何をする会社か
May Mobilityは2017年創業で、米ミシガン州アナーバーに本社を置きます。共同創業者でCEOのEdwin Olson氏は、トヨタ・リサーチ・インスティテュートなどで自動運転開発に携わってきました。同社が開発するのは、乗客を運ぶ車両そのものより、車両を自動で走らせる自動運転システム(ADS)です。
公式資料によると、ADSは車両の周囲を表す「世界モデル」を構築し、複数の走行方針を短い間隔で比較します。NTTモビリティの説明では、物理的な道路環境、交通規則、現地の運転文化をもとに動的モデルをつくり、200ミリ秒ごとに複数のシナリオを評価します。ディープラーニングとルールベースの候補から、安全条件を満たさない行動を除外する設計です。
| 項目 | 公開資料で確認できる内容 |
|---|---|
| 創業 | 2017年、米ミシガン州アナーバー |
| 主な製品 | 商用配車・地域交通向けの自動運転システム |
| 技術の軸 | 世界モデルとマルチポリシー推論 |
| 主な相手 | 配車会社、車両メーカー、交通・運行事業者 |
| 日本の相手 | NTTモビリティ、トヨタ自動車など |
「推論できるから安全」と断定はできません。安全性は設計思想だけでなく、運行設計領域、事故・介入データ、遠隔支援、地域ごとの認可を含めて評価する必要があります。同社も安全に関する複数の仕組みを説明していますが、公開資料の多くは会社自身の説明です。
何を売るのか
May Mobilityの違いは、自動運転の性能だけでなく、誰が何を保有するかにあります。従来型のロボタクシー事業は、開発会社が車両を購入し、車庫、充電、整備、現場スタッフまで抱える形になりやすく、都市を増やすほど資金負担が重くなります。
May Mobilityが移行を進めるAaaSでは、配車会社や運行パートナーが車両保有、車庫、整備などを担い、同社は自動運転技術を提供します。収入は固定料金、車両の稼働時間に応じた料金、または走行ごとのライセンス料です。Uber、Lyft、Grab、CaoCaoの配車網、トヨタの車両、NTTの日本での運行基盤を組み合わせ、自社がすべてを垂直統合しない設計です。
| 負担・役割 | May Mobility | 運行パートナー |
|---|---|---|
| 自動運転ソフト | 提供・更新 | 利用 |
| 車両の保有 | 移行後は原則持たない | 保有・調達 |
| 車庫・充電・整備 | 技術支援 | 日常運用を担当 |
| 配車需要 | 技術を接続 | 既存アプリや顧客基盤を提供 |
| 主な収益・費用 | ライセンス収入、開発・遠隔支援費 | 運賃収入、車両・運行費 |
この分業は、May Mobilityの資本負担を軽くする一方、サービス品質がパートナーの運行力にも左右されることを意味します。交通事業者が導入を考えるときは、ADSの性能だけでなく、車両調達、保険、遠隔監視、清掃、整備を誰が担うかまで一つの原価として見る必要があります。
数字が示す現在地
同社は、米国と日本で商用の自動運転乗車を55万回以上、走行距離を110万マイル以上積み上げ、米国で無人運行を3拠点立ち上げたと説明しています。Reutersも発表に基づく同じ数字を報じました。一方、規模を比べるときは「乗車回数」と「完全無人の走行距離」を混同しない注意が必要です。
財務面では、会社発表とSEC提出資料に2025年の売上高が約1000万ドル、粗利率が27%、フリーキャッシュフローがマイナス約9300万ドルと記載されています。累計調達額は約4億4500万ドルです。売上が立ち始めた一方、現在の事業規模に対して研究開発と展開の資金負担が大きい段階だと読めます。
| 指標 | 実績・会社発表 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 商用乗車 | 55万回超 | 米国・日本の累計 |
| 走行距離 | 110万マイル超 | 会社発表。内訳確認が必要 |
| 2025年売上高 | 約1000万ドル | 初期の商用化実績 |
| 2025年粗利率 | 27% | 現在の実績 |
| 2025年FCF | 約9300万ドルのマイナス | 成長投資を含む資金消費 |
| 長期粗利率目標 | 最大70% | 実績ではなく経営陣の目標 |
同社は、無人化とパートナー運行への移行後に粗利率を最大70%、EBITマージンを最大30%へ高める長期目標を示します。しかしSEC提出の投資家資料には、運行会社との収益分配モデルから重要な売上をまだ生んでいないとの注記もあります。将来目標を現在の採算性として扱うことはできません。
日本との接点
May Mobilityは、日本では単なる「進出予定」の会社ではありません。NTTモビリティは2026年9月3日、May MobilityのADSを搭載したトヨタのe-Paletteを使い、東京都武蔵野市の実証フィールドで公道走行を始めると発表しました。両社は東京、名古屋、広島を含む国内9都市で実証・運用を進め、2027年度をめどにレベル4対応と全国展開の加速を目指しています。
名古屋市では別の実証も進みます。2026年9月11日から2027年3月19日まで、平日に3台の自動運転車両を走らせ、5カ所の乗降地点とオンデマンド配車を組み合わせます。検証対象は、右折時の対向車検知や信号変化の予測、予約に応じた車両配置などです。
| 日本で確認できること | まだ確認できないこと |
|---|---|
| 公道実証の場所・期間・車両数 | レベル4の全国商用化時期 |
| NTTモビリティが運行基盤を担う分業 | 事業者が支払うライセンス価格 |
| e-Paletteなど複数車種での検証 | 大規模運行時の採算と介入頻度 |
つまり、日本での読者に近い判断材料は「米国で何回走ったか」だけではありません。国内の複雑な交差点で安定して走れるか、遠隔支援を含む運用を交通事業者が続けられるか、レベル4認可までの課題が何かを実証結果から追う必要があります。日本のロボタクシー全体の課題は、TechCreateの日本上陸を阻む4つの壁でも整理しています。
上場計画の条件
発表された経営統合は、企業価値を約14億ドルとし、最大3億3700万ドルの資金流入を見込みます。内訳はACP Holdingsの信託口座から最大2億1700万ドルと、機関投資家などによる1億2000万ドルのPIPEです。ただし信託口座分はSPAC株主の償還で減る可能性があります。
SECに提出された8-Kによると、取引には両社株主の承認、登録届出書の効力発生、Nasdaq上場の条件付き承認、最低1億2000万ドルの現金確保などが必要です。契約上の最終期限は2027年5月26日で、会社の投資家資料が示す2027年第1四半期の完了目標とは別の概念です。
| 発表項目 | 確定度 |
|---|---|
| 経営統合契約を締結 | 確定 |
| PIPE 1億2000万ドル | コミット済みと発表 |
| 最大3億3700万ドルの資金流入 | 償還などで減る可能性 |
| Nasdaqで「MAY」として上場 | 取引成立後の計画 |
| 2027年第1四半期に完了 | 経営陣の目標 |
資金の用途は、無人運行範囲を広げる研究開発、部品コスト低減、米国内外の新規展開、運転資金です。自動運転企業への投資判断を扱う記事ではありませんが、事業を評価する読者にとって、上場時の評価額より「売上1000万ドルから、パートナー型の商用売上をどこまで積み上げられるか」が重要な観察点になります。
見極めたい3点
May Mobilityの発表から得られる発見は、ロボタクシー競争がAIモデルの性能だけで決まらないことです。車両、運行、配車、地域認可を分業できるかが、都市を増やす速度と資本効率を左右します。自動運転企業の量産協定を扱った過去記事と比べても、今回は収益モデルと財務の数字が開示され、検証可能な範囲が広がりました。
今後3〜8週間では、次の3点を確認したいところです。
- SECへ提出されるForm S-4で、顧客集中、契約期間、売上の内訳、事故・規制リスクがどこまで開示されるか。
- 名古屋や武蔵野の実証で、運行継続率、遠隔支援の頻度、乗客数などの結果が公開されるか。
- 2026年末から2027年初めに予定するUberとのアーリントン展開で、無人運行とパートナー型収益が計画どおり始まるか。
現時点で確認できないのは、1回の乗車当たりの採算、主要顧客別の売上、完全無人走行の詳細な安全実績です。会社の目標を実績へ読み替えず、次の届出と実証結果を待つ必要があります。
まとめ
- May Mobilityは自動運転車をすべて自社保有するのではなく、配車・車両・運行のパートナーへADSを提供するAaaSへの移行を進めています。技術だけでなく、運行の分業が事業の核です。
- 2025年は売上約1000万ドル、粗利率27%に対して約9300万ドルのキャッシュを消費しました。長期の粗利率70%目標は、まだ実績ではありません。
- 日本ではNTTモビリティとの公道実証が進んでいます。読者が持ち帰るべき判断軸は、走行回数の大きさより、国内実証の結果とパートナー型収益が実際に立ち上がるかです。




