この記事で紹介する10人
| 起業家 | 代表的な企業 | 若手時代の意外な一面 |
|---|---|---|
| スティーブ・ジョブズ | Apple | インドで精神修行、裸足で出社 |
| イーロン・マスク | Tesla / SpaceX | 南アフリカでいじめられ入院 |
| 孫正義 | ソフトバンク | 16歳で単身渡米、翻訳機を売り込み |
| 前澤友作 | ZOZO | パンクバンドでCDデビュー |
| マーク・ザッカーバーグ | Meta | ハッキングで大学の処分を受ける |
| ジェフ・ベゾス | Amazon | マクドナルドの朝シフトで働く高校生 |
| ジャック・ドーシー | Twitter / Block | 企業サーバーに侵入して採用される |
| 藤田晋 | サイバーエージェント | 人事部配属から1年で退職、24歳で起業 |
| 三木谷浩史 | 楽天 | 成績オール2〜3の劣等生 |
| ブライアン・チェスキー | Airbnb | LA の渋滞で「人生これでいいのか」と覚醒 |
学校の"問題児"だった起業家たち
テック業界のトップに立つ人間が、学生時代から優等生だったとは限らない。むしろ逆のケースが目立つ。
孫正義は在日韓国人として育ち、幼少期にはいじめを経験している。本名は「安本正義」。差別的な環境のなかで「自分は何者なのか」という問いと早くから向き合うことになった。
16歳で単身渡米を決意する。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』に感化され、「脱藩」するように日本を飛び出した。カリフォルニアの高校に編入し、わずか3週間で高校課程を修了。その後UCバークレーに進学している。
前澤友作は早稲田実業高校の出身だが、とにかく型破りだった。学ラン着用が義務だった同校に、入学式から私服で登場。赤いスニーカーを履いて教師を仰天させたという逸話が残る。
高校2年でロックバンド「SWITCH STYLE」を結成し、ドラムを担当。週2日だけ登校し、残りの日は昼間にアルバイト、夜はライブハウスに出演する生活を送っていた。担任教師の「絶対に退学するな」という言葉がなければ、卒業すらできなかったと本人が振り返っている。
三木谷浩史の学生時代も意外だ。後に楽天を創業し、日本を代表するIT企業を築く人物の通知表は、2と3ばかりだったという。テニスに打ち込みすぎて勉強は二の次。一橋大学に進学するまでは、とくに目立った学業成績を残していない。
| 起業家 | 学生時代のエピソード | 転機 |
|---|---|---|
| 孫正義 | いじめを経験、16歳で渡米 | 『竜馬がゆく』に感化 |
| 前澤友作 | 学ラン拒否、週2登校のバンドマン | 担任の「退学するな」 |
| 三木谷浩史 | 成績オール2〜3、テニス漬け | 一橋大進学で転機 |
まったく別の夢を追っていた
テック起業家がはじめからテクノロジーに夢中だったわけではない。まるで違うキャリアを志していた人も多い。
スティーブ・ジョブズはリード大学を中退後、1974年にインドへ渡っている。目的は精神的な悟りを得ること。数か月にわたってインド各地を放浪し、禅やヒンドゥー教の修行を体験した。帰国後もその影響は続き、Apple創業初期には裸足でオフィスを歩き回り、果物だけを食べる食生活を実践していたことで知られる。
前澤友作のバンド「SWITCH STYLE」は、インディーズながらCDをリリースしている。メロディックハードコアというジャンルで、解散後もしばらくは音楽活動を続けていた。「起業家・前澤友作」が生まれる前に、「ドラマー・前澤友作」の時代があったのだ。
藤田晋は大学卒業後、人材派遣会社のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に就職している。配属先は営業ではなく人事部。本人は「起業するための修行」と割り切っていたが、実際に退職したのは入社からわずか1年後。24歳でサイバーエージェントを設立した。
ブライアン・チェスキーはRISD(ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)出身のプロダクトデザイナーだった。卒業後、ロサンゼルスのデザイン会社に就職。22歳のある日、LA名物の大渋滞のなかで「これが自分の人生なのか」という強烈な虚無感に襲われた。その日のうちに退職を決意し、ボロボロのホンダ・シビックにフォームベッドを詰め込んでサンフランシスコへ移住。旧友のジョー・ゲビアとの共同生活が、やがてAirbnb誕生の土壌になった。
- ジョブズ → 精神修行者からテクノロジストへ
- 前澤 → パンクドラマーからECの革新者へ
- 藤田 → 人事部員から最年少上場社長へ
- チェスキー → プロダクトデザイナーから民泊の発明者へ
ハッキングとルール破りが原点
いくつかの創業ストーリーには、「ルールを破る」という共通項がある。既存の仕組みに穴を見つけ、そこを突く能力が、結果的に事業創造につながっている。
1970年代初頭、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックは「ブルーボックス」と呼ばれる装置を自作していた。電話回線の制御信号を模倣し、長距離電話を無料でかけられる違法デバイスだ。2人はこれを1台150ドルで販売し、小遣い稼ぎをしていた。
ジョブズは後年、「ブルーボックスがなければAppleは生まれなかった」と語っている。技術で既存のシステムを攻略できるという成功体験が、起業への自信につながったというわけだ。
マーク・ザッカーバーグのFacemash事件は2003年、ハーバード大学2年生のときに起きた。大学のサーバーから学生の顔写真を無断で取得し、「どっちが魅力的か」を投票するサイトを作成。公開から数時間でアクセスが殺到し、大学のネットワークがダウンした。
大学当局から処分を受けたザッカーバーグだが、この騒動が「ソーシャルな仕組み」へのニーズを確信させた。翌年、Facebookが誕生している。
ジャック・ドーシーはさらに大胆だった。大学時代、世界最大の配車管理企業Dispatch Management Services Corp(DMSC)に就職したいと考えたドーシーは、同社のウェブサイトに連絡先が見つからないことに気づく。すると彼は同社のサーバーに侵入し、創業者グレッグ・キッドのメールアカウントから「セキュリティホールがあります。私が直せます」というメールを送った。結果、翌日にはニューヨークへ飛び、採用されている。
| 起業家 | やったこと | その後の影響 |
|---|---|---|
| ジョブズ&ウォズ | ブルーボックスで電話をタダがけ | 「技術で世界を変えられる」という確信 |
| ザッカーバーグ | Facemashで大学処分 | ソーシャルメディアの原型を発見 |
| ドーシー | 企業サーバーに侵入して自分を売り込み | リアルタイム配信への関心が芽生える |
どん底からの反転
華々しい創業ストーリーの裏には、深刻な挫折や苦しみが隠れていることも多い。
イーロン・マスクは南アフリカ・ブライアンストン高校時代、激しいいじめに遭っている。ある日の昼休み、階段の上で弟キンバルと食事をしていたところ、背後から頭を蹴られ、コンクリートの階段を突き落とされた。
父エロルが病院に駆けつけたとき、息子の顔は判別できないほど腫れ上がっていたという。マスクはサントンの病院で2週間の入院を余儀なくされた。その後、プレトリア・ボーイズ・ハイスクールへ転校している。
この経験についてマスクは多くを語らない。だが伝記作家アシュリー・バンスの著書では、このいじめ体験が「どんな困難にも屈しない」という彼の姿勢の原点として描かれている。
ジェフ・ベゾスの若き日は、もっと地味な苦労の連続だった。高校時代、マクドナルドの朝シフトで働いていた。朝4時半に起きて出勤し、グリルステーションを担当。「いちばん重要な教訓は、クラッキングマシン(卵割り機)の使い方だった」と、後にプリンストン大学の卒業式スピーチでユーモアを交えて振り返っている。
三木谷浩史の人生を変えたのは、1995年の阪神・淡路大震災だった。当時、日本興業銀行(現みずほ銀行)に勤めていた三木谷は、故郷の神戸が壊滅的な被害を受けたことに衝撃を受ける。「人生はいつ終わるかわからない。やりたいことをやるべきだ」。銀行を退職し、楽天を創業する直接のきっかけになった出来事だ。
- マスク → いじめによる2週間の入院が「不屈の精神」の原点に
- ベゾス → マクドナルドの朝シフトで「顧客体験」の原体験を積む
- 三木谷 → 阪神大震災が「人生は有限」という覚悟を芽生えさせた
「無謀」と言われた最初の一歩
成功する起業家の最初の一歩は、周囲からは無謀に見えることが多い。だが本人たちには、それが「やるしかない」という確信だった。
孫正義は1977年の夏、UCバークレー在学中に共同開発した「音声付き電子翻訳機」の試作品を持って、奈良県天理市にあるシャープ中央研究所を訪ねている。まだ20歳の大学生が、大企業の研究所に自分の発明を売り込みに行ったのだ。
複数の企業から門前払いを受けた後、シャープの佐々木正副社長(当時)と面会にこぎつけた。佐々木は後に「少年のような顔をした青年がアイデアを買ってほしいと来た。こういう若者は珍しい。育てなければと思った」と振り返っている。結果、開発研究費として4,000万円の契約が即決。この資金がソフトバンク創業の種銭になった。
藤田晋がサイバーエージェントを創業したのは1998年、24歳のとき。インテリジェンスを1年で退職し、貯金もほとんどない状態での船出だった。2000年には26歳で当時史上最年少の東証マザーズ上場を果たしている。
ブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアがAirbnbの原型を思いついたのは、家賃が払えなかったからだ。2007年、サンフランシスコで開催されるデザインカンファレンスの時期に、自宅のリビングにエアマットレスを3つ並べ、1泊80ドルで貸し出した。「エアベッド&ブレックファスト」がそのまま社名の由来になっている。
| 起業家 | 「無謀な一歩」の内容 | 年齢 |
|---|---|---|
| 孫正義 | 大学生が大企業に発明を売り込み | 20歳 |
| 藤田晋 | 貯金ほぼゼロで起業、2年後に上場 | 24歳 |
| チェスキー | 家賃が払えず、自宅をエアマットで民泊に | 26歳 |
若き日の「迷い」が、いまの武器になっている
10人の起業家のエピソードを振り返って気づくのは、「最初から正解を知っていた人は誰もいない」ということだ。
ジョブズはインドで悟りを見つけられなかった。マスクは学校で居場所がなかった。前澤はバンドマンとして大成したわけではなく、チェスキーはデザイナーとしてのキャリアに行き詰まっていた。
共通しているのは、迷いや挫折を「やめる理由」にしなかったことだろう。むしろ、うまくいかなかった経験こそが次の行動を後押ししている。ジョブズのインド体験はAppleのデザイン哲学につながり、マスクのいじめ体験は不屈のメンタルを形成し、チェスキーのLA での虚無感がAirbnbを生んだ。
いま「自分は何者でもない」と感じている人がいるなら、それはおかしなことではない。この記事で紹介した10人も、かつてはまったく同じ場所に立っていた。
あなたの「無名時代」は、何を育てているだろうか。
出典・参考
- Walter Isaacson『Steve Jobs』(Simon & Schuster, 2011)
- Ashlee Vance『Elon Musk: Tesla, SpaceX, and the Quest for a Fantastic Future』(Ecco, 2015)
- Walter Isaacson『Elon Musk』(Simon & Schuster, 2023)
- 井上篤夫『志高く 孫正義正伝 新版』(実業之日本社, 2015)
- 藤田晋『渋谷ではたらく社長の告白』(幻冬舎, 2005)
- PRESIDENT Online「孫正義から恩人へ『すべては先生との出会いから始まりました』」
- News-PostSeven「前澤友作氏が振り返る、高校時代に起こした『小さな革命』」
- Startups.com「An Unbelievable Journey - Interview with Brian Chesky」
- Jeff Bezos, Princeton University Commencement Speech(2010)
