H.R.6028が変えること——著作権局長官の「大統領任命制」
現行制度では、著作権局長官(Register of Copyrights)は議会図書館長官の任命による。 議会図書館は立法府に属するため、著作権局は行政府から独立した位置にある。
H.R.6028が成立すれば、この構造が根本から変わる。
著作権局長官が「大統領任命・上院承認」の連邦政府職員になることで、著作権政策が行政府の影響を強く受けるようになる。 また、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)の主要な規則制定権限も、著作権局から商務省管轄の機関へ移管される見通しだ。
EFFは「過去20年間、著作権局はフェアユース・図書館・教育に関して必ずしも中立ではなかった。しかしこの変更はさらに悪い方向への移行だ」と述べ、「言論の自由・ライブラリの権利・競争政策に影響する著作権問題が、大統領府の意向に左右されるようになる」と警告している。
なぜ今か——AI学習データ論争との交錯
このタイミングで著作権局の改革が議会を通過したことは、偶然ではない可能性が高い。
2026年は、AIの学習データ著作権をめぐる米国内の法整備が急ピッチで進んでいる年だ。 Senators Adam SchiffとJohn Curtisが提出したCLEAR法(Copyright Labeling and Ethical AI Reporting Act)、TRAIN法(AI記録へのアクセス権を付与)、NO FAKES法(AI生成コンテンツの本人使用権保護)など、複数の法案が同時並行で審議されている。
著作権局が「大統領の意向に敏感な機関」になれば、AI企業が求める「フェアユース範囲の拡大」または権利者が求める「学習データ使用への課金制度」のどちらが政策的に優先されるかは、その時々の政権の判断に委ねられることになる。
2026年時点のトランプ政権は、AI産業の育成を「国家安全保障上の優先事項」と位置づけており、「著作権制限によるAI発展の阻害を避けたい」意向を持つとされている。 つまり、著作権局が大統領任命制になれば、少なくとも現政権下では「AI企業に有利なフェアユース解釈」が促進される可能性がある。
法務・ポリシー視点の分析——誰が利益を得て、誰が損をするか
H.R.6028の勝者と敗者を整理しよう。
利益を得る可能性があるのは、AI学習データをめぐる著作権リスクを抱えるOpenAI・Anthropic・Google・Meta等のAI企業だ。 フェアユースの範囲が広く解釈されれば、訴訟リスクが下がり、モデル訓練コストが削減される。
損失を被る可能性があるのは、コンテンツ権利者——音楽会社、出版社、映画会社、写真家、イラストレーター——だ。 著作権局が独立性を失えば、クリエイターの権利保護よりもテクノロジー企業の成長が優先されるリスクが高まる。
また、図書館・大学・教育機関も懸念を持っている。 DMCA第1201条(技術的保護手段の回避禁止)の例外規定は、著作権局が定期的に見直してきたが、この権限が移管されれば「研究目的の回避」が認められにくくなる可能性がある。
上院がH.R.6028を可決するかどうかは現時点では不明だが、EFFは「上院でこの法案を止めることが急務」として、市民へのアクション呼びかけを開始している。
AI著作権論争の全体像——2026年の到達点
2026年上半期の著作権×AI戦線は、「訴訟」「立法」「行政」の三軸が同時並行で動いている。
訴訟では、Warnerがテキスト生成AIスタートアップのSunoと和解したのに対し、UMGとSonyは訴訟継続を選択しており、「大手権利者の分断」が起きている。
立法では、CLEAR法・TRAIN法・NO FAKES法という複数の法案が議会で審議中で、H.R.6028という制度インフラの改変も重なった。
行政では、著作権局が2025年末に「AIと著作権」に関する包括報告書を発表し、その内容が「フェアユースの解釈が広すぎる」として権利者から批判を受けた経緯がある。
この複雑な地形で「AI学習データの著作権はどうあるべきか」という答えが出るまでには、まだ数年を要するだろう。
あなたが考える「AIモデルが学習データに対して支払うべき対価」はどのようなものだろうか。
ソース:
- Congress Just Rushed Through a Disastrous Copyright Office Overhaul — Electronic Frontier Foundation(2026年6月)
- NEWS: Sens. Schiff, Curtis Introduce Bipartisan Bill — U.S. Senate Schiff
- AI in litigation series: An update on AI copyright cases in 2026 — Norton Rose Fulbright
- Generative Artificial Intelligence and Copyright Law — Congress.gov