著者あとがき
「ユーザーは神様です」——このフレーズに、あなたはどんな感情を抱くだろうか。
カスタマーサクセスという職種は、2010年代後半のSaaSブームとともに急速に広がった。その本質は「顧客の成功を支援すること」だが、現実には「顧客の感情を管理すること」が業務の大半を占めることも少なくない。
この物語の楓は、「サービス提供者」と「人間」の境界が曖昧になっていく様子を描いている。Slackの絵文字で感情を表現し、テンプレートで共感を演じ、KPIで人間関係を数値化する——SaaSの世界で働く人なら、少なからず覚えのある感覚ではないだろうか。
「プロフェッショナルな対応」と「人間としての自分」の間で引き裂かれる感覚は、カスタマーサクセスに限らず、すべてのサービス業に通じるテーマだ。楓の物語は、次話「β版の夢」でさらに深まっていく。
この連載「スタートアップ文学」では、IT・スタートアップ業界で働く人々の内面を描く短編小説をお届けしています。登場人物は架空ですが、描かれる感情や葛藤は現実のテック業界で働く人々の声から着想を得ています。「あ、これ自分だ」と感じる瞬間があれば、それはきっと、あなたが一人ではない証拠です。
カスタマーサクセスの現場では「チャーンレート(解約率)」という指標が常に追いかけてくる。数字が下がれば評価され、上がれば詰められる。しかし、その数字の裏側には一人ひとりの「使いこなせなかった悔しさ」や「期待と違ったがっかり」がある。楓が感じる違和感は、数字と感情の間にある溝そのものだ。
(第4話「β版の夢」へ続く)
言葉が変えるもの
業界で使われる小さな言葉が、やがて組織文化や判断の質を形作る。
使う言葉を選ぶことは、自分と周囲の思考の枠を選ぶことでもある。
あなたが日常で使っている言葉のどこに、無意識の前提が潜んでいるだろうか。
よくある質問(FAQ)
Q. この小説のテーマは?
カスタマーサクセスという職種を通じて、「サービス提供者」と「人間」の境界が曖昧になっていく様子を描いている。
Slackの絵文字で感情を表現し、テンプレートで共感を演じ、KPIで人間関係を数値化する——SaaSの世界で働く人なら覚えのある感覚を主題にしている。
Q. 連載「スタートアップ文学」とは?
IT・スタートアップ業界で働く人々の内面を描く短編小説シリーズ。
登場人物は架空だが、描かれる感情や葛藤はテック業界で働く人々の声から着想を得ている。第3話「ユーザーは神様です」、第4話「β版の夢」と続く連作だ。
Q. チャーンレートはCSでどんな意味を持つ?
解約率を示す指標で、カスタマーサクセスの現場では常に追いかけられる数字だ。
数字が下がれば評価され、上がれば詰められる。しかしその数字の裏側には一人ひとりの「使いこなせなかった悔しさ」や「期待と違ったがっかり」があり、数字と感情の間に溝が生まれる。