「2万1400人」ILOが明らかにした雇用被害の規模
ILOが今回行ったのは、洪水の雇用影響を数えた速報評価だ。 浸水域の周囲4キロ以内に居住する就労者の数を推計した結果、2万1400人という数字が出た[2]。
この数字は直接被災した人の数ではない。 洪水で道路や市場が遮断されることで、通勤や仕事の継続が難しくなった人の推計だ。
ネパールは労働者の約6割がインフォーマルセクターで働いている。 社会保障の網の外にいる人々は、収入が途絶えると即座に生活が苦しくなる。
日雇い労働者や季節労働者は特に脆弱だ。 観光ガイドやポーターは仕事がなければ1日の収入がそのまま消える。
ILOは今回の調査について、被害の全体像を把握するための第一歩だと位置づけた。 インフォーマル雇用の多い社会では、公式統計だけでは実態が見えにくいという。
今後の復旧が進むにつれて、雇用への影響がさらに広がる可能性もある。 工場や小規模事業者の損傷が確認されれば、数字はさらに大きくなるとILOは指摘した[3]。
「観光・農業・輸送」打撃を受けた三つの産業
観光業はネパール経済の柱の一つだ。 エベレストを含むヒマラヤのトレッキングは世界中から旅行者を集めている。
洪水で山岳ルートへのアクセス道路が複数失われた。 ガイド、ポーター、ロッジ経営者は仕事を失う状況になった。
農業もダメージを受けた。 洪水が農地を流し、種子と農具も失われた農家がいる。
秋の収穫期に重なる形で被害が起きた。 農業収入が見込めない状況で冬を迎える農家が出てきている。
輸送業者も打撃を受けた。 道路が崩落し、トラックが通れなくなった区間が複数ある。
物資の輸送が止まると、遠方の村では物価が上がる。 コメや燃料などの基礎物資の価格が上昇したという報告もある[3]。
「国境を越えた影響」中国との貿易ルートも遮断
今回の洪水で損傷した橋の中に、中国との国境にある国際橋が含まれる。 コダリ検問所からの輸入品は、ネパールの輸入全体の約22%を占める[2]。
中国側の輸入が止まると、電化製品や工業製品の供給に影響が出る。 それらを取り扱う輸送業者や小売業者にも連鎖的な影響が広がった。
被害の波及は国境を超えていた。 ILOは「被害は被災地の外にまで及んでいる」という言葉でこの点を強調した[1]。
中国ルートの復旧には道路と橋の再建が必要だ。 ネパールの地形では、大型の土木工事は時間がかかることが多い。
輸入が滞る期間が長くなるほど、物価上昇が続く可能性がある。 輸送に関わる仕事も、道路が直るまでは戻らない。
「社会保障なし」インフォーマル労働者が直面した現実
ネパールの労働市場の特徴は、非正規・インフォーマル雇用の多さだ。 正規雇用では労災保険や失業手当がある程度機能するが、非正規では適用されない。
洪水で仕事を失った観光ガイドには補償の仕組みがない場合が多い。 農業日雇い労働者も同様だ。
ILOは今回の調査でこの問題を明示した。 インフォーマル雇用の多い経済では、自然災害が起きると貧困層への影響が直接的かつ速いという。
日雇い労働者が3日間働けなければ、3日分の収入が消える。 生活費の積み立てもなく、家族の食事を確保することが難しくなる家庭がある。
ILOはネパール政府に対して、インフォーマル労働者への緊急支援を呼びかけた[4]。 社会的保護の枠組みを拡大することで、次の災害への耐性を高める必要があるという考えだ。
「復旧の遅れ」山岳地形と雨季が立ちはだかる
ネパールの山岳地帯では道路の修復に時間がかかる。 地形が急峻なうえ、雨季には土砂崩れが繰り返し発生する。
8月末から始まった道路の修復作業は、10月になっても一部が続いている。 重機を搬入するための仮設道路を作るところから始めなければならない区間もある。
道路が直らなければ、農作物を市場に運べない。
観光客も戻ってこない。雇用の回復は道路の復旧と直結している。
ネパール政府は被害を受けた地域への支援を表明している。 国際社会からの支援も続いているが、予算と施工能力の両方が限られている。
ILOの報告書は、インフォーマル雇用への直接的な支援を急ぐよう訴えた[4]。 雇用の回復なしには、被災地域の経済的な復旧は難しいという立場だ。
まとめ
ネパールの8月26日の洪水から5週間が経ち、ILOは約2万1400人の雇用が影響を受けたと確認した。 観光・農業・輸送業が特に打撃を受け、インフォーマル労働者への影響は速く深い。
中国との国境輸送ルートの遮断が物価に波及した。 社会保障の網が薄い環境では、自然災害が貧困層を直撃しやすい。
道路復旧が進むにつれて雇用は戻る可能性があるが、ILOは速やかな直接支援が必要だと訴えている。
出典・参考
- Nepal floods threaten jobs and livelihoods beyond disaster zone: ILO — UN News、2026-10-01
- Nepal floods threaten jobs and livelihoods far beyond affected areas, ILO assessment finds — ILO、2026-10-01
- Floods disrupt livelihoods of 21,400 workers in Nepal: ILO — Kathmandu Post、2026-10-01
- Employment implications of the floods in Nepal: A preliminary rapid assessment — ILO出版、2026-10-01






