3回すべった約束
グーグルが最初に延期を認めたのは、ピチャイの約束から2週間後のことだった。 「6月中」という目標は、あっけなく7月へ移った。
Bloombergは7月16日、グーグルが内部評価でコーディング性能が基準を下回り続けていると報じた。 Gemini 3.5 Proは6月末に訓練データのリセットを行ったが、それでも社内の目標には届かなかった。
7月17日にリリースするという観測が一部メディアに広まったが、その日も何も起きなかった。 続いて8月7日という日付が噂された。これも過ぎた。
8月8日時点で、Gemini 3.5 ProはVertex AIの限定プレビューにとどまっている。 グーグルDeepMindの公式の表現は「coming soon」のままだ。
| 予定日 | 実際の結果 |
|---|---|
| 2026年6月(Google I/O発表翌月) | 延期 |
| 2026年7月17日(観測報道) | 延期 |
| 2026年8月7日(観測報道) | 延期 |
| 2026年8月12日(観測報道) | 延期 |
「コーディング性能」という壁
グーグルが繰り返し挙げた理由は一貫していた。コーディング性能の不足だ。
9to5Googleが7月16日に伝えたところでは、社内評価でスコアが繰り返し目標を下回り、改善のために訓練データの組み直しが行われた。 それでも届かなかった。
問題は個別の訓練バッチではないと複数のメディアが書いた。 ロイターとBloombergの両方に「構造的な問題」という表現が出た。
前提から組み直す必要があったとすれば、6月のリセットで間に合うはずがない。 AlphaCodeやGemini 1.5の時代から、グーグルはコーディングを看板の1つにしてきた。 その看板に自分たちが届かない、という状況だ。
CEOが「椅子を空けた」日
8月5日、ニュースが来た。 Demis HassabisがグーグルDeepMindのCEOを退き、会長職に移った。 後任はKoray Kavukcuoglu、元チーフサイエンティストだ。
Hassabisの肩書き変更は降格とは呼ばれなかった。 ただ、文脈は重い。
DeepMindではこの1年で、主要な研究者の離脱が続いていた。 6月18日、Geminiの共同開発者Noam Shazeerが突如OpenAIに移籍した。 2017年のTransformer論文「Attention Is All You Need」の共著者で、グーグルが2024年に約3,900億円($2.7 billion)を投じてCharacter.AIから引き戻した人物だ。
ノーベル化学賞のJohn JumperはAnthropicへ。 David Silver、Jonas Adler、Alexander Pritzelも去った。
Fortuneは8月10日、「低い士気、人材の流出、モデルの遅延」という見出しでDeepMindの内部を報じた。 「初期のDeepMindより官僚主義が増え、研究から製品化までの道が遅くなった」と複数の関係者が語ったという。
Kavukcuogluが率いる新体制が何を変えるのかは、まだ見えていない。
「3週間で値下げ」した側
OpenAIは7月9日、GPT-5.6ファミリーを公開した。 Sol(高性能)、Terra(汎用)、Luna(低コスト)の3種だ。
Solの価格は入力$5・出力$30(100万トークンあたり)で、Anthropicの主要モデルと同じ価格帯に収まった。
だが7月30日、OpenAIはLunaを80%、Terraを20%引き下げた。 Lunaは入力$0.20・出力$1.20になった。 リリースから3週間、競合の参入を封じるような値下げだった。
8月13日にはSolに「Ultrafast mode」が加わった。 4エージェント並列で動かすと、通常のSolより最大14倍の速度が出るという。
OpenAIはTerminal-Bench 2.1で88.8%、BrowseCompで92.2%を記録している。 Gemini 3.5 Proが出てくれば、この数字と直接比較されることになる。
代わりに届いたFlash
Gemini 3.5 Proが出なかった8月13日、グーグルは別のモデルを送り出した。 Gemini 3.7 Flashだ。
Gemini 3.6 Flashから23日後のリリースで、DeepSWEベンチマークのスコアは49.0%から65.3%に伸びた。 FrontierCode 1.1でも34.4%から43.6%へ改善している。
価格は入力$0.75・出力$3.75(100万トークン)、2026年12月末まで。 Gemini 3.6 Flash公開時の半額だ。
ピチャイはGemini 4について「基盤として素早く反復し、ほぼ月次のリリースペースを目指している」と述べた。 「旗艦モデルを磨く」から「Flashを素早く積み上げる」へ、足場が静かに移りつつある。
Gemini 4という「次の賭け」
Gemini 3.5 Proの公開日は、8月19日現在でも正式に示されていない。 グーグルの返答は「coming soon」だけだ。
一方でグーグルはGemini 4の事前学習をすでに開始している。 Gemini 3.5 Proが間に合わなかった穴は、Flashの高速リリースでつないでいる格好だ。
新体制のKavukcuogluが、DeepMindの「研究から製品化までの道」をどう変えるか。 その答えが出るのは、Gemini 3.5 Proが公開されるときか、あるいはGemini 4が先に来るときか。
ピチャイがI/Oで約束した「1カ月」は、この原稿を書いた8月19日時点で94日が経過した。
ソース:
- Gemini 3.5 Pro Delay Continues — Forbes(2026年8月13日)
- Google Unveils Gemini 3.7 Flash Model as Gemini 3.5 Pro Delay Persists — Bloomberg(2026年8月13日)
- Demis Hassabis steps down from Google DeepMind CEO role — Fortune(2026年8月5日)
- Behind the exit of DeepMind's CEO — Fortune(2026年8月10日)
- Google Gemini co-lead Noam Shazeer leaves for OpenAI — CNBC(2026年6月18日)
- GPT-5.6 Sol vs Terra vs Luna: Price & Best Uses — Vellum AI
- Gemini 3.7 Flash launches — 9to5Google(2026年8月13日)
