NTT東日本とNTT西日本が、AI活用による業務自動化を大幅に加速させる方針を明らかにした。両社合わせて約3万人が従事する事務・設備関連業務にAIを本格導入し、約1万人分の業務を自動化。2万人余りの体制に再編する計画だ。
コールセンターから全社へ拡大
NTTグループのAI活用はすでに実績を上げている。NTT東日本では故障問い合わせ業務の2〜3割がAIに置き換えられており、コールセンター業務での成果が先行している。今回の方針は、この成功を事務処理や設備管理など全社的な業務領域に拡大するものだ。
NTTの島田明社長は「人間は別の仕事に集中し、成長につなげる」と述べ、AIによる代替を人員削減ではなく、人材の再配置と位置づけている。余剰となる人員は営業や新規事業の部門に配置転換される。
「AIファースト企業」への転身
島田社長は2026年を「AIファースト企業への変身の年」と位置づけており、グループ全体で34万人の業務の半分を5年以内にAIで代替する構想を掲げている。NTTデータでは2026年度中に生成AIがITシステム開発のほぼ全工程を担う技術を導入する計画で、グループ全体で3万人の生成AI実務人材を育成する目標も設定されている。
労働組合との交渉
NTTグループには強力な労働組合(NTT労働組合)が存在する。約15万人の組合員を擁するNTT労組は、AI導入による雇用への影響について経営側と継続的に協議している。2026年春闘では、AI導入に伴う配置転換の条件、リスキリング支援の充実、AIに置き換えられない業務領域の明確化が主要な交渉議題となった。
組合側は「AIによる生産性向上の成果を、賃上げとして労働者に還元すべきだ」と主張している。この論点は、AI導入が「経営効率化のためのコスト削減」に終わるのか、「労使双方に利益をもたらす生産性革命」になるのかを分ける分水嶺だ。NTTがこの交渉をどう決着させるかは、日本の他の大企業のAI導入交渉にも先例として影響する。
日本企業のAI導入を占う試金石
日本の大企業がAIによる大規模な業務代替を明確に打ち出した事例として、NTTの動きは注目に値する。三菱総合研究所の比屋根一雄氏は「単に異動させても戦力にはならない。異動先の業務でもAI活用した上でリスキリングが必要」と指摘しており、配置転換とスキル再教育の両立が成否を分ける。IT系の先進企業を除けば、NTTのような大企業だけが現時点ではAI代替に本格的に取り組めている状況であり、中堅・中小企業がこの流れにどう追随するかが日本全体の課題となる。
グローバルな文脈——テック企業の「AI置換」宣言
NTTの方針は、グローバルなテック企業のトレンドと軌を一にしている。Shopifyの CEO Tobi Lütkeは、2026年初頭に「AIで代替可能な業務に新規採用は行わない」と社内メモで通達した。Klarna CEOのSebastian Siemiatkowskiは、AIカスタマーサービスの導入により従業員数を約50%削減したと公表している。IBMは2025年に約7,800人のバックオフィス人員をAIで代替する計画を発表した。
ただしNTTの計画は「解雇」ではなく「再配置」である点が、海外のケースとは本質的に異なる。日本の労働法と企業文化のもとでは、AIによる大規模な人員削減は社会的に受け入れられにくい。終身雇用の慣行が残る大企業では、AIによる業務代替を「リストラのツール」ではなく「人材の再活用のツール」として位置づける必要がある。
リスキリングの課題
「人間は別の仕事に集中する」というビジョンは理想的だが、現実は複雑だ。AIが代替する業務(コールセンター、事務処理)と、再配置先の業務(営業、新規事業開発)では求められるスキルセットが根本的に異なる。50代の事務担当者に営業スキルやデジタルスキルを習得させるリスキリングプログラムの設計と実行は、NTTのAI導入そのものと同等以上の難易度を持つ。
NTTが2026年度に3万人の生成AI実務人材を育成するという目標は野心的だが、34万人のグループ全体から見れば約9%に過ぎない。残りの91%の従業員にAIリテラシーを浸透させるには、トップダウンの研修プログラムだけでなく、業務プロセスそのものにAIを組み込む「日常的な接触」が不可欠だ。この組織変革の成否が、NTTの「AIファースト企業」宣言の実質を左右する。
地方への波及効果
NTT東西は日本全国に拠点を持つインフラ企業であり、AI導入の影響は東京だけでなく地方にも及ぶ。特にNTT西日本の管轄エリアには人口減少が進む地域が多く、人員の再配置先となる「成長業務」が地方で十分に存在するかは不透明だ。地方拠点でAIに代替された人員を東京や大阪に集約すれば、地方経済の空洞化を加速させるリスクがある。NTTの「AI導入×地方拠点維持」の両立は、日本の地方創生政策とも密接に関わるテーマであり、経済産業省や総務省もその動向を注視している。
固定電話回線の契約数が年間100万件以上のペースで減少し続ける中、NTT東西の従来の中核事業は構造的に縮小している。AI導入による業務効率化は、コスト削減の側面だけでなく、既存人材をデータセンター事業やスマートシティ関連など成長分野に再配置するための戦略的な必要性でもある。
AI導入と企業文化の変革
NTTの「AIファースト」宣言が成功するためには、技術導入だけでなく企業文化の変革が不可欠だ。NTTグループは約34万人の従業員を抱える巨大組織であり、年功序列と慎重な意思決定プロセスが特徴的な日本の大企業文化が根強い。AI導入は、業務プロセスだけでなく意思決定の速度と柔軟性にも変化を求める。
先行事例として、ソフトバンクグループの孫正義CEOは「すべての業務をAIファーストで再設計する」と宣言し、社内のAI利用率を全社員の日常業務の50%以上にする目標を設定した。トヨタ自動車はAI搭載の品質管理システムを全工場に導入し、不良品検出率を30%向上させた。NTTがこれらの事例を超えるインパクトを生み出せるかは、経営トップの実行力と中間管理職の変革への意欲にかかっている。
日本全体で見れば、AIによる業務代替は避けられないトレンドだ。問題は「いつ」ではなく「どう」導入するかだ。NTTの試みが、日本企業のAI導入の「お手本」となるか「反面教師」となるか。その答えは2027年の全面導入後の結果で明らかになるだろう。
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