取材の現場で気づいた、日本の「伝わらなさ」
私はキャリアの出発点で、エンジニアのキャリアを考えるWebマガジン「エンジニアtype」の編集に携わった。CTOや技術リーダーへの取材を重ねる中で、繰り返し感じたことがある。
この人たちの仕事は、圧倒的にすごい。なのに、その凄さがほとんど世の中に届いていない。
たとえば、あるスタートアップのCTOは、数十万ユーザーが同時に利用するシステムの負荷分散を、3人のエンジニアで実現していた。ある企業の開発チームは、社内ツールを自作することで、年間数千時間の業務時間を削減していた。どれも驚くべき技術と工夫の結晶だ。しかし、そうした成果がメディアに取り上げられることはほとんどない。
その後、スポンサードコンテンツの企画・制作に携わり、企業のブランディングを支援する仕事をするようになった。大手企業からスタートアップまで、さまざまな現場を取材する中で、気づきはより確信に変わった。
日本の技術は、強い。製造業の精密さ、観光・飲食業の細部へのこだわり、モノづくりの現場に息づく暗黙知。それぞれの領域で独自の歴史と哲学を持った「つくる人」が、確かに存在する。
ただ、その強さに比べて、伝わり方が追いついていないと感じることが多かった。少なくとも、私にはそう見えた。
「伝わらない」は、悪いことばかりではない
誤解を恐れずに言えば、私はこの「伝わらなさ」が嫌いではない。
プレゼンが上手い人よりも、黙って手を動かし続ける人の方に惹かれる。メディア映えするピッチよりも、コードの一行一行に宿るこだわりの方がずっと面白い。売り方がうまくない——それは裏を返せば、つくることに真摯だという証でもある。
だが、現実は厳しい。どれだけ優れた技術も、伝わらなければ使われない。使われなければ、つくり手は評価されない。評価されなければ、次の挑戦に向かう資源が得られない。このサイクルが回らないことで、埋もれていく技術や才能が、この国にはあまりにも多い。
だから、伝える側にいる人間がやれることをやりたい。それがTechCreateをつくる理由の一つだ。
AI時代だからこそ、「つくる人」にフォーカスする
2025年以降、AIの進化は加速し続けている。コードを書くAI、記事を生成するAI、画像をつくるAI。「人間にしかできないこと」の定義は、日々書き換えられている。
こうした状況を前にして、「AIに仕事を奪われる」という恐怖が語られがちだ。だが、私が見てきた「つくる人」たちの反応は違う。彼らはAIを道具として使い倒し、これまでできなかったことを実現しようとしている。
AIは、つくる人の敵ではない。むしろ、一人の人間が実現できることの範囲を大きく押し広げてくれる存在だ。かつては大きな組織でなければ成し得なかったことが、個人やスモールチームの手に届くようになりつつある。
それはつまり、テクノロジーが「つくる人」の可能性を拡張しているということだ。奪うのではなく、広げている。
テクノロジーとクリエイティブをつなぐ
エンジニアとクリエイター。テクノロジーとビジネス。つくる人と、届ける人。この国では、これらの領域が分断されていることが多い。エンジニアは技術コミュニティの中で完結し、ビジネスサイドはその技術の本質を理解しないまま売り方だけを議論する。
TechCreateは、この間を埋めたい。
テクノロジーの最新動向を追いながら、それを使って何かをつくる人にフォーカスする。AIの新モデルが出たという速報だけでなく、それを使って何を実現しようとしている人がいるのかを伝える。資金調達のニュースだけでなく、そのプロダクトの裏側にある技術的な挑戦を描く。
メディアとしての立ち位置
TechCreateが意識しているのは、「速報」よりも「文脈」だ。新しいAIモデルが発表されたとき、スペックを並べるだけなら誰でもできる。しかし、そのモデルが業界にどんな影響を与えるのか、開発者の仕事がどう変わるのか、日本市場にとって何を意味するのか——その文脈を丁寧に描くことが、私たちの仕事だと考えている。
もう一つ大切にしているのは、「定量」と「物語」の両立だ。
| 情報の種類 | 例 | 役割 |
|---|---|---|
| 定量データ | 市場規模、成長率、ベンチマーク | 客観的な判断材料を提供 |
| ストーリー | 開発者の思い、技術的な工夫、失敗談 | 感情的な理解と共感を促す |
| 文脈の解説 | 業界への影響、日本市場への示唆 | 判断の枠組みを提供 |
数字だけでは伝わらないものがある。物語だけでは信頼されないこともある。両方を兼ね備えたコンテンツが、読者にとって最も価値があると信じている。
技術が好きなのだ、と素直に言いたい。
勝ち負けや時価総額よりも、誰かの手で生み出されたすごい技術の方がずっと面白い。その「すごさ」を、つくった本人に代わって言語化し、届けることに少しでも貢献できるなら——そんな勝手な思いが、このメディアの出発点にある。
TechCreateが届けたいもの
このメディアでは、以下のようなコンテンツを届けていく。
AIやソフトウェア開発の最新トレンド。エンジニアやクリエイターのキャリアに迫るインタビュー。スタートアップの技術的な挑戦を深掘りする特集記事。そして、つくる人たちの思想や哲学を伝えるコラム。
英語圏にはTechCrunch、WIRED、The Vergeがある。日本にも素晴らしいテックメディアはいくつもある。その中で、TechCreateは「つくる人」の技術と思想にフォーカスするという一点で、自分たちの居場所をつくりたい。
読者の皆さんへ
最後に、TechCreateを読んでくださる方々へ。
私たちはまだ小さなメディアだ。大手メディアのようなリソースもブランド力もない。でも、一つ一つの記事に、本気で向き合うことはできる。取材先の方が「あの記事を読んで、応募してくれた人がいました」と言ってくれたとき——それが、私たちの一番のモチベーションだ。
TechCreateは、読者と一緒に成長するメディアでありたい。もし「こんなテーマを取り上げてほしい」「この技術者を取材してほしい」というリクエストがあれば、いつでも声をかけてほしい。つくる人と、届ける人。その間にいるのが、私たちメディアの仕事だ。
日本のテック業界は、世界から見ればまだ「よく知られていない宝の山」だ。ガラケーの時代から培われたモバイル技術、製造業で磨かれた品質管理のノウハウ、アニメ・ゲーム産業で養われたクリエイティブ技術——これらを世界に発信するメディアが、もっとあっていい。TechCreateはその一翼を担いたい。一人でも多くの「つくる人」が報われる社会を。一つでも多くの技術が正しく評価される世界を。それが、このメディアを続ける理由だ。もし少しでも共感してくれたなら、まずは一本の記事を読んでみてほしい。きっと、あなたの知らない「つくる人」の物語がそこにある。
テクノロジーは道具であり、使い手次第で世界を変える。その使い手——「つくる人」の声を届けることが、TechCreateの役割だ。