67人が死亡した衝突を陸軍も検証した
事故は2025年1月29日午後8時48分、ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港の南東約800メートルで起きた。着陸進入中のアメリカン航空5342便と、米陸軍のUH-60Lブラックホークがポトマック川上空で衝突した。旅客機の乗客・乗員64人とヘリコプターの乗員3人が死亡した。[2]
米国家運輸安全委員会(NTSB)は2026年1月、連邦航空局(FAA)による飛行経路の設計と見直し、安全監督、米陸軍の危険管理に広範な不備があったと結論づけた。8日に公開された陸軍報告も、管制側の対応を挙げる一方、軍の訓練や安全慣行の不足を認めた。[1]
陸軍報告は5月に完成していたが、遺族からの公開要求が続き、10月8日に公表された。AP通信が公開前に報告書を入手し、内容を確認している。今回の新しさは事故原因の初公表ではなく、陸軍が自らの不備と是正策を公開した点にある。

75フィートでは誤差を吸収できなかった
空港の副滑走路へ着陸する旅客機と、川沿いを飛ぶヘリコプターの経路は、計画上わずか75フィート、約23メートルしか上下に離れていなかった。しかも、ヘリコプターが川岸寄りを飛ぶことを前提にしていたのに、経路はそれを義務づけていなかった。[1]
NTSBは、事故機の高度計表示が実際より約100フィート低かったと確認した。つまり、設計上の間隔より計器のずれの方が大きかった。ヘリコプターが表示どおりの高度を守ったつもりでも、旅客機の進入経路に近づく余地があった。
安全余裕が機器の許容誤差より小さければ、個々の操縦士が手順を守るだけでは衝突を防げない。 経路そのものに、誤差や通信失敗を吸収できる距離が必要だった。
途切れた無線と見張り任せが重なった
陸軍報告の作成者は、最も大きな要因として2回の無線送信が途中で遮られたことを挙げた。ヘリコプター側は、管制官が注意を促した5342便を正しく特定できなかった。管制官は操縦士に目視で間隔を保つよう求めたが、夜間の混雑した空域で別の機体を見分けることには限界がある。[1]
NTSBの最終報告も、航空機とヘリコプターで別の周波数を使っていたため、同時送信で重要な指示が完全には届かなかったとした。また、旅客機の衝突防止装置は設計どおり動いたが、低高度では回避指示を出す機能に制限があった。[3]
事故後、FAAは混雑空域で管制官が目視分離だけに頼る運用を禁止した。
陸軍は3585機を点検し設定を改めた
事故機では、自機の位置を外部へ送るADS-B Outが長期間動いていなかった。陸軍は対象となるヘリコプター3585機を点検し、設定を変更したと説明している。乗員訓練も強化し、FAAとの間で接近事例を共有する仕組みの改善を進める。[1]
ADS-B Outは航空機の位置、高度、速度などを地上局や周囲へ放送する。送信されなければ、管制や他機が使える情報が減る。事故機のシステムが動かなかった原因と、同型機全体でどの設定を変えたかの詳細は、公開報道だけでは十分に確認できない。
NTSBは陸軍に出した8件の勧告のうち7件で進展があったと評価した。一方、FAA向けの勧告は約3分の1が未実施だとAP通信は伝える。機体側の点検が進んでも、空域設計と管制運用が残れば同じ種類の危険は消えない。
遺族は衝突回避技術の義務化を求める
遺族団体Families of Flight 5342は、航空機同士が互いの位置を把握できる衝突回避技術の義務化を議会に求めた。米上院と下院はそれぞれ航空安全法案を可決したが、8日時点で一本化されていない。[1]
NTSBは、旅客機がADS-B Inを使う新しい空中衝突防止システムを備えていれば、衝突の59秒前にヘリコプターへの最初の警報を出せた可能性があるとした。[2]
ただし、装置を付ければすべて解決するわけではない。経路間隔、管制官の業務量、周波数、軍の報告文化もNTSBの勧告対象である。機器、運用、組織の一つだけを直すのではなく、失敗が重なっても事故に至らない複数の防護が要る。
公表で残った3つの確認事項
陸軍報告の公表で対策の輪郭は見えたが、次の3点は追跡が必要だ。
- 黒塗り部分を含む完全な説明と、陸軍内での責任分担がどこまで示されるか。
- FAAが未実施の勧告をいつ、どの手順で実装するか。
- 上下両院の法案が一本化され、衝突回避技術の搭載義務に結びつくか。
67人を失った事故で見つかった複数の弱点を、規則、経路、機体設定へ反映できるかが次の焦点になる。
カバー画像は米陸軍ヘリコプターのイメージで、事故機や事故現場ではない。写真:Cory Hancock / U.S. Army / Wikimedia Commons、Public Domain。
まとめ
- 米陸軍は、67人が死亡した空中衝突について管制、経路、訓練、安全管理の複数の不備を認めた。
- 設計上の上下間隔75フィートは、高度計の約100フィートのずれを吸収できず、通信の遮断や目視分離への依存も重なった。
- 3585機の点検と訓練強化は進んだが、FAAの勧告実施と衝突回避技術の法制化は残る。






