Samsungは3月10日、Galaxy S26シリーズに搭載するAIアシスタント機能において、OpenAIおよびPerplexity AIとの提携を拡大すると発表した。従来のGoogle Gemini一択から脱却し、ユーザーが複数のAIモデルを切り替えて使える「マルチAI戦略」を本格展開する。
提携の内容
Galaxy S26では、以下のAIアシスタントがネイティブ統合される:
- Google Gemini — デフォルトのAIアシスタント(従来通り)
- OpenAI GPT-5 — Samsung Notes、ブラウザ、カメラアプリ内で利用可能
- Perplexity AI — 検索・リサーチ特化モード
ユーザーはタスクに応じてAIモデルを切り替えることができ、設定画面からデフォルトのアシスタントも変更可能だ。
なぜマルチAIなのか
背景にあるのは、AppleがiOS 19でSiri/Apple Intelligenceを大幅強化したことへの対抗だ。Appleは自社モデルとOpenAIの組み合わせで「垂直統合型AI体験」を推進している。
Samsungはこれに対し、「選択肢の多さ」で差別化する戦略を選んだ。Android陣営のオープンなエコシステムを活かし、ユーザーが最適なAIを選べる自由度を訴求する。
ユーザー行動と市場への影響
SamsungのマルチAI戦略が成功するかどうかは、ユーザーが実際にAIモデルを「切り替える」かどうかにかかっている。現実には、多くのユーザーはデフォルト設定を変更しない。iOSユーザーの95%以上がデフォルトの検索エンジン(Google)を変更しないのと同様、AIアシスタントの切り替えも大多数には浸透しない可能性がある。しかし、パワーユーザーやテック関心層にとっては、機種選定の重要な判断基準になりうる。
Googleにとってこの動きは微妙だ。SamsungはAndroid端末の世界シェア約20%を占める最大のパートナーであり、Googleは検索のデフォルト設定を維持するためにSamsungに年間数十億ドルを支払っている。AIアシスタントでGeminiがGPT-5やPerplexityと「同列」に扱われることは、Googleのエコシステム戦略にとって想定外の展開だろう。
一方、OpenAIにとってはデバイスレベルでの配布チャネル獲得という重要な戦略的勝利だ。ChatGPTのモバイルアプリは好調だが、OS統合のAIアシスタントとは根本的にリーチが異なる。Samsung Galaxy S26に標準搭載されることで、GPT-5は一夜にして数千万台の端末で利用可能になる。
Perplexity AIの参入は、「汎用AIアシスタント」ではなく「検索特化AI」というポジショニングが奏功した結果だ。Google検索の代替として急成長するPerplexityが、Samsungの検索モードに統合されることは、Google検索のモバイルシェアに直接的な影響を与える可能性がある。スマートフォン上の検索行動が「Google検索バー」から「AI検索アシスタント」へ移行すれば、Googleの広告収益モデルの根幹が揺らぐ。
日本市場では、GalaxyシリーズのAI機能は「Galaxy AI」ブランドで展開されており、2024年のGalaxy S24発売時にはAI機能が販売促進の主要なメッセージとなった。S26でのマルチAI対応が日本のユーザー行動をどう変えるかは、国内のAI普及を占う一つの指標になるだろう。
AI競争の新フェーズ
スマートフォン市場におけるAI競争は、「搭載するかしないか」から「どのAIをどう統合するか」に移行した。Samsungのマルチベンダー戦略は、AIプラットフォーム戦争の新たな局面を示している。
Googleにとっては、最大のAndroidパートナーが競合AIを同列に扱うことへの懸念もあるだろう。スマートフォンOSとAIモデルの関係性が再定義されつつある。
AIモデルの「切り替え」が生む新しい競争
SamsungのマルチAI戦略は、AIモデル間の競争を「バックエンドの性能比較」から「エンドユーザーの使用感比較」に引き上げる。ユーザーがGemini、GPT-5、Perplexityを同じ端末上で直接比較できるようになれば、各モデルの強みと弱みが可視化される。これはAIモデル開発企業にとって、ベンチマークスコアではなく実際のユーザー満足度で評価されることを意味する。
GoogleにとってのリスクはさらなるAI検索収益の侵食だ。Samsungの端末上でPerplexityが「検索モード」として使われれば、Google検索へのトラフィックが減少する。Googleは2025年度だけでSamsungにデフォルト検索エンジン契約として推定30億ドルを支払っているが、AIアシスタントの多様化によりその投資効果は薄れつつある。検索広告モデルのユニットエコノミクスが揺さぶられる中で、Googleは広告に依存しないAIマネタイズの道を模索する必要がある。
端末メーカーのAI戦略は、サプライチェーンにも影響を及ぼす。複数のAIモデルをオンデバイスで動作させるためには、メモリ容量とNPU(Neural Processing Unit)の性能が従来以上に重要になる。Galaxy S26は12GBのRAMとExynos 2600の改良型NPUを搭載し、複数のAIモデルの同時ロードを可能にしている。これは端末のBOM(部品コスト)の上昇を意味し、ASP(平均販売価格)の引き上げを正当化する根拠にもなっている。AI機能がスマートフォンの「プレミアム化」を加速させる構造は、端末メーカー各社に共通するトレンドだ。
起業家への示唆
スマートフォンがAIのメインインターフェースになりつつある今、AIスタートアップにとって「デバイス統合」は最も強力な配布チャネルだ。Perplexityがサムスンとの提携を実現した事例は、検索やRAG技術に特化したスタートアップが大手デバイスメーカーのパートナーになれることを示している。
逆に言えば、汎用AIアシスタント市場はGoogle、OpenAI、Appleが支配しつつあり、スタートアップが直接参入する余地は限られている。勝機があるとすれば、Perplexityのように特定のユースケースで圧倒的な品質を実現し、デバイスメーカーの「AIポートフォリオ」の一部として組み込まれるという戦略だ。「全部入り」ではなく「一点突破」の価値が、AIスタートアップの生存戦略として鮮明になりつつある。
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