シリーズDの概要——TCV主導、VC名門が総結集
ラウンドをリードしたのはTCV。 返り咲きの出資者としてAndreessen Horowitz、Coatue、CRV、Sequoia Capital、Sapphire Ventures、Spark Capitalが参加した。
今回の調達で、2017年創業以来のMercuryへの総調達額(一次・二次合算)は約7億ドルに達する。 評価額52億ドルは、直前のシリーズCから14カ月で49%増という速度だ。
Mercuryの収益はQ3 2025時点で年換算6.5億ドルに到達しており、GAAP純利益とEBITDAの両方で4年連続の黒字を維持している。 ユニコーンと呼ばれる企業の多くが赤字垂れ流しのなかで、この収益力は際立っている。 また、30万社超の顧客を抱え、その規模は一般的なスタートアップ特化型金融サービスの比ではない。
なぜ「AIスタートアップの銀行」になったか
Mercuryは2017年にスタートアップ向け銀行サービスとして創業した。 初期の価値提案はシンプルだった——従来の銀行では口座開設すら難しかったスタートアップに、使いやすいビジネスバンキングを提供する。
2026年のQ1には、前年同期比2.5倍の申込件数を記録した。 この急成長の背景には、AIスタートアップブームがある。
AIスタートアップの創業ペースが加速するなか、「最初の銀行口座をどこに開くか」という選択でMercuryが選ばれ続けた結果、「AIスタートアップが使う銀行」というポジションが確立された。 2026年Q1のベンチャー投資が3,000億ドルを超えたレポートが示すように、スタートアップへの資金流入は記録的だ。 その資金が最初に流れ込む口座の多くがMercuryにあるとすれば、成長は必然だった。
連邦銀行免許申請——何が変わるか
今回の発表で最も注目すべき点が、OCCからの連邦銀行免許(条件付き)承認だ。
これまでMercuryは、Evolve BancやChoice Financial Groupなどのパートナー銀行を介してサービスを提供していた。 いわゆる「BaaS(Banking as a Service)」モデルだ。 自社の銀行免許を持てば、パートナー依存から脱却し、自社でローンの提供、ZelleへのJoin、預金保護の直接受け入れが可能になる。
創業者目線で最も重要なのは「貸出」だろう。 スタートアップがサービスを使いながらRunway拡大のための融資も受けられる。 「銀行口座+調達支援」がワンストップで完結するなら、競合BrexやRamp、旧SVBの後継サービスに対する大きな差別化になる。
スタートアップ創業者が知っておくべきこと
Mercuryを使っているスタートアップ創業者にとって、今回の動きは2点で影響がある。
1点目は「サービス品質の向上」への期待だ。 パートナー銀行依存では、規約変更やパートナー側の経営問題が直撃するリスクがあった。 事実、2023年にはSVB破綻の影響が一時波及した。 自社免許を持てばこのリスクが低減され、長期的な安定運営に向けての基盤が整う。
2点目は「競争環境の変化」だ。 Mercuryが実質的な銀行になれば、Chase、SVB後継、Neobank各社との競争が激しくなる。 ユーザーにとってはサービス間競争が有利だが、同時に「Mercuryが大きくなって官僚的になる」リスクも念頭に置く必要がある。
「スタートアップの銀行」が本物の銀行になる意味
シリコンバレーには長らく「スタートアップ向け金融」の空白があった。 SVBが2023年に破綻した後、その空白を埋めるレースが続いてきた。
国内でもAIスタートアップへの投資は拡大しているが、スタートアップの金融インフラはまだ成熟しきっていない。 Mercuryの動きは、その「銀行インフラ」を誰が握るかという問いへの答えの一つだ。
2億ドルと52億ドルの評価額という数字以上に、「連邦銀行免許」という一歩が何を意味するかを考えると、これは資金調達ニュースではなく、スタートアップ金融インフラの再構築の話かもしれない。
あなたが次に立ち上げるスタートアップの「最初の口座」をどこに開くか、その選択肢はどんどん豊かになっている。
ソース:
- Mercury Raises $200 Million Series D at $5.2B Valuation — BusinessWire(2026年5月20日)
- Fintech firm Mercury hits $5.2 billion valuation — CNBC(2026年5月20日)
- Digital Banking Startup Mercury Lands $200M At $5.2B Valuation — Crunchbase News(2026年5月20日)
- Mercury hits $5.2B valuation to become the go-to bank for AI startups — Tech Startups(2026年5月20日)