数字で見る配置の変え方
オランダの金準備は合計612.4トンある。2025年末の評価額で722億ユーロ。今回動いたのはそのうち約100億ユーロ分にあたる。
保管先の内訳は、2月末の時点でニューヨーク31.3%、ザイスト(オランダ国内)31%だった。残りはオタワが約20%、ロンドンが約18%である。
移送後はニューヨーク18.5%、オタワ18.5%、ザイスト31%、ロンドン32%となる。ロンドンが最大の保管地に入れ替わった形である。
| 保管地 | 移送前 | 移送後 |
|---|---|---|
| ニューヨーク | 31.3% | 18.5% |
| オタワ | 約20% | 18.5% |
| ザイスト(国内) | 31% | 31% |
| ロンドン | 約18% | 32% |
北米側の減少幅で見ると、ニュービークから約78トン、オタワから約7トンが抜けた。
「実際に運んだ量」の話
興味深いのは、86トンすべてが船や飛行機で移動したわけではない点だ。
物理的に北米からオランダのザイストへ運ばれたのは27トン。その27トンが今度はザイストからロンドンへ移った。
残りの59トンについては、ニューヨークで売却し、ロンドンで同量を買い直すという形で処理されている。金塊そのものを大西洋の上で動かすより、帳簿の上で置き換えるほうが速く、保険料も安い。
中央銀行の準備資産の移動が、必ずしも輸送を意味しないことがよくわかる例である。
なぜイングランド銀行なのか
ロンドンが選ばれた理由も説明されている。
イングランド銀行は現物の金の主要な取引拠点として世界的に見られており、そこに置かれた金は現代の国際取引基準を満たす。危機の局面で最も速く動かせる、というのがオランダ側の説明だった。
金は保有しているだけでは危機対応に使えない。売る、担保に入れる、あるいは通貨スワップの裏付けにする。いずれの操作にも、市場に近い場所にあることが効いてくる。
裏を返せば、ニューヨークとオタワに置いた金は、いざというときに動かしにくいと判断されたことになる。
中央銀行の金が動く時代
オランダの決定を単独の出来事として読むこともできるが、近年は各国の中央銀行が金の保管先を見直す動きが続いてきた。
きっかけとして意識されてきたのが、2022年にロシアの外貨準備が凍結された一件である。他国に預けた資産が、政治的な判断で使えなくなり得ることが実例として示された。
オランダは米国の同盟国であり、資産凍結の対象になる立場にはない。それでも保管先を分散させるという判断が出てきたこと自体に、いまの国際環境の読み方が表れている。
もっとも、ロンドンもまた他国であることは変わらない。国内のザイストの比率は31%のまま動いていない。この判断は「自国回帰」ではなく「取引しやすさの確保」に寄っている。
まとめ
オランダ中央銀行は約86トン、およそ100億ユーロ相当の金をニューヨークとオタワからロンドンへ移した。ロンドンの比率は約18%から32%に上がり、最大の保管地になった。
実際に輸送されたのは27トンで、残りは売却と買い直しで置き換えられている。準備資産の移動が物理的な輸送を意味するとは限らない。
読者にとっての持ち帰りは、中央銀行が「危機への備え」と言うとき、それが量の話ではなく速度の話でもあるという点だ。同じ金を持っていても、どこに置くかで危機の局面での使い勝手は変わる。
出典・参考
- Dutch central bank moves share of gold from U.S., Canada to London; Cites "instability" — NL Times(2026年9月2日)
- Dutch central bank moves gold bars out of U.S. and Canada, citing 'crisis preparedness' — CNBC(2026年9月3日)
- Netherlands moves 86 tonnes of gold from US and Canada to UK, citing 'geopolitical unrest' — Euronews(2026年9月2日)



