深夜のハサブ沖で起きたこと
英海軍が運営する海事情報機関UKMTOは、ハサブの東およそ17海里の地点で正体不明の飛翔体3発を確認したと報告している。時刻はいずれも深夜帯だった。
SIDRと、韓国企業が運航するタンカー「セネガル・プロスペリティ」は、数分の間隔で相次いで被弾した。2隻ともサウジアラビアのジュアイマ積出基地で原油を積み込んだばかりで、積荷は合わせておよそ200万バレル。海運データ会社ケプラーの船舶追跡による数字である。
この海域は、米軍が護衛にあたっている南側の航路にあたる。護衛の内側で撃たれたという事実が、海運各社にとっては重い。
イラン革命防衛隊は機雷によるものだと主張し、米中央軍はこれを否定した。何が当たったのかは、いまも確定していない。飛翔体なのか機雷なのかで、船側の取れる対策はまるで変わってくる。
「深い悲しみとともに」
バフリは声明で、「深い悲しみとともに、本件によりフィリピン人乗組員2名を失ったことを確認する」と述べた。
2人の名前は公表されていない。年齢も、家族構成も、なぜその船に乗ることになったのかも、外には出ていない。
フィリピン人の船員は、世界の商船で働く乗組員のおよそ4分の1を占めるとされる。海運という産業は、送り出す国と、燃料を受け取る国が、きれいに分かれている。
海の上で死んだ2人は、その4分の1のなかの2人だった。日本に届く原油も、同じ構造の上を通ってくる。
攻撃はこれが初めてではない
8月24日には「メトロ・ヴェネチアン」、25日には「アル・サラームII」が、同じ海域で被害を受けている。1週間のうちに4隻という頻度である。
国際海事機関(IMO)の集計では、8月28日時点で確認された船舶への攻撃は少なくとも70件になる。亡くなった船員は19人にのぼる。8月末の2人を加えれば、その数はさらに増える。
海運会社が抱える問題は二つある。ひとつは戦争保険料の上昇で、もうひとつは乗組員の確保である。船を出すかどうかは、もはや運賃だけでは決まらない。
乗るのが嫌だと言う船員が増えれば、船は動かない。運賃を上げても人が集まらない局面はありうる、という声も出ている。
「誰も石油を輸出できない」
イラン国会議長のモハンマド・バゲル・ガリバフは、「敵がわれわれのペルシャ湾からの石油輸出を止めるつもりなら、誰も石油を輸出できないと知るべきだ」と述べた。
自国の輸出を止められるなら全員の輸出を止める、という論理である。ホルムズ海峡は世界の海上原油輸送のおよそ2割が通る水路で、まとまった量を迂回させる経路はほとんどない。
もっとも、本当に封鎖すればイラン自身の輸出も止まる。脅しと実行のあいだにどれだけの距離があるのかは、外から測りにくい。市場が読み違え続けてきたのは、その距離のほうだった。
日本のガソリン価格に効いてくる
日本は原油の9割以上を中東に頼っている。8月24日時点のレギュラーガソリンの全国平均は1リットル169.9円だった。高市首相は8月26日、170円の水準を維持すると表明している。
補助が小売価格を抑えているあいだも、調達コストと戦争保険料は上がり続ける。積み地から日本の製油所まではおよそ3週間かかるため、海の上の出来事が家計に届くには時間差がある。
秋に入ってから効いてくる、という見方が出ているのはこのためである。運賃と保険料は、電気料金や食料品の物流費にも回ってくる。
一方で、原油価格そのものは高止まりを続けているわけではない。米エネルギー情報局は8月11日時点の見通しで、ブレント原油の2026年平均を1バレル87ドルと置いた。2027年は69ドルとしている。
海峡の緊張と価格見通しは、必ずしも同じ方向を向いていない。
まとめ
- 8月31日深夜、ホルムズ海峡の南でバフリのタンカー「SIDR」が被弾し、フィリピン人船員2人が死亡した。ほぼ同時刻に別の1隻も撃たれている
- IMOの集計では8月28日時点で船舶への攻撃は70件、船員の死者は19人。1週間で4隻という頻度になっており、保険料と乗組員確保の両方が海運の制約になりつつある
- 日本は中東原油に9割以上を依存する。補助金が小売価格を抑えているあいだも保険料と調達コストは上がり続けており、影響が家計に届くまでには数週間の時間差がある
出典・参考
- Bahri(バフリ)公式声明、2026年9月2日
- UKMTO(英海軍海事貿易機関)勧告、2026年8月31日〜9月1日
- Kpler 船舶追跡データ
- 国際海事機関(IMO)船舶攻撃集計、2026年8月28日時点
- 資源エネルギー庁 石油製品価格調査、2026年8月24日時点
- U.S. Energy Information Administration, Short-Term Energy Outlook, 2026年8月11日
- カバー画像: 公有領域素材(pd.w.org)



