OSTP局長が描く「AIの黄金時代」——議会証言の内容
クラトシオスのトランプ政権における戦略の核心は、「中国に対してAI・量子・先端製造の三つで先行することが国家安全保障の最重要課題」という認識だ。 議会での証言では、連邦の研究費配分の見直し、民間との官民パートナーシップ強化、AIに特化した規制緩和をセットで提示した。 「科学的優位」を国家戦略の柱に据えることで、予算削減圧力がかかるNSF(国立科学財団)や国防高等研究機構(DARPA)への支持を議会に訴えた格好だ。
注目すべきは、この「攻め」の戦略と同時に「守り」の議論が進行していることだ。 米商務省は中国のオープンウェイトAIモデル(DeepSeek V4など)を対象とした新たな輸出規制の適用を検討しており、知的財産ではなく「学習済みの重み」そのものを規制対象にできるかを精査している。
中国側の反応——AIを「全人類の共有財」と位置づける外交戦略
これに対して中国の習近平主席は7月17日の世界AI会議(WAIC 2026)への登壇を受け、「AIは特定の国が独占すべきでなく、全人類が恩恵を受けるべきものだ」と発言した。 習近平がWAICO(世界AI機構)の設立を主導し29カ国が参加する動きは、国際的なAIガバナンス議論を中国有利に形成しようとする戦略だ。 G7諸国が不参加となったことで、「民主主義陣営vs中国主導陣営」という構図が浮き彫りになっている。
DeepSeekがオープンウェイトモデルの国際競争で存在感を高めていることも、米国の懸念を高めている背景にある。 「オープンソースの形をとりながら実質的に中国の利益に沿う技術の普及」という図式は、輸出規制の概念を揺さぶっている。
オープンウェイトAIへの規制——前例なき法的挑戦
オープンウェイトAIモデルへの輸出規制は、半導体チップへの規制とは性質が根本的に異なる。 チップは物理的な製品であり、輸出入の管理は既存の枠組みで対応できる。 だが「モデルの重みファイル」はデジタルデータであり、一度公開されれば世界中に拡散する。
米国がDeepSeekなどの中国製オープンウェイトモデルを規制しようとした場合、その有効性は極めて限定的になる。 既に世界中のサーバーにダウンロードされたモデルを「使用禁止」にすることは事実上不可能だ。 むしろ規制は「新たなモデルの公開・更新へのアクセス制限」という形になるが、そこにも法的な抜け穴は多い。
9月の米中AIダイアログへの影響
ワシントンが中国AIへの制限を強化した場合、9月に予定されている米中AIダイアログへの影響が懸念される。 APECでは21カ国がAI原則で合意し米中も同席したという多国間協調の動きも進んでいるが、二国間の直接対話はより繊細だ。 アナリストは「新規制の発表タイミングが9月前になれば、対話自体がキャンセルされるリスクがある」と見ている。
地政学的には現在、「AIが次の軍事・経済の要諦」という認識で米中双方の合意がある。 合意があるからこそ、その要諦を巡る競争はゼロサムに近い緊張を帯びる。 対話を維持しながら規制を強化するという矛盾した要求を、トランプ政権がどう処理するかが今後の注目点だ。
同盟国への波及——日本・欧州・中東の位置取り
この米中AIの覇権争いで「割を食う」のが中立的な立場を取り難い同盟国だ。 米国がUAEを先進国同等に格上げしNvidiaのGPU輸出を解禁したように、地政学的な同盟強化はAIアクセスと紐付けられている。 日本も「AI半導体の輸出先」という位置では中立を維持できず、米国主導の枠組みに組み込まれている。
欧州は独自の「EU AI Act」でアーキテクチャを持とうとしているが、AIチップは米国・メモリはSK Hynixなど韓国という依存構造は変わらない。 「ルール作りの主権」と「インフラ依存」の分裂が欧州の弱点だ。
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問い——「科学の黄金時代」は対立で生まれるか
かつての宇宙開発競争は、米ソの対立がNASAへの予算投入を生み、結果的に人類の技術を押し上げた。 AIの米中競争にも同様の「競争が加速する」という効果はあるだろう。 だが、AIの成果が国家の壁に閉じ込められることで、人類全体への恩恵が損なわれるリスクも存在する。
米国が「ゴールデンエイジ」を唱え、中国が「全人類の共有財」を訴える。 両者のレトリックが目指す先は同じではない。 AIの未来を「開かれた国際財産」として守る制度設計の議論は、今こそ始めるべきではないか。
ソース:
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