V4 Flash 0731とはどんなモデルか
DeepSeekは2026年4月にV4 Flashを公開していた。総パラメータは284億で、Mixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用する。
1トークンを処理するたびに実際に使われるアクティブパラメータは13億だけだ。残りのパラメータはルーターネットワークが「必要なし」と判断したエキスパート群が休眠している仕組みになっている。コンテキスト窓は最大100万トークンで、モデルの重みはHugging FaceでMITライセンス付きで公開されている。
7月31日の0731ビルドは、このV4 Flashに対して強化学習(RL)を中心としたポストトレーニングをやり直したものだ。アーキテクチャもパラメータ数も、ベースの重みも変えていない。「同じモデルを再学習させるだけで、どこまで性能が動くか」を試すような更新だった。
DeepSWEが7.4倍に跳ね上がった意味
DeepSeekが公開したベンチマークのなかで最も目立つのはDeepSWEだ。
前版V4 Flashの7.3から54.4まで上昇した。約7.4倍の改善になる。Terminal Bench 2.1は61.8から82.7へ、τ³-Bench Bankingは8ポイント上がって31になった。
Artificial AnalysisのIntelligence Indexでは52点を記録した。同時期のGLM-5.2(53点)やGemini 3.6 Flash(52点)と横並びで、この価格帯では競合する水準にある。Claude Opus 5やGPT-5.6 Solより低いが、それらは料金が一桁以上高い。
生成速度は124.1トークン/秒を計測した。同規模のオープンウェイトモデルの中央値は69.1トークン/秒で、ほぼ倍の速さだ。
注意点がある。DeepSWEを含むエージェント系ベンチマークはDeepSeek自社のハーネスで測定している。独立した第三者機関による追試はまだ出ていない。「7.4倍」という数字は参考になるが、自社測定だという前提で読む必要がある。
8月16日に起きた料金改定
V4 Flash 0731は7月31日の公開時、入力0.14ドル/百万トークン、出力0.28ドル/百万トークンで始まった。
GPT-5.6 Lunaが同日の前日(7月30日)に80%値下げして入力0.20ドル・出力1.20ドル/百万トークンになっていたので、当初は出力で4倍以上の差があった。
ところが8月16日、DeepSeekは料金を改定した。入力が0.14ドルから0.22ドルへ(57%引き上げ)、出力が0.28ドルから0.66ドルへ(136%引き上げ)となった。
改定後の比較はこうなる。
| DeepSeek V4 Flash 0731(8/16改定後) | GPT-5.6 Luna | |
|---|---|---|
| 入力 | $0.22 / 1M トークン | $0.20 / 1M トークン |
| キャッシュヒット | $0.007 / 1M トークン | $0.02 / 1M トークン |
| 出力 | $0.66 / 1M トークン | $1.20 / 1M トークン |
| コンテキスト窓 | 100万トークン | 105万トークン |
| ライセンス | MIT(オープンウェイト) | APIのみ |
入力だけを見ると、今やGPT-5.6 Lunaのほうが1割安い。一方で出力はDeepSeekが45%安いままだ。
コーディングエージェントや長文生成のように出力が多いタスクでは、DeepSeekがまだコスト面で有利になる。短いQ&Aやクラシファイアのような入力主体のタスクでは、GPT-5.6 Lunaとほぼ同等かやや不利になる局面もある。
「出力が2倍冗長」という評価
Artificial Analysisは0731ビルドを「非常に冗長(very verbose)」と評価している。
同じタスクをこなすときの出力トークン数が、評価対象モデルの中央値の2倍以上になる場面があるという。料金表上の数字だけを見て予算を組むと、実運用でコストが想定より膨らむ可能性がある。
「max_tokensで上限を切る」「JSON Schemaで構造化出力を固定する」「reasoning effortをlowに設定する」といった対策で冗長性はある程度制御できる。自分のワークロードで実際にトークン数を計測してから見積もることが現実的だ。
キャッシュヒット料金はDeepSeekが0.007ドルで、GPT-5.6 Lunaの0.02ドルより安い。同じドキュメントを繰り返し参照するRAGのような用途では、キャッシュ活用が大きく効く。
日本の企業が確認すべきこと
個人情報保護委員会は2026年初頭にDeepSeekの公式APIへの業務データ送信に関して注意喚起を行った。中国の法制度における当局へのデータ提供義務と、学習データへの利用可能性が主な懸念点として挙げられている。
業務データや顧客の個人情報を含むプロンプトをDeepSeekの公式エンドポイントへ送ることは、利用規約を自社の法務担当者が確認した上で判断したい。
代替の経路は複数ある。AWS BedrockやAzure AI Foundryのマネージドデプロイでは、サービス約款で顧客データを学習に使わないことが明記されており、コンプライアンスの担保がしやすい。MITライセンスのオープンウェイトモデルなので、自社インフラ上に展開することも可能で、その場合は外部へのデータ送信が発生しない。
中小規模の開発者や個人プロジェクトでは、DeepInfraのような第三者プロバイダーを使う選択肢もある。公式APIより安い料金が設定されていることがある。ClineやOpenCodeには無料枠や月額固定プランがあり、試用のハードルが低い。
まとめ
- DeepSeek V4 Flash 0731はポストトレーニングのみの変更で、エージェント系ベンチマーク(DeepSWE)を約7.4倍改善した。アーキテクチャは前版と同一で、MIT公開のオープンウェイトモデル
- 8月16日に料金改定があり、入力コストはGPT-5.6 Lunaよりやや高くなった。出力は45%安いが、「非常に冗長」という評価があるため実コストは自ワークロードで試算が必要
- 日本の企業利用では個人情報保護委員会の注意喚起を踏まえ、公式APIへの業務データ送信を避け、マネージドデプロイまたは自社インフラの展開を検討するのが現実的な選択肢になる



