シリコンバレー拠点のAyar Labsは3月10日、シリーズEラウンドで5億ドル(約750億円)の資金調達を完了したと発表した。評価額は37.5億ドルに達し、光インターコネクト分野では過去最大規模の調達となった。累計調達額は約8.7億ドルに上る。
調達の概要——半導体大手が総結集
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 調達額 | 5億ドル(シリーズE) |
| 評価額 | 37.5億ドル |
| 累計調達額 | 約8.7億ドル |
| リード投資家 | Neuberger Berman |
| 新規参加 | ARK Invest, Insight Partners, カタール投資庁(QIA), Sequoia Global Equities, 1789 Capital, Alchip Technologies, MediaTek |
| 既存投資家 | AMD Ventures, NVIDIA, Intel Capital, Advent Global Opportunities |
NVIDIA、AMD、Intel——GPU/AI半導体の3大メーカーがすべてAyar Labsに出資している事実は、光インターコネクトが「あると便利な技術」ではなく「AI時代の必須インフラ」であることを物語っている。
TeraPHY光チップレット——なぜ「光」が必要なのか
Ayar Labsの主力製品「TeraPHY」は、Co-Packaged Optics(CPO)技術を採用した光チップレットだ。電気信号から光信号への変換をプロセッサパッケージの直近で行うことで、信号損失を最小化し、レイテンシを抑える。
| 仕様 | TeraPHY | 従来の銅配線 |
|---|---|---|
| 帯域幅 | 最大8Tbps双方向 | 〜400Gbps/リンク |
| 電力効率 | 5pJ/bit未満(10倍以上効率的) | 数十pJ/bit |
| レイテンシ | 10ナノ秒 | 距離に依存 |
| 伝送距離 | 数百メートル〜数キロ | 〜3メートル |
| チップエッジ帯域 | 200Gbps/mm | 限定的 |
| 実証済み最大性能 | 16Tbps双方向@5pJ/bit未満 | — |
GPT-4の学習には約25,000台のA100 GPUが使われたとされ、次世代モデルでは10万台以上のクラスタが必要になる見通しだ。これだけの規模のGPU間通信を銅線で処理するには、膨大なケーブル重量・冷却負荷・電力消費が発生する。光インターコネクトはこの物理的制約を根本から解消する。
CPO vs プラガブルオプティクス——技術選択の分岐点
| 比較 | CPO(Co-Packaged Optics) | プラガブルオプティクス |
|---|---|---|
| 統合方式 | プロセッサパッケージ内に光素子を直接統合 | 外付けモジュールとしてフロントパネルに接続 |
| 電力効率 | ビットあたり消費電力が3分の1以下 | 高い |
| 帯域密度 | 非常に高い | 距離が長い場合に優位 |
| 用途 | GPUクラスタ内の短〜中距離接続 | データセンター間の長距離接続 |
競合環境——光インターコネクト市場の勢力図
| 企業 | 評価額 | 技術 | 状況 |
|---|---|---|---|
| Ayar Labs | 37.5億ドル | TeraPHY CPOチップレット | 独立。量産拡大中 |
| Lightmatter | 44億ドル | Passageフォトニックインターコネクト | 独立。10万プロセッサ超のクラスタ接続 |
| Celestial AI | 旧12億ドル | Photonic Fabric | 2025年12月にMarvellが50億ドル超で買収 |
| Broadcom | 上場 | CPOモジュール | Metaと100万リンク時間のテスト完了 |
注目すべきはCelestial AIがMarvellに50億ドル超で買収されたこと。光インターコネクト市場のM&Aは加速しており、NVIDIA自身も2026年3月にフォトニクス分野に40億ドルを投資している。
市場予測——CPOは2036年に200億ドル市場へ
| 市場セグメント | 2024年 | 2030年予測 | CAGR |
|---|---|---|---|
| 光インターコネクト全体 | 160億ドル | 345億ドル | 14.1% |
| シリコンフォトニクス | 22億ドル | 97億ドル | 29.5% |
| CPO市場 | 0.5億ドル | 200億ドル超(2036年) | 37% |
データセンターの電力危機——光が解決の鍵に
光インターコネクトへの注目が高まる背景には、データセンターの電力消費が世界的な問題になっているという事実がある。IEAによれば、データセンターの電力消費は2026年に650〜1,050TWhに達し、世界の電力の約2%を消費する見通しだ。AIが電力需要の最大の成長要因であり、年率約15%の増加が2030年まで続くと予測されている。
米国ではデータセンターの電力消費が全米の4.4%(2023年)を占め、2028年までに6.7〜12%に拡大するとの推計がある。バージニア州だけで年間24TWhを消費し、カーネギーメロン大学の研究では、データセンターの急増が米国の平均電気代を2030年までに8%押し上げ、最も需要の高い地域(北バージニアなど)では25%以上の上昇になると予測されている。データセンター集積地域の電力卸売価格は5年間で267%上昇した。
GPU間の通信にかかる電力は、GPUクラスタ全体の電力消費の大きな部分を占める。TeraPHYの5pJ/bit未満という電力効率は、従来の銅配線と比較してビットあたりの消費電力を3分の1以下に抑える。10万台規模のGPUクラスタでは、この差がデータセンター全体で年間数百万ドルの電力コスト削減につながる計算だ。光インターコネクトは性能問題であると同時に、サステナビリティの問題でもある。
Meta、Google、Microsoftも光接続へ移行
ハイパースケーラーの動きも加速している。MetaはDisaggregated Scheduled Fabric(DSF)で最大18,432個のXPU(アクセラレータ)を非ブロッキング接続する光インターコネクト基盤を構築中だ。さらに次世代のNon-Scheduled Fabric(NSF)は、数ギガワット規模の「Prometheus」クラスタ向けに設計されている。Broadcomは2025年10月に、Metaと共同でCPOソリューションの100万リンク時間のテストを「リンクフラップ(接続断)ゼロ」で完了したと発表した。Meta、Microsoft、Googleはいずれも2026年初頭にシリコンフォトニクスベンダーとのCPOパイロットプログラムを開始しており、市場の本格立ち上がりは2026〜2028年と見られている。
AIインフラの構造変化——「計算」から「接続」へ
NVIDIAが次世代GPUで光インターコネクト対応を進めていることからも、業界の方向性は明確だ。NVLink 6.0(Vera Rubin世代、2026年後半)ではGPUあたり3,600GB/sの帯域幅を実現し、NVL72ラック全体で260TB/sに達する。この規模の通信を銅線で処理するのは物理的にほぼ不可能だ。
オンチップ光I/O市場は2026〜2028年に本格的な量産フェーズに移行すると見られており、Ayar Labsはその最前線に立っている。同社の技術はUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)規格に準拠しており、異なるベンダーのチップレットとの相互運用性が確保されている。これは光インターコネクトが特定のGPUベンダーに依存しない「オープンなインフラ技術」として普及するための重要な要素だ。
Ayar Labsは台湾・新竹にも新オフィスを開設し、グローバルな量産体制の構築を進めている。モデルの性能競争だけでなく、それを支える物理層への投資が加速する2026年を象徴する調達だ。
出典: Ayar Labs公式プレスリリース, Reuters, Yole Intelligence, NVIDIA技術ドキュメント