CloudWatch Omniとは
CloudWatch Omniは、AWS Management Consoleとは別の専用URLで利用する。管理者が「ドメイン」を作成し、その中にチームや用途ごとの「スペース」を用意する構造だ。利用者はIAM Identity Center経由でサインインし、AWSコンソールへのアクセス権を持たなくても観測データを調べられる。
AWSは、既存のCloudWatchを置き換える製品ではなく、新しい共同作業用の観測体験として説明している。Omniを有効にしても既存のCloudWatch設定は無効にならない。
| 項目 | CloudWatch Omniの位置づけ |
|---|---|
| 主な対象 | アプリケーション、サービス、AIエージェント |
| 取り込むデータ | OpenTelemetry形式のログ、メトリクス、トレース |
| 操作場所 | AWSコンソールとは別の専用URL |
| 認証 | IAM Identity CenterによるSSO |
| 既存CloudWatch | 併用可能。自動的に置き換わらない |
従来のCloudWatchと何が違うか
最大の違いは、データを「どのAWSリソースが出したか」だけでなく、「どのアプリケーションを調べるか」を中心に束ねる点である。スペース内では、複数のデータセットをアプリケーション単位で関連付け、チームが同じダッシュボードや調査文脈を共有できる。
AI機能としてDevOps Agentを呼び出し、異常の兆候や原因候補を自然言語で調べる機能もある。ただし、原因究明が自動的に正解になるという意味ではない。AWSが説明するのは調査支援であり、実環境での精度や復旧時間の短縮幅は、各社が自分のデータで検証する必要がある。
| 比較軸 | 従来のCloudWatch利用 | CloudWatch Omni |
|---|---|---|
| 起点 | AWSアカウントや個別リソース | アプリケーションやチームのスペース |
| 共同作業 | ダッシュボードや権限を個別設定 | 専用URLとSSOで同じ調査空間を共有 |
| データ形式 | AWSサービス固有の連携も多い | OpenTelemetryを中心に統合 |
| AIエージェント | 基盤の状態監視が中心 | 実行トレースと応答評価を同じ画面で扱う |
AIエージェント導入では、モデルの性能だけでなく、失敗時にどの工程で崩れたかを追える設計が欠かせない。業務フローから設計する視点は、AIエージェント導入は何から始める?Microsoftの実測でも整理している。
料金は取り込み、保存、分析の3段階
CloudWatch Omniに月額の固定利用料はなく、主にテレメトリの取り込み量、保存量、検索・分析量で課金される。AWSが掲載する米国東部(バージニア北部)の例では、アプリケーションログとOpenTelemetryメトリクスは1GB当たり0.50ドル、スパンは最初の10TBまで1GB当たり0.35ドルである。
| 課金項目 | 米国東部の料金例 |
|---|---|
| アプリケーションログ取り込み | 0.50ドル/GB |
| OpenTelemetryメトリクス取り込み | 0.50ドル/GB |
| スパン取り込み | 最初の10TBまで0.35ドル/GB |
| 標準ストレージ | 0.030ドル/GB・月 |
| 低頻度ストレージ | 0.018ドル/GB・月 |
| アーカイブ即時アクセス | 0.006ドル/GB・月 |
| ログ・トレース検索 | 無料枠超過分0.005ドル/GB |
| PromQL分析 | 100万サンプル当たり0.01ドル |
ログ・トレース検索には、その月のログとスパン取り込み量の5倍まで無料枠がある。ダッシュボードとアラートは料金に含まれる。一方で、料金はリージョンや使用量で変わるため、上表を日本での確定価格として扱ってはいけない。
AWSは、条件を満たす新規利用者向けに、30日間で最大1,000ドル分のOpenTelemetry取り込みクレジットも案内している。組織当たり最大10アカウントなどの条件があるため、試用前に対象可否を確認したい。
概算では「1日に取り込むログ・メトリクス・スパンのGB数」「何日保存するか」「月に何GB検索するか」を分けて見積もる。クラウド全体の選び方を整理したい場合は、AWS・Azure・Google Cloudの比較ガイドも参考になる。
導入前に確認したい4つの条件
1. 利用リージョンは要件を満たすか
一般提供時点で選べるのはバージニア北部、オレゴン、アイルランドである。Omniのスペースに送った観測データは、そのスペースを作成したリージョンに保存される。
2. AI処理の地域条件を許容できるか
AWSの説明では、AI機能への入力と出力は、同じ地理区分内の別リージョンで処理される場合がある。通信はTLSで暗号化されるが、「単一リージョン外へ処理を出さない」という社内規定がある場合は、保存場所だけで判断できない。
3. OpenTelemetryでデータを送れるか
OmniはOTLPを受け付け、EC2、ECS、EKSに加えてAzure VMやAKSからもテレメトリを送れる。OpenTelemetryはベンダー中立の計装フレームワークであり、監視データを保存するバックエンドそのものではない。既存の計装状況によって、導入工数は大きく変わる。
4. アカウント横断の設計を決めたか
Omniを有効にしただけでは、複数のAWSアカウントやリージョンにあるデータが自動で一つに集約されるわけではない。どのデータをどのスペースへ送るか、保存期間をどう分けるかを先に設計する必要がある。
| 確認項目 | 導入前の判断 |
|---|---|
| 東京リージョン必須 | 現時点では待つ選択が妥当 |
| 対応3リージョンで運用 | 小規模な試行が可能 |
| OpenTelemetry導入済み | 既存計装を生かしやすい |
| 複数アカウントを横断 | 送信先と権限設計を追加で確認 |
| AI処理の所在地に制約 | セキュリティ・法務部門と事前確認 |
AIエージェント監視で何を見られるか
Omniは一般的なアプリケーション監視に加え、AIエージェントのセッション、ツール呼び出し、モデルへの入出力をトレースとして追う機能を掲げる。さらに、応答を評価する「エバリュエーター」を設定し、正確性や有用性などの品質指標を継続的に見る構成を取れる。
対応例としてAWSはStrands Agents、Amazon Bedrock AgentCore、Amazon Bedrock Agents、LangGraph、CrewAIなどを挙げている。IDE拡張はローカル開発向けに無料で使え、AWSアカウントなしでも試せると説明されている。
| 観測対象 | 確認できること |
|---|---|
| セッション | 一連の対話や処理の流れ |
| トレース | モデル、ツール、外部処理の呼び出し順序 |
| 評価指標 | 応答品質の継続的な変化 |
| ログ・メトリクス | 遅延、エラー、資源使用量 |
| IDE内の実行 | 本番投入前のローカルな挙動確認 |
ここで重要なのは、評価指標を置けば品質が自動的に保証されるわけではない点だ。何を正解とするか、どの失敗を重大とみなすかは業務ごとに定義する必要がある。Omniは判断材料を集める基盤であり、品質責任そのものをAWSへ移す仕組みではない。
今導入する会社、待つ会社
CloudWatch Omniは、アプリケーションとAIエージェントの観測を同じ運用に寄せたい企業に向く。特にOpenTelemetryをすでに採用し、チーム横断で調査画面を共有したい場合は、小さなサービスから試す価値がある。
一方、東京リージョン内での完結が必須、監視費用を固定したい、AI処理を別リージョンへ出せない、といった要件がある企業は急ぐべきではない。一般提供された事実と、自社要件を満たすことは別である。
| 今試しやすい | まず待つ・追加確認する |
|---|---|
| 対応リージョンで運用している | 東京リージョン限定が必須 |
| OpenTelemetry計装済み | 独自形式のログしかない |
| AIエージェントの評価基準がある | 評価指標がまだ決まっていない |
| 従量課金を小規模に検証できる | 固定予算内での確約が必要 |
最初の試行では、対象を一つのアプリケーションに絞り、取り込み量、検索量、調査時間、検出できた失敗の種類を30日間記録するとよい。AWSのクレジットが使える場合も、クレジット終了後の月額へ換算してから継続を決めるべきである。
まとめ
- CloudWatch Omniは、アプリケーションとAIエージェントのログ、メトリクス、トレース、評価を一つの作業空間へまとめる新しい観測体験である。
- 導入判断では、米国・欧州の3リージョン限定、従量課金、AI処理の地域条件、OpenTelemetryの準備状況を分けて確認する必要がある。
- 対応リージョンで小さく試せる企業は30日間の実測へ進み、東京リージョン完結が必須の企業は提供地域の拡大を待つのが現実的である。
出典・参考
- AWS「Amazon CloudWatch Omniの紹介」
- AWS What's New「Amazon CloudWatch Omniの一般提供」
- Amazon CloudWatch User Guide「CloudWatch Omni」
- Amazon CloudWatch User Guide「CloudWatch Omniの設定」
- Amazon CloudWatch User Guide「クロスリージョン推論」
- Amazon CloudWatch User Guide「テレメトリの送信」
- Amazon CloudWatch Omni Pricing
- OpenTelemetry公式「What is OpenTelemetry?」






