米国司法省は2026年3月19日、スーパーマイクロコンピューター(Super Micro Computer)の共同創業者ウォリー・リョウ(Wally Liaw)ら3名を、輸出管理法違反の共謀などの罪で起訴したと発表した。NvidiaのB200およびH200 GPUを搭載した高性能AIサーバーを無許可で中国へ輸出したとされる、過去最大規模のAIチップ密輸事件だ。
25億ドルのサーバーが東南アジア経由で中国へ
起訴状によると、リョウと共謀者たちは東南アジアに拠点を置く企業に総額25億ドル相当のサーバーを販売した。その企業が梱包を解き直した上で、約5億1000万ドル相当のサーバーを中国の最終顧客へ転送したとされる。対象となったのはNvidiaのB200およびH200 GPU——米国政府が2022年以降、国家安全保障上の懸念を理由に対中輸出を制限している最先端AIチップだ。B200は1基あたり約3万ドル、H200は約2万5,000ドルとされ、数千基単位での転売は巨額の利益を生む。
リョウは米国市民として逮捕され、台湾籍のウィリー・サン(Willy Sun)も拘束された。スティーブン・チャン(Steven Chang)は台湾籍で現在逃亡中とされる。3名はそれぞれ、輸出管理改革法違反の共謀(最長20年)、密輸共謀(最長5年)、政府詐欺共謀(最長5年)の罪で起訴されている。
東南アジアルートの「抜け穴」——密輸の手口を読み解く
今回の事件で明らかになった密輸スキームは、米国の輸出規制が抱える構造的な脆弱性を浮き彫りにしている。
リョウらが用いた手法は、業界では「ルーティング(経路迂回)」と呼ばれる古典的な密輸パターンだ。製品を輸出規制の緩い第三国(この場合は東南アジア)に一旦出荷し、そこで再梱包して最終目的地(中国)に転送する。米国の輸出管理法は最終用途(End Use)と最終ユーザー(End User)の把握を義務づけているが、複数の中間業者を介在させることで追跡が極めて困難になる。
起訴状によれば、25億ドル相当のサーバーのうち約5億1,000万ドル分が中国に到達した。残りの約20億ドル分の最終仕向地は明らかにされていないが、東南アジア各国で正規に消費された可能性と、さらに別の規制対象国に転送された可能性の両方が残る。
この構造的脆弱性に対し、米商務省の産業安全保障局(BIS)は2025年後半から規制を強化している。NVIDIAのH200やB200といった最先端GPUについては、特定の東南アジア諸国への輸出にも事前審査を義務づける方針が打ち出された。しかし、合法的なAI開発需要がある国々への輸出を制限すれば、米国のAI企業の競争力を損なうというジレンマもある。
企業ガバナンスの累積的崩壊
スーパーマイクロにとって、今回の起訴は孤立した事件ではない。同社は過去にも重大なコンプライアンス問題を繰り返してきた。
2018年には米国証券取引委員会(SEC)が同社を会計不正で提訴し、スーパーマイクロはNASDAQの上場廃止基準に抵触した。2023年にはショートセラーのHindenburg Researchが同社の会計慣行に対する疑念を提起し、監査法人Ernst & Youngが辞任するという異例の事態に発展した。
共同創業者の起訴は、これらのガバナンス問題の延長線上にある。一連の事件は、急成長するAIサーバー市場で売上を追い求めるあまり、コンプライアンスとガバナンスが犠牲になっていた可能性を示唆している。
スーパーマイクロ株が一日で28%急落
事件の報道を受け、スーパーマイクロの株価は3月20日の取引で28.37%下落し、22.06ドルで引けた。同社は過去にも会計不正問題で株価の大幅下落を経験しており、今回の起訴は改めて企業ガバナンスへの疑問を呼び起こしている。
投資家にとって、今回の事件はAI関連銘柄のガバナンスリスクを再認識させる契機となった。AI半導体市場は年間数千億ドル規模に成長しているが、その成長の過程で規制コンプライアンスやサプライチェーンの透明性が犠牲になっている可能性がある。NVIDIAやAMDといったチップメーカーだけでなく、サーバーメーカー、クラウドプロバイダー、そしてエンドユーザーに至るまで、サプライチェーン全体での責任の所在が改めて問われている。
特に東南アジアの中継拠点を介した「灰色の市場」の規模は、業界関係者の間でも正確には把握されていない。今回の25億ドルという数字は氷山の一角である可能性が高く、同様のスキームを用いた小規模な取引が日常的に行われているとの指摘もある。
AI覇権をめぐる米中の技術対立が激化する中、輸出規制の「抜け穴」を塞ごうとする米国の取り締まりがいっそう強化される可能性が高い。今回の逮捕劇は、AIインフラを巡る地政学的争いが企業の経営リスクとして現実化していることを示す事例となった。AI半導体が「21世紀の石油」と呼ばれるようになった今、そのサプライチェーンの管理は国家安全保障の最前線に位置づけられている。今回の事件を受けて、米議会では超党派のAI半導体輸出管理強化法案が提出される見通しだ。法案の柱は、メーカーから最終ユーザーまでの「エンドツーエンド追跡義務」の導入と、違反時の罰則の大幅強化(最長25年の懲役、最大2億5,000万ドルの罰金)だ。
業界団体のSIA(半導体工業会)は、過度な追跡義務がイノベーションを阻害するとして慎重な姿勢を示しているが、国家安全保障の文脈では規制強化への流れは不可避とみられる。輸出管理の実効性が問われる中で、シリコンバレーのサプライチェーン全体に対する当局の視線は、一段と厳しくなるとみられる。
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