり直しになる。
「合格点に達するまでリリースしない」という判断は、製品への責任だとも読める。
だが8月14日の時点で、その基準がいつどこで満たされるのか、Googleは何も言っていない。
ソース:
- Gemini 3.5 Pro Delay Continues — Forbes(2026年8月13日)
- Google Unveils Gemini 3.7 Flash AI model for coding, agent workflows — Yahoo Finance(2026年8月13日)
- Google's Gemini 3.7 Flash targets coding and agents with a 50% introductory price cut — VentureBeat(2026年8月13日)
- Gemini 3.5 Pro Still Missing at 67 Days, Rivals Gain — Tech Insider(2026年7月)
- GPT-5.6 Sol, Terra & Luna — Benchmarks, Pricing & Access — QCode.cc(2026年7月)
- Google Delays Gemini 3.5 Pro Launch as Coding Performance Doesn't Cut It — AndroidHeadlines(2026年7月)


