新しい事業の種を、今の仕事から探す
ハミングバード・インターナショナルの出発点は、仙台駅前の洋食店「キッチンエリーゼ」だった。公式沿革によると1957年創業で、1980年にハミングバード本町店を開業。生パスタのレストランをはじめ、和食や居酒屋などの業態を展開してきた。[2]
現在の事業を理解するには、店名よりも「何を仕事として提供しているか」に目を向けると分かりやすい。公式サイトが示す四つの事業と、その中身を整理すると次のようになる。[1]
| 事業 | 提供しているもの |
|---|---|
| 店舗運営(with Place) | 料理、接客、食事をする空間 |
| 製造(with Product) | 自社でつくる麺類などの商品 |
| フランチャイズ(with Partner) | 加盟店とともに展開するブランド |
| プロデュース(with Produce) | 自治体や企業と進める飲食店・施設づくり |
一軒の飲食店の仕事を分けてみれば、料理をつくる技術、店を運営する方法、客が過ごす空間を考える経験がある。同社の事業からは、それぞれを別の場所で生かす展開が見えてくる。
ここでの学びは、「自社の強み」を商品名だけで捉えないことだ。たとえば受託サービスの会社でも、納品物のほかに、顧客の困りごとを整理する方法や、品質を確かめる手順が蓄積しているかもしれない。まずは日々の仕事を工程に分け、繰り返し使っている技術や方法は何か、それを必要とする相手は誰かと考えてみる。新しい事業の候補は、そこから探せる。
売上は2025年3月期22億円。過去の数字は何を示すか?
ハミングバード・インターナショナルの事業規模は、売上からも確かめたい。企業が採用情報を掲載するキャリタス就活の会社概要には、2025年3月期の売上高22億円とある。ただし、その欄に単体・グループの集計範囲は記載されていない。[3]
過年度では、就活会議の企業データに、2017年3月期の単体売上高14億円が掲載されている。参照元はNOKIZALとされる二次情報で、今回、元の決算書までは確認できていない。公開資料で確認できた掲載値と、その間の不足を整理した。[4]
| 決算期 | 売上高の掲載値 | 出典・対象範囲 |
|---|---|---|
| 2017年3月期 | 14億円 | 就活会議/NOKIZAL。単体と記載 |
| 2018〜2024年3月期 | 確定実績は未確認 | 今回の調査では連続する実績資料を確認できず |
| 2025年3月期 | 22億円 | キャリタス就活の企業採用情報。単体・グループの範囲は未記載 |
一方で、青木聡志社長のVENTURE FOR JAPAN掲載インタビューには、2024年3月期は前期比7割増の26億円を見込み、2025年3月期は30億円を目指すという説明がある。本文では工場を新設した年を「今年(2024年)」と述べており、これらは当時の見通しや計画として読む必要がある。[5]
| 決算期 | 当時示された数字 | 数字の性格 |
|---|---|---|
| 2024年3月期 | 26億円、前期比7割増 | インタビュー時点の見込み。確定実績としては使わない |
| 2025年3月期 | 30億円 | インタビュー時点の目標。22億円の掲載値と区別する |
14億円、26億円、22億円をそのまま並べて、増収・減収の推移にすることはできない。 実績と見込みが混ざるうえ、集計対象もそろっていないからだ。26億円と22億円の差を「連結と単体の違い」と説明できる資料も見つかっていない。2017年と2025年の掲載値の違いについても、同じ対象範囲の成長率として計算することは避けたい。
売上は企業の規模をつかむ手掛かりになる。しかし、工場やFC、人材育成がどれだけ売上に寄与したか、利益がいくら残ったかは、これらの数字からは分からない。自社の新事業を評価するときにも、売上の増減、利益、投資回収を分けて確かめることが必要だ。同社の成長過程をさらに検証するには、各期で集計範囲がそろった決算数値や、既存店・新店・グループ化した事業の内訳が求められる。
店を広げる前に、共通で支える仕事を考える
ハミングバード・インターナショナルでは、業態が異なる店を製造機能が支えている。公式サイトによれば、運営店舗の麺類はすべて自社工場で製造。パスタ、ラーメン、うどんを扱い、商品は通販でも販売している。[1]
2024年には、三か所に分かれていた製麺工場を、宮城県名取市の閖上工場に集約した。名取市の工場見学記録でも、この集約が確認できる。[6]
また、「ラーメン☆ビリー」ではFC加盟店を募集し、ブランドを他の事業者と広げる取り組みを進めている。FCとは、ブランドなどを使う契約を加盟店と結び、店舗を展開する仕組みだ。[7]
これらを自社の事業に引き寄せるなら、問いは「次の拠点を増やせるか」から「増えた拠点を、何で支えられるか」へ進む。商品や拠点ごとに必要な仕事と、共通で担える仕事を分ける視点である。
ただし、工場を持つこと自体を成功の条件にしてはいけない。集約後の原価や作業時間の削減幅、投資の回収状況は、今回確認した資料だけでは分からない。固定費を負担しても使い続けられる量があるのか、外部に頼む方法と比べてどうか。共通化できる仕事を見つけることと、大きな設備投資を決めることは、別の判断として進める必要がある。
任せたい仕事に合わせて、学ぶ内容を変える
事業を増やしたい一方で、結局は責任者がすべて判断し、現場にも入り続ける。そんな状況を考えるうえで、ハミングバード・インターナショナルの人材育成は参考になる。同社は公式のビジョンで、自らを「人財育成業」でありたいと位置づけている。[8]
具体例が、青木聡志社長の2018年6月更新のインタビューにある。当時、新入社員向けの「翔志塾」では、経営や経理、経営理念を学び、一年のまとめを社長に発表する機会を設けていた。また、カフェを開きたいというスタッフと、新業態のカフェを立ち上げた経験も紹介している。[9]
この事例で注目したいのは、現場の技能と経営の知識を、学ぶ対象に含めている点だ。料理や接客に習熟することと、店の収支を見て判断することには、異なる学びが要る。
たとえば、仕入れや人員配置まで任せたいのに、その費用が収支にどう響くかを一緒に考える機会がなければ、判断を求める側と任される側に隔たりが残る。育成を考えるときは、「研修を何回開くか」に加え、どの判断を任せたいのか、その判断に必要な情報や知識を渡しているかを確かめたい。
翔志塾の現在の運営状況や、人材育成による定着率・生産性の変化までは確認できていない。それでも、任せたい役割から学習内容を考えるという視点は、自社でも検討できる。
自社の得意な役割を、他社の挑戦と組み合わせる
ハミングバード・インターナショナルの事業の広がりには、他社との役割分担もある。2025年6月に仙台・国分町で開業した「ライブレストランJ’Z」が、その例だ。
開業時の発表によると、運営主体は、酒類卸のカネサ藤原屋が設立した100%子会社のensemble。音楽と食事を楽しむ施設で、ハミングバード・インターナショナルは飲食提供を担っている。アーティストの手配には、仙台出身のサックス奏者・熊谷駿氏らが関わると発表された。[10]
新しい施設をつくるには、場所、音楽、料理、集客など、異なる仕事が必要になる。J’Zの発表から分かるのは、それぞれの事業者が役割を持ち寄っていることだ。地域の活性化は掲げる目的であり、その効果が実証されたとまでは言えない。[10]
自社で新事業を考える際にも、構想全体を担うほかに、すでに経験がある一部分を引き受ける選択肢がある。最初に「誰と組むか」を探すよりも、自社が提供できる仕事と、外部に必要な仕事を具体的に書き分けると、協業の相談もしやすくなる。
ただし、得意分野を持ち寄るだけでは運営の責任は決まらない。契約前には、誰が何を決め、どの費用を負担し、どこまで成果に責任を持つかをすり合わせる必要がある。これは本稿から導く検討点であり、J’Zの契約条件を示すものではない。
自社なら、どの仕事から試すか
ハミングバード・インターナショナルの取り組みを、自社で考えるための問いに置き換えてみる。
- 繰り返し頼まれる仕事は何か。 今の顧客が評価している商品、技術、運営方法を具体的に挙げる。
- 別の顧客にも届けるには何が要るか。 共通化できる工程と、相手ごとに調整する工程を分ける。
- その仕事を誰が判断するか。 責任者に必要な知識、見られる数字、決められる範囲をそろえる。
- どこを外部と組むか。 自社が担う役割と、相手に求める役割・費用・責任を明らかにする。
四つを整理したら、小さく試す対象を選びたい。たとえば、今の顧客一社に新しい提供方法を提案し、必要な手間や品質を確かめる。その結果から、続けるか、提供方法を変えるかを判断していく。
同社は2026年度、仙台市の「総合的支援(付加価値向上コース)」の支援先に選ばれた。キックオフで青木氏が掲げたのは、若者を育て、世界的に活躍できる企業を目指すことだった。[11]
今ある仕事のどこに、他の相手にも届けられる価値があるか。その価値を誰が担えるようにするか。ハミングバードの事例は、次の事業を考えるときに、この二つを一緒に問い直す材料になる。
まとめ
- 新事業の種は、現在の商品だけでなく、その裏側の技術や運営方法にもある。 日々の工程を分け、誰がそれを必要とするかを考えると、展開の候補を探せる。
- 事業の広がりを評価するときは、売上の実績と見込み・目標を分ける。 2025年3月期22億円という掲載値だけで各施策の効果は判断できず、同じ集計範囲の売上や利益、投資回収を確かめたい。
- 他社の挑戦に、自社の得意な役割で参加する方法もある。 提供できる仕事、費用、責任の範囲を整理し、小さく試せる相手や場面を選ぶことが出発点になる。
出典・参考
- ハミングバード・インターナショナル「コーポレートサイト/事業紹介」
- ハミングバード・インターナショナル「会社概要・沿革」
- キャリタス就活「ハミングバード・インターナショナル 企業情報」(2025年3月期の売上高掲載)
- 就活会議「ハミングバード・インターナショナル 会社情報・業績データの推移」(参照元:NOKIZAL、2017年3月期単体)
- VENTURE FOR JAPAN「多彩な飲食ブランドで街を元気づけ、店舗を『人づくり』の場に変える経営人」(ページ表示は2026年7月8日更新、本文の計画説明は2024年時点)
- 名取市「ハミングバード・インターナショナル様の閖上工場を見学しました。」(2024年2月9日)
- ハミングバード・インターナショナル「with Partner」
- ハミングバード・インターナショナル「Vision」
- リージョナルキャリア「社員が常に成長できる場であるため、魅力的な会社であり続ける。」青木聡志氏インタビュー(2018年6月6日更新)
- カネサ藤原屋「アーティストの生演奏と食事が楽しめる『ライブレストランJ’Z』6月30日オープン!」(2025年6月30日)
- 仙台市・SENDAI CORE COMPANY「令和8年度支援先企業」(2026年7月29日)
本稿は公開資料をもとにTechCreate編集部が構成した事例解説です。自社での検討方法は編集部の考察であり、同社が公表した経営手順ではありません。資料確認日:2026年10月15日。カバー写真はパスタの生地づくりのイメージで、同社の製品・店舗・工場ではありません。写真:Ron Lach/Pexels(Pexels License)。






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