「ガザでやったことを西岸でもせよ」
スモトリッチ氏は西岸での全面的な軍事行動を明確に求めた。 「ガザでやったことをユダヤ・サマリアでもやる時が来た」と述べた。[1]
氏は西岸を聖書的なヘブライ語の地名「ユダ・サマリア」と呼んでいる。 その呼称自体が歴史的・宗教的な主権主張を内包しており、政治的な立場を示す言葉として機能している。
現在も西岸ではイスラエル軍による作戦が続いているが、氏が求めるのはガザと同規模の全面的な地上作戦だ。 パレスチナ自治政府(PA)はこの発言を強く非難し、「占領、強制退去、民族浄化への明確な呼びかけだ」と声明を発表した。[2]
スモトリッチ氏は過去にも「パレスチナ人という民族は存在しない」と発言するなど、繰り返し批判を受けてきた。 今回の発言も同様の強硬路線の延長線上にあり、国際社会から反発を招くことを承知のうえでの発言だとみられる。
西岸での暴力事件は増加傾向にあり、入植者による攻撃でパレスチナ人の農地が焼かれるケースが相次いでいる。 スモトリッチ氏が「入植者を守る」姿勢を強調するほど、暴力の抑制が難しくなるとの批判もある。
スモトリッチ氏は財務相として入植地への資金配分も管理しており、発言の実行力は単なる政治的レトリックを超えた影響力を持つ。 西岸での入植者による暴力事件が増加する中、軍事作戦の要求はその延長線上に位置づけられている。
連立内では国家安全保障相のベン・グビル氏も過激な立場で知られている。 複数の強硬派が競い合うように発言を繰り返す状況が続いている。
このような発言の積み重ねが和平交渉の土台を侵食し、パレスチナ側の交渉意欲を削ぐ効果もある。
「レバノン南部とガザを組み込む」
スモトリッチ氏は併合したい地域の具体的な地理的範囲を示した。 ガザについてはリタニ川まで、レバノンについては黄色線までを「組み込むべき」と発言した。[3]

リタニ川は現在のイスラエル北境から約30キロ北に位置しており、その地域はヒズボラの拠点が集中してきた場所だ。 イスラエル・ヒズボラ間の停戦が成立した南部地域を「占領」から「正式な編入」へと転換しようとする主張だ。
こうした要求は国際法や国連安保理決議に明確に反するとして広く批判されている。 米国を含む同盟国も懸念を表明する可能性がある。
イスラエルは1982年から2000年まで南レバノンを占領した経緯がある。 その撤退後にヒズボラが一層強化されたという分析もある。
過去の占領経験に基づけば、領土の編入が安全保障の改善につながるかどうかは疑問視される見方もある。 しかしスモトリッチ氏の支持層にはこうした安全保障上の論拠よりも宗教的・民族的な根拠が重要視されている。
西岸にはすでに約70万人のイスラエル人入植者が居住しており、その存在が事実上の「編入」を進めているとも言える。 入植地の拡大は毎年続いており、2国家解決のための地理的な余地が縮小しているとの指摘がある。
選挙前の強硬発言
イスラエルでは10月27日に総選挙が予定されており、ネタニヤフ首相は現政権の維持を目指して接戦を戦っている。[4] 選挙前には連立内の強硬派が存在感を示す傾向があり、スモトリッチ氏の発言も選挙を強く意識したものとの見方がある。
氏の主張が連立維持のための選挙向け発言なのか、実際に政策として追求する意図なのかは判断が難しい。 過去にも選挙前に同様の強硬発言が繰り返されてきた経緯があり、発言と政策の乖離は珍しくない。
Al Jazeeraは「選挙向けのレトリックか、本当の脅威か」という問いを立てた。 その問いへの答えは選挙後の政策の実際の動きにかかっており、現時点では断言できない。
イスラエルの右派政党は過去にも選挙前に過激な発言をして票を集め、選挙後は現実的な姿勢に転じた経緯がある。 しかし今回は戦時中であり、選挙後もその状況は変わらないため、発言が政策に直結しやすい環境にある。
ネタニヤフ首相が今回の発言から距離を置くかどうかが外交的な焦点になる。 スモトリッチ氏は連立政権に不可欠な立場にあり、連立を維持するためには氏の要求を無視しにくい。
極右連合の発言力が政府内で強まるほど、国際社会との関係が緊張する構図が続いている。 イスラエルへの武器供与を条件付きにするよう求める声も欧米の一部で高まっている。
ネタニヤフ首相自身も国際刑事裁判所から逮捕状が出ており、欧州訪問が難しくなっている。 政権の外交的な孤立が進む中でも、連立内では強硬派との協調が優先されてきた。
国際的な批判と現実的な限界
こうした発言は国際法や国連決議に反し、武力による領土変更を認めないという国際社会の原則と正面から対立する。[2] 米国はイスラエルの最大の同盟国だが、正式な西岸併合には反対してきた経緯があり、今回の発言への反応が注目される。
欧州連合(EU)もこれまで入植活動の拡大を批判している。 イスラエルとのEU経済協定が人権状況を根拠に見直される可能性も指摘されている。
アラブ諸国でも今回の発言を批判する声が上がるとみられ、関係正常化を進めてきた国々の動向にも影響する可能性がある。
同盟関係は発言だけでは動かないが、具体的な政策立案と立法措置が伴えば現実化するリスクがある。 発言の実行可能性には現実的な制約があり、米国の支持なしに大規模な領土変更は難しい。
発言が繰り返されるたびにパレスチナ側の不信感が積み重なり、二国家解決の枠組みへの信頼が失われていく。 その信頼の喪失は、将来の和平交渉が成立する土台を狭めるという意味での長期的な損害をもたらす。
アラブ諸国がイスラエルとの関係正常化を再考する動きが出れば、地域の外交地図が塗り替わる可能性もある。 特にサウジアラビアとの正常化交渉は、今回のような発言が続く限り進めるのが難しくなる。
国際社会がどの程度の圧力をかけられるかは、米国の姿勢に大きく左右される。 次期米政権の対イスラエル政策が、こうした発言への国際的な反応の強さを決める要因になる。
アラブ首長国連邦やバーレーンとの関係正常化を定めた「アブラハム合意」も揺らぐ可能性がある。 今後の強硬政策次第では、見直しを求める声が出ることも考えられる。
地域の安定に向けた積み上げが、一つの発言によって損なわれるリスクが常に存在する。
イスラエル国内でも、スモトリッチ氏の発言を批判する野党や市民社会の声がある。 戦時下では反対意見が抑制される傾向があるが、連立内の亀裂が表面化することもある。
「二国家解決」への打撃
スモトリッチ氏の主張は、2国家解決という国際社会が長年支持してきた枠組みと根本的に相容れない。 2国家解決はパレスチナ側が独立国家を持つことを前提にしており、西岸の全面的な軍事制圧や編入はそれを否定する。
米国は歴史的に2国家解決を支持してきたが、近年はその立場が曖昧になっているとの批判もある。 ガザでの戦争が長期化する中で、和平の枠組みを描くことが一段と難しくなっている。
イスラエル国内でも2国家解決を支持する声は残っているが、現政権下では少数派になっている。 今回の発言はその傾向をさらに強化するものとして受け止められた。
まとめ
- スモトリッチ財務相がレバノン南部・ガザ一部の「併合」とヨルダン川西岸での戦争開始を求めた。
- 発言は10月27日のイスラエル総選挙を控えた時期に出た。
- 国際法違反との批判を受け、具体的な政策化には米国との関係が問われる。
出典・参考
- The New Arab「Smotrich calls for West Bank war, annexation of Lebanon, Gaza」(2026年)原典
- Gulf News「Israeli Far-Right Minister Urges West Bank War, Annexation of Gaza and South Lebanon Amid Rising Violence」(2026年)原典
- Times of Israel「Smotrich: Israel must 'go to war' in West Bank as 'we did in Gaza,' annex most of Strip, south Lebanon」(2026年)原典
- Al Jazeera「Israel's Smotrich calls for 'war' in West Bank: Rhetoric or real threat?」(2026年9月27日)原典






