国内製造業の宣伝費は2023年度に19.8%増。ただし2019年度には届かない
東京商工リサーチが2025年1月に公表した分析では、製造業の2023年度の宣伝費は1兆164億4,100万円、前年度比19.8%増だった。ここでの宣伝費は「広告宣伝費+販売促進費」であり、記事・動画などのコンテンツ制作費だけを抜き出した金額ではない。分析対象は、2019~2023年度の5期連続で販管費の内訳が分かる企業14万8,090社のうちの製造業で、日本の全製造業を網羅した市場規模でもない。[1]
同じ調査で、製造業の2023年度の宣伝費は2019年度比で28.6%減だった。したがって19.8%増は、低下した水準からの回復を示す数字だ。宣伝費を計上した製造業の1社当たり平均は1億2,398万円だが、ゼロ計上の企業を除いた平均である。個々のBtoB製造企業の「標準予算」として使うと、規模や顧客構成の違いを見落とす。[1]
2025年の広告費は、機械を含む区分と自動車などで明暗が分かれた
電通の「2025年 日本の広告費」で、「エネルギー・素材・機械」のマスコミ四媒体広告費は451億6,000万円、前年比13.9%増だった。2024年の396億6,000万円、2023年の343億円から2年続けて増えている。ただし、この区分にはガソリンやガス会社も含まれる。機械メーカーだけの広告費ではない。電通は増加要因として企業広告などを挙げている。[2]
同じ集計では、自動車・関連品は前年比4.5%減、精密機器・事務用品は5.3%減、家電・AV機器は1.5%減だった。「製造業」と一括りにすると、この差が隠れる。この業種別データは新聞・雑誌・ラジオ・テレビの広告費であり、インターネット広告、展示会、オウンドメディア制作費を含まない。 日本の総広告費が2025年に前年比5.1%増えた事実を、製造業の広告予算の伸び率に置き換えることもできない。[2] [5] [6]
| 確認できる指標 | 期間・変化 | 読み方 |
|---|---|---|
| 製造業の広告宣伝費+販促費 | 2023年度、前年比19.8%増/2019年度比28.6%減 | 同一企業群の実績。コンテンツ費だけではない |
| エネルギー・素材・機械の四媒体広告費 | 2025年、前年比13.9%増 | 機械以外のエネルギー事業を含む |
| 自動車・関連品の四媒体広告費 | 2025年、前年比4.5%減 | 製造関連でも方向は一様でない |
出典と定義は東京商工リサーチ、電通の各調査による。異なる対象・費目・年の数字を足し合わせた「製造業の市場規模」ではない。[1] [2]
コンテンツ予算は「全面拡大」より、動画・専門知見への選択投資
Content Marketing InstituteとMarketingProfsが2024年6~8月に実施した調査では、世界の製造業マーケティング担当者104人のうち、2025年のコンテンツマーケティング予算を「増やす」見込みは37%、「据え置く」は46%、「減らす」は11%だった。これは予算の増減を答えた人の割合であり、支出額の前年比成長率ではない。回答者の78%はBtoB企業、22%はBtoBとBtoCの両方を扱う企業に所属し、日本だけの結果でもない。[3]
同調査では、2025年に動画への投資を増やす見込みが62%、専門家の知見を発信するコンテンツが50%だった。製造業担当者が過去12カ月に制作した形式は、短い記事89%、動画85%、製品の技術・データシート71%、事例70%。伸びしろを「記事を何本増やすか」だけで測るのは狭い。製品仕様を理解する資料、導入判断を支える事例、現場の課題を説明する動画など、購買の段階に応じた制作が対象になる。[3]
2026年以降に伸びる余地は「技術情報を届け、商談まで測る」領域
株式会社Macbee Planetが2025年12月に国内マーケティング担当者1,086人へ尋ねた調査では、BtoB企業の回答者541人のうち約5割が2026年の予算増を見込む。一方、36.6%はほぼ横ばいと答えた。BtoB企業で「優先的に増やしたい予算」の首位は自社Webサイト・アプリ改善の32.7%で、中長期的なブランド価値・企業イメージの向上を投資判断で重視する人も39.0%いた。ただしBtoB全般の調査で、製造業だけの予測ではない。[4]
製造業の購買側にも、情報提供の変化を示す材料がある。製造業向けマーケティングを手がけるテクノポートの2026年調査では、製造業従事者317人の生成AI利用用途として「サプライヤー・外注先・代替部材や製品の探索」が27.1%、「導入候補の比較検討」が26.5%だった。利用者調査であり、生成AI経由の受注が市場全体で増えた証拠ではない。それでも、製品の用途、仕様、制約、導入実績を公開情報として整理する価値を考える材料にはなる。[7]
海外の実例として、産業機器メーカーEatonは、製品別だったマーケティング組織を顧客課題別へ再編した。Content Marketing Instituteが2026年10月に担当者へ取材した記事では、機械メーカー向けの施策で100点超の資料・記事等を制作し、初期9カ月で600件超の適格リードを得たと説明している。ただし成果は同社側の報告で、投入予算や受注への因果効果は公開されていない。「多額の広告を買う」以外にも、技術情報を編集し直す投資があることを示す事例として読むべきだ。[8]
どこに商機がある? 予算額より「検討の抜け」を探す
現時点の公開データから、国内製造業の2026年の広告・コンテンツ投資総額や成長率は確定できない。投資機会を考えるなら、業界全体の伸びを前提にするより、既存の販促費で解けていない顧客の疑問を探す方が具体的だ。
- ブランディングと技術説明をつなぐ。 企業の理念だけで終わらせず、顧客のどの課題を、どの仕様・実績で解くかを記事や動画で示す。電通の四媒体データは企業広告の増加を示すが、デジタルの制作費まで増えた証拠ではない。[2]
- 展示会の後に使える情報を作る。 製造業を主とする企業の営業・販促担当者180人を対象にしたマーケライズの2026年調査では、展示会の効果を明確な基準で測る企業は18.9%。名刺獲得から見積もり、採用までを追える設計と、検討を進める事例・技術資料を組み合わせる余地がある。ただし、調査は同社サービスの見込み顧客に近い集団の可能性がある。[9]
- 技術情報の品質と更新を担う。 仕様、適用できない条件、比較軸、導入後の運用を技術者と編集者が確認し、Web・営業資料・動画に展開する。生成AIで文章を量産するだけでは、調達担当者が確認したい情報の正確さは保証されない。[3] [7]
受注の機会があるとしても、全社一律の予算増を見込むのではなく、特定の製品群・顧客層・営業段階に絞った提案が妥当だ。次に確かめたいのは、同じ企業群の2024~2025年度の宣伝費、広告とコンテンツ制作費の内訳、制作した情報が商談と売上にどう結びついたかである。
まとめ
- 国内の宣伝費は回復したが、全面的な成長とは言えない。 製造業の2023年度の広告宣伝費+販促費は前年比19.8%増でも、2019年度比では28.6%減だった。
- 予算は媒体・用途ごとに選別される。 2025年の四媒体広告費は機械を含む区分で増え、自動車などは減少。海外の製造業担当者調査では、2025年のコンテンツ予算は据え置き見込みが最多だった。
- 商機は顧客の判断を助ける情報にある。 技術の説明、比較、導入事例、展示会後のフォローを一体で設計し、商談への貢献を測れるかが投資判断を左右する。
出典・参考
- 東京商工リサーチ「『広告宣伝費+販売促進費』動向調査」(2025年1月23日)
- 電通「2025年 日本の広告費|業種別広告費」(2026年3月公表)
- Content Marketing Institute / MarketingProfs, “Manufacturing Content Marketing Benchmarks, Budgets, and Trends: Outlook for 2025”(2024年11月20日)
- 株式会社Macbee Planet「マーケティング担当者1,000名に聞く2026年の『投資シフトマップ調査』」(2026年2月3日)
- 電通「電通推定『日本の広告費』の概要」(2026年版、確認日:2026年10月9日)
- 電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月5日)
- テクノポート「製造業の購買活動における生成AI活用の実態調査〈2026年版〉」(2026年3月17日)
- Content Marketing Institute, “How Eaton Reorganized Its Marketing Team Around the Buyer, Not the Product”(2026年10月7日)
- 株式会社マーケライズ「製造業界における展示会の実態を調査」(2026年6月11日)






