ASMLのQ2決算——数字で見る好業績
2026年第2四半期のASML業績は市場予想を全方位で上回った。
売上高は93億3000万ユーロで、アナリスト予想88億ユーロを約6%超過した。 純利益は29億2000万ユーロ、EPSは7.59ユーロで、いずれもコンセンサスを超えた。 粗利益率は53%台で、通期の54〜56%目標に向けた軌道上にある。
第3四半期のガイダンスも強気だ。 Q3は売上110億〜120億ユーロの予想で、市場コンセンサスの103億7000万ユーロを上回る。
そして最も注目されるのは通期見通しの大幅な引き上げだ。 従来の360億〜400億ユーロから430億〜450億ユーロへの引き上げは、上限で12.5%の上方修正に相当する。 これは半導体サイクルの回復が、当初の予想よりもはるかに速く、深く進んでいることを示す。
なぜASMLの決算が重要なのか
ASMLはEUV(極端紫外線)露光装置を世界で唯一製造できる企業だ。
先端半導体チップの製造には必ずASMLの装置が必要であり、ASMLの受注動向は半導体産業の設備投資サイクルを読む最良の「先行指標」として機能する。 Intelが復活するにも、TSMCが増産するにも、Samsungが競合に対抗するにも、ASMLの装置なしには始まらない。
TSMC、2026年6月売上が前年同月比67.9%増——AIチップ急増で史上最高の月次売上を更新が示すように、TSMCの製造量は過去最高を更新し続けている。 TSMCが増産するには、より多くのASML装置が必要になる。 この正のフィードバックループがASMLの業績を押し上げている。
経済記者視点——AIが生む「半導体インフレ」とその連鎖
経済的な観点から今回の決算を分析すると、「AIが生む設備投資インフレ」という現象が見えてくる。
AIモデルの学習と推論には膨大な計算資源が必要だ。 その計算資源を供給するのがデータセンターであり、データセンターの心臓部は先端半導体チップだ。 そのチップを製造するのがTSMCやSamsungであり、その製造装置を作るのがASMLだ。
この連鎖の中で、ASMLは最も川上に位置する。 つまり、AI需要が増えるほどASMLの装置需要は確実に増える構造になっている。
問題は、ASML装置の製造リードタイムが非常に長いことだ。 一台のEUV装置の製造には数千の部品と約18カ月の期間が必要とされる。 需要が急増しても供給を急には増やせないため、受注残(バックログ)が積み上がり、それが将来の売上として積み上がっていく。
SKハイニックスがナスダック上場で3兆円調達、「RAMageddon」の勝者が示すメモリ新秩序のように、メモリ半導体もAI需要で爆発的な成長を遂げている。 HBM(高帯域幅メモリ)の需要増はASMLの高NA EUV装置への需要を生み、さらなる業績押し上げ要因になっている。
中国リスク——輸出規制の影
ASMLの成長には一つの重要なリスクが存在する。中国向け輸出規制だ。
オランダ政府は米国の圧力を受けて、ASMLの最先端EUV露光装置の中国向け輸出を禁止している。 さらに旧世代のDUV(深紫外線)露光装置にも輸出制限が拡大しており、中国売上の先行きに不透明感がある。
中国は過去にASMLの売上の20〜30%を占めていたが、規制強化により比率は縮小しつつある。 代わりに韓国(SK hynix、Samsung)、台湾(TSMC)、日本(ラピダス他)、米国(Intel)からの需要が増加しており、地理的分散が進んでいる。
この中国リスクを差し引いても、今回の業績引き上げが示すように、AI需要の勢いはそれを補って余りあるということだ。
「IBMの暴落」と「ASMLの急騰」——同じ日に起きた分岐点
同日に米IBMが25.2%の史上最大の急落を記録したことは偶然ではない。
IBMが「AIの波にのまれた旧ITの衰退」を象徴するなら、ASMLは「AIが生む新インフラ需要の隆盛」を体現する。 どちらもAI時代の産物だが、その方向は真逆だ。
「AIを使う企業」と「AIを動かすインフラを供給する企業」——この2つの間に収益の断絶が生まれている。 IBMはソフトウェアとサービスで「AIを使う企業」を支援しようとしているが、顧客がハードウェアに予算を使ってしまっているためにビジネスが成り立たなくなっている。
ASMLは顧客(半導体メーカー)が作るハードウェアの製造装置を売っており、「AIを動かすインフラの大元」に位置するため、需要が落ちない。
今後の注目点——ASML株価と半導体株の行方
ASML株は好決算発表を受けて上昇したが、年初来では様々な規制懸念を受けてボラティリティが高い状態が続いている。
第3四半期のガイダンス(110億〜120億ユーロ)を確実に達成できるかどうか、そして中国向け輸出規制の追加強化がないかどうかが株価の次の焦点になる。
より大きな視点では、ASMLの好決算はフィラデルフィア半導体指数(SOX)全体にとってポジティブなシグナルだ。 AI設備投資サイクルがまだ上昇局面にあることを確認したことで、半導体関連株全般への資金流入が続く可能性がある。
AI時代のインフラを支える「装置の覇者」ASMLは、いつまでこの独占的地位を維持できるのか。
ソース:
- ASML Reports Strong Q2 Earnings, Raises 2026 Sales Outlook — GuruFocus(2026年7月)
- ASML Q2 Revenue Hits €9.33 Billion, Beating Estimates; Full-Year Outlook Sharply Raised — BigGo Finance(2026年7月)
- ASML shares rise after Q2 earnings beat estimates, company raises 2026 outlook — Yahoo Finance Canada(2026年7月)
- Earnings call transcript: ASML beats Q2 2026 forecasts and lifts full-year outlook — Investing.com(2026年7月)