15億ドルでGalaxyサーバーを量産する
Tenstorrentによると、シリーズEはTrace CapitalとInnovation Xが主導した。ARK Invest、Fidelity、Morgan Stanley、Sandiskなども参加した[1]。
調達額は15億ドル、調達後評価額は62億ドルである。Reutersによると、2024年12月の前回調達は6億9300万ドル超だった[2]。当時の調達前評価額は20億ドル。評価の基準は異なるが、投資家の期待は大きく上がった。
資金の主な用途は次の3つである。
- 複数のAIチップを組み合わせるGalaxyサーバーの量産
- 大規模言語モデルと動画生成向けの導入拡大
- 顧客独自の半導体に使うAIとCPUの設計資産の開発
Tenstorrentはカード、ワークステーション、ラック、サーバー群まで扱う。大口顧客には、完成品を納めるだけでなく、半導体の設計そのものを提供する。
NVIDIA追随ではなく選択肢を増やす
AI計算市場では、NVIDIAのGPUとCUDAソフトウェアが広く使われている。開発者が使い慣れた道具と豊富な周辺ソフトを持つため、別のチップを作るだけでは利用者は移らない。
Tenstorrentは、オープンな命令セット「RISC-V」をCPU側で採用する。Reutersは、ライセンス料なしで設計でき、Armなどの独自規格への依存を減らせる点を説明した[2]。AI向け計算部品とCPUを一体で提案できることが強みになる。
ただし、RISC-Vを使うだけでNVIDIAの代替になるわけではない。モデルを動かすコンパイラー、通信、監視、更新の道具まで揃える必要がある。既存モデルが同じ精度と速度で動くかも、個別に確認しなければならない。
Axiosは、IntelとQualcommが同社の買収に関心を示したとの過去報道に触れた。そのうえで、Tenstorrentは現時点で独立を続けると伝えている[3]。15億ドルは、売却せずに量産へ進むための時間も買う。
設計ライセンスが第二の収益源になる
半導体企業の事業は、自社ブランドのチップを売るだけではない。顧客が自社用途に合うチップを作る際、CPUやAI計算部の設計を組み込む契約がある。
TenstorrentはAIとCPUの知的財産をライセンスする。顧客は設計を一から作らず、必要な部分を組み合わせられる。通信機器、車載、データセンターなど、消費電力や接続方法が違う用途へ合わせやすい。
この方法は完成品の販売より導入に時間がかかる。顧客の半導体が設計、試作、量産へ進むまで数年かかることもある。
一方、採用が広がれば顧客製品の中に長く残る。Galaxyの量産と設計ライセンスは、短期の設備販売と長期の技術収入を組み合わせる狙いがある。
投資家にTetherが加わった理由
今回の投資家には金融機関や半導体関連企業だけでなく、ステーブルコインを手がけるTetherも入った。Tether Capitalは10月20日、同ラウンドへの参加を発表した[4]。
Tetherのパオロ・アルドイノCEOは、少数企業に依存せず、利用者がAIを自ら運用できることを投資理由に挙げた。発表はSamsungとLGを顧客として示している。
この説明は投資家側の主張であり、市場での優位を証明しない。ただ、暗号資産企業がAIモデルではなく計算基盤へ資金を振り向けた点は見逃せない。
計算資源を自国や自社で管理したい「ソブリンAI」の需要もある。データの保存場所、輸出規制、電力調達が問題になるほど、完成したクラウドだけに頼らない選択肢へ資金が集まる。
量産では資金以外の壁が残る
15億ドルは大きいが、先端半導体の競争では十分条件ではない。設計したチップを製造するファウンドリーの確保、高速メモリー、基板、冷却、通信部品が必要になる。
サーバーとして売る場合は、故障交換やソフト更新も引き受ける。顧客が試験導入で高い性能を確認しても、数千台へ増やしたときの安定性が同じとは限らない。
今後は次の数字を分けて見る必要がある。
- 発注や提携ではなく、実際に出荷したサーバー台数
- 試験時の最大性能ではなく、継続運用での処理量と消費電力
- 調達額や評価額ではなく、顧客売上と再購入
- 設計ライセンスの契約数ではなく、顧客製品の量産移行
Reutersが伝えた評価額の上昇は、将来への期待を表す。現在の市場シェアや量産実績を示す数字ではない。資金調達の見出しだけで、NVIDIAへの対抗が成立したとは判断できない。
AI半導体競争は製品から供給網へ広がる
Tenstorrentが目指すのは、チップ単体の販売ではない。開発者向けカードからGalaxyサーバー、顧客向けの設計ライセンスまでを並べる。顧客が必要な層だけを選べる事業である。
この戦略が進めば、AI導入企業の比較項目も変わる。単価と推論速度だけでなく、モデルの移植性、供給地域、保守、設計の自由度を確認する必要がある。
15億ドルの調達は競争の勝敗ではなく、量産と顧客獲得を検証する次の段階へ進む資金だ。 Galaxyの出荷と設計採用が、2027年以降の焦点になる。
まとめ
- Tenstorrentは15億ドルを調達し、Galaxyサーバーの量産と海外展開を進める。
- 完成品に加えてAIとCPUの設計をライセンスし、顧客独自の半導体へ入り込む戦略を取る。
- 62億ドルの評価額は期待値であり、出荷、継続性能、顧客売上を分けて確かめる必要がある。
出典・参考
- Tenstorrent「Tenstorrent Announces a $1.5B Series E at a $6.2B valuation」2026年10月19日
- Reuters「AI chip startup Tenstorrent more than doubles its valuation to $6.2 billion in funding round」2026年10月19日
- Axios「Tenstorrent raises $1.5 billion for AI compute」2026年10月19日
- Tether「Tether Invests in Tenstorrent to Expand Access to Open AI Computing Infrastructure」2026年10月20日







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