この記事でわかること
- Ayar LabsがシリーズEで5億ドル調達、評価額37.5億ドル、累計8.7億ドルに到達した概要
- NVIDIA・AMD・Intelの3大半導体メーカーすべてが出資している異例の投資構造
- 主力製品「TeraPHY」の最大8Tbps双方向、5pJ/bit未満という従来比10倍以上の電力効率
- Co-Packaged Optics(CPO)とプラガブルオプティクスの技術的違いと用途分岐
- Lightmatter(評価額44億ドル)、Celestial AI(Marvellが50億ドル超で買収)など競合の勢力図
- データセンター電力消費が2026年に世界電力の約2%となる中での光インターコネクトの役割
シリコンバレー拠点のAyar Labsは3月10日、シリーズEラウンドで5億ドル(約750億円)の資金調達を完了したと発表した。評価額は37.5億ドルに達し、光インターコネクト分野では過去最大規模の調達となった。累計調達額は約8.7億ドルに上る。
調達の概要——半導体大手が総結集
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 調達額 | 5億ドル(シリーズE) |
| 評価額 | 37.5億ドル |
| 累計調達額 | 約8.7億ドル |
| リード投資家 | Neuberger Berman |
| 新規参加 | ARK Invest, Insight Partners, カタール投資庁(QIA), Sequoia Global Equities, 1789 Capital, Alchip Technologies, MediaTek |
| 既存投資家 | AMD Ventures, NVIDIA, Intel Capital, Advent Global Opportunities |
NVIDIA、AMD、Intel——GPU/AI半導体の3大メーカーがすべてAyar Labsに出資している事実は、光インターコネクトが「あると便利な技術」ではなく「AI時代の必須インフラ」であることを物語っている。
TeraPHY光チップレット——なぜ「光」が必要なのか
Ayar Labsの主力製品「TeraPHY」は、Co-Packaged Optics(CPO)技術を採用した光チップレットだ。電気信号から光信号への変換をプロセッサパッケージの直近で行うことで、信号損失を最小化し、レイテンシを抑える。
| 仕様 | TeraPHY | 従来の銅配線 |
|---|---|---|
| 帯域幅 | 最大8Tbps双方向 | 〜400Gbps/リンク |
| 電力効率 | 5pJ/bit未満(10倍以上効率的) | 数十pJ/bit |
| レイテンシ | 10ナノ秒 | 距離に依存 |
| 伝送距離 | 数百メートル〜数キロ | 〜3メートル |
| チップエッジ帯域 | 200Gbps/mm | 限定的 |
| 実証済み最大性能 | 16Tbps双方向@5pJ/bit未満 | — |
GPT-4の学習には約25,000台のA100 GPUが使われたとされ、次世代モデルでは10万台以上のクラスタが必要になる見通しだ。これだけの規模のGPU間通信を銅線で処理するには、膨大なケーブル重量・冷却負荷・電力消費が発生する。光インターコネクトはこの物理的制約を根本から解消する。
CPO vs プラガブルオプティクス——技術選択の分岐点
| 比較 | CPO(Co-Packaged Optics) | プラガブルオプティクス |
|---|---|---|
| 統合方式 | プロセッサパッケージ内に光素子を直接統合 | 外付けモジュールとしてフロントパネルに接続 |
| 電力効率 | ビットあたり消費電力が3分の1以下 | 高い |
| 帯域密度 | 非常に高い | 距離が長い場合に優位 |
| 用途 | GPUクラスタ内の短〜中距離接続 | データセンター間の長距離接続 |
競合環境——光インターコネクト市場の勢力図
| 企業 | 評価額 | 技術 | 状況 |
|---|---|---|---|
| Ayar Labs | 37.5億ドル | TeraPHY CPOチップレット | 独立。量産拡大中 |
| Lightmatter | 44億ドル | Passageフォトニックインターコネクト | 独立。10万プロセッサ超のクラスタ接続 |
| Celestial AI | 旧12億ドル | Photonic Fabric | 2025年12月にMarvellが50億ドル超で買収 |
| Broadcom | 上場 | CPOモジュール | Metaと100万リンク時間のテスト完了 |
注目すべきはCelestial AIがMarvellに50億ドル超で買収されたこと。光インターコネクト市場のM&Aは加速しており、NVIDIA自身も2026年3月にフォトニクス分野に40億ドルを投資している。
市場予測——CPOは2036年に200億ドル市場へ
| 市場セグメント | 2024年 | 2030年予測 | CAGR |
|---|---|---|---|
| 光インターコネクト全体 | 160億ドル | 345億ドル | 14.1% |
| シリコンフォトニクス | 22億ドル | 97億ドル | 29.5% |
| CPO市場 | 0.5億ドル | 200億ドル超(2036年) | 37% |
データセンターの電力危機——光が解決の鍵に
光インターコネクトへの注目が高まる背景には、データセンターの電力消費が世界的な問題になっているという事実がある。IEAによれば、データセンターの電力消費は2026年に650〜1,050TWhに達し、世界の電力の約2%を消費する見通しだ。AIが電力需要の最大の成長要因であり、年率約15%の増加が2030年まで続くと予測されている。
米国ではデータセンターの電力消費が全米の4.4%(2023年)を占め、2028年までに6.7〜12%に拡大するとの推計がある。バージニア州だけで年間24TWhを消費し、カーネギーメロン大学の研究では、データセンターの急増が米国の平均電気代を2030年までに8%押し上げ、最も需要の高い地域(北バージニアなど)では25%以上の上昇になると予測されている。データセンター集積地域の電力卸売価格は5年間で267%上昇した。
GPU間の通信にかかる電力は、GPUクラスタ全体の電力消費の大きな部分を占める。TeraPHYの5pJ/bit未満という電力効率は、従来の銅配線と比較してビットあたりの消費電力を3分の1以下に抑える。10万台規模のGPUクラスタでは、この差がデータセンター全体で年間数百万ドルの電力コスト削減につながる計算だ。光インターコネクトは性能問題であると同時に、サステナビリティの問題でもある。
Meta、Google、Microsoftも光接続へ移行
ハイパースケーラーの動きも加速している。MetaはDisaggregated Scheduled Fabric(DSF)で最大18,432個のXPU(アクセラレータ)を非ブロッキング接続する光インターコネクト基盤を構築中だ。さらに次世代のNon-Scheduled Fabric(NSF)は、数ギガワット規模の「Prometheus」クラスタ向けに設計されている。Broadcomは2025年10月に、Metaと共同でCPOソリューションの100万リンク時間のテストを「リンクフラップ(接続断)ゼロ」で完了したと発表した。Meta、Microsoft、Googleはいずれも2026年初頭にシリコンフォトニクスベンダーとのCPOパイロットプログラムを開始しており、市場の本格立ち上がりは2026〜2028年と見られている。
AIインフラの構造変化——「計算」から「接続」へ
NVIDIAが次世代GPUで光インターコネクト対応を進めていることからも、業界の方向性は明確だ。NVLink 6.0(Vera Rubin世代、2026年後半)ではGPUあたり3,600GB/sの帯域幅を実現し、NVL72ラック全体で260TB/sに達する。この規模の通信を銅線で処理するのは物理的にほぼ不可能だ。
オンチップ光I/O市場は2026〜2028年に本格的な量産フェーズに移行すると見られており、Ayar Labsはその最前線に立っている。同社の技術はUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)規格に準拠しており、異なるベンダーのチップレットとの相互運用性が確保されている。これは光インターコネクトが特定のGPUベンダーに依存しない「オープンなインフラ技術」として普及するための重要な要素だ。
Ayar Labsは台湾・新竹にも新オフィスを開設し、グローバルな量産体制の構築を進めている。モデルの性能競争だけでなく、それを支える物理層への投資が加速する2026年を象徴する調達だ。
出典: Ayar Labs公式プレスリリース, Reuters, Yole Intelligence, NVIDIA技術ドキュメント
よくある質問(FAQ)
Q. Ayar Labsの「TeraPHY」は従来の銅配線と何が違う?
帯域幅が最大8Tbps双方向(従来は〜400Gbps/リンク)で、電力効率は5pJ/bit未満と従来比10倍以上効率的だ。
レイテンシは10ナノ秒、伝送距離も数百メートル〜数キロと銅配線の3メートル程度を大きく上回る。10万台規模のGPUクラスタでは年間数百万ドルの電力コスト削減につながる計算だ。
Q. Co-Packaged Optics(CPO)とプラガブルオプティクスの違いは?
CPOはプロセッサパッケージ内に光素子を直接統合する方式で、ビットあたり消費電力が3分の1以下と効率的だ。
プラガブルオプティクスは外付けモジュールでフロントパネルに接続するため、データセンター間の長距離接続に向く。CPOはGPUクラスタ内の短〜中距離接続に最適化されている。
Q. なぜAI時代に光インターコネクトが必須になった?
GPT-4の学習には約25,000台のA100 GPUが使われたとされ、次世代モデルでは10万台以上のクラスタが必要と見られている。
これだけの規模のGPU間通信を銅線で処理すると、ケーブル重量・冷却負荷・電力消費が物理的限界に達する。光インターコネクトはこの制約を根本から解消する技術だ。
Q. CPO市場の今後の規模は?
CPO市場は2024年の0.5億ドルから2036年には200億ドル超に成長すると予測されている。
CAGR(年平均成長率)は37%で、シリコンフォトニクス全体でも2030年に97億ドル(CAGR 29.5%)に達する見通しだ。Meta、Microsoft、Googleが2026年初頭にCPOパイロットを開始しており、本格的な量産フェーズは2026〜2028年と見られている。
よくある質問
Q1. Ayar Labsの調達規模と意義は?
シリーズEで5億ドル、評価額37.5億ドル、累計調達額は約8.7億ドルに達した。光インターコネクト分野では過去最大規模であり、AIインフラのボトルネックを物理層から解消する技術として市場が本気で評価し始めた合図である。
Q2. NVIDIA・AMD・Intelが同時出資した理由は?
3社ともAI半導体の覇権を競う立場でありながら、GPU間通信の物理限界という共通の壁に直面しているためである。光インターコネクトは「あると便利」ではなく必須インフラと位置づけられ、競合関係を超えて押さえる対象になった。
Q3. TeraPHYが銅配線より優れる点は?
最大8Tbps双方向、5pJ/bit未満の電力効率を実現し、伝送距離も数百メートル以上に伸びる。GPT-4訓練で2.5万台、次世代で10万台超のGPUクラスタが必要となる中、銅では支えきれない帯域と電力負荷を根本から解消する。