「飢え」という武器
スーダンのダルフール地方への人道支援ルートは、ほぼすべてが閉ざされている。
スーダン軍とRSF(即応支援部隊)が主要道路を拠点にしており、支援団体の車列は双方から攻撃を受けるリスクを負う。国連のWFP(世界食糧計画)は昨年から「安全に届けられる通路がほとんどない」と警告し続けてきた。
ダルフールのジェベル・マラはその中でも特に孤立した地区だ。外部へのアクセスがほぼない山間地に、大勢の避難民が流れ込んでいる。
地元行政の「毎日二十人が死んでいる」という報告は、独立した検証が難しい状況だ。しかしスーダン・トリビューンが九月八日に報じたこの数字は、国際機関も「ありうる規模」として扱っている。
「世界最大の飢餓危機」という現実
スーダンの飢餓規模は、現在世界最大水準にある。
ユニセフは二〇二六年に、スーダン全体で八十二万五千人以上の子どもが重度の急性栄養不良(SAM)に陥ると予測している。これは二〇二五年比で七パーセント増、内戦前と比べると二十五パーセント高い数字だ。支援なければ多くが死亡するとされる。
スーダン医師組合は昨年一月時点で、内戦開始から五十二万二千人の子どもが栄養失調で死亡したと推計している。この数字も独立した検証は難しいが、内戦の深刻さを物語っている。
スーダン全体では人口の半分にあたる三千三百七十万人が、緊急の人道支援を必要とする状態にある。
RSFが「ダルフールを封鎖した」理由
ダルフールに人道支援が届かない背景には、政治的な問題がある。
RSFはスーダン内戦の主要な一方の当事者で、その指揮官のモハメド・ハムダン・ダガロ(通称「ヘメティ」)はダルフール出身だ。RSFはこの地方を長く支配下に置こうとしており、政府軍の補給ルートも人道支援ルートも、自分たちの地盤を通るものはコントロールしようとする傾向がある。
一方でスーダン政府軍はダルフール内のRSF支配地域に空爆を続けており、民間人が両者に挟まれる形になった。
国際刑事裁判所(ICC)はRSFと政府軍双方による戦争犯罪の捜査を進めているが、容疑者への実際のアクセスはできていない状況だ。
「見えない死」が続く理由
ダルフールの飢餓が国際的な注目を集めにくい理由の一つは、アクセスの難しさだ。
記者が入ることができない。支援団体も入れない。衛星写真でも農村の飢餓の実態は見えにくい。
アフリカ研究者のアレックス・ド・ワール教授(タフツ大学)は「ダルフールはガザとは逆の問題を抱えている。映像がないから死が見えない。見えないから世界が動かない」と述べた。
現在のスーダン向け人道支援の充足率は、要求額の三十五パーセント程度とされている。ウクライナ、ガザ、レバノンへと資金が集中する中で、スーダンへの拠出が細っているというのが現場の声だ。
国連のOCHAは九月中に緊急アピールを更新する予定だが、ジェベル・マラへの物資搬入は今月中にできる見通しが立っていない。毎日二十人が死に続けているとすれば、一か月後には六百人の追加死者を意味する。
スーダンへの注目が薄れてきた一方、戦争は続いている。ダルフールの飢餓が止まるためには、支援ルートの開通か停戦の実現が必要だ。どちらも今のところ見通せない。
まとめ
- 九月八日時点で、スーダン・ダルフールのジェベル・マラで毎日約二十人が飢餓で死亡しており、一千万人以上の命が脅かされている
- スーダン全体で八十二万五千人以上の五歳未満児が重度の急性栄養不良に陥ると予測されており、世界最大規模の飢餓危機として国際機関が警告している
- アクセスの困難さと他危機への資金集中により、ダルフールへの人道支援は要求額の三十五パーセント程度にとどまり、「見えない死」が続いている
出典・参考
- スーダン・トリビューン「Famine conditions hit Sudan's Jebel Marra as deaths mount」(2026年9月8日)
- ユニセフ「Humanitarian Action for Children Sudan 2026」
- OCHA スーダン緊急アピール(2026年)
- アレックス・ド・ワール教授(タフツ大学)発言
- ロイター通信・AFP通信(2026年9月9日)



