AppleがM5チップ搭載の新MacBook Airを発売した。3月4日に予約開始、11日から出荷が始まっている。同時に、長らく待たれていたSiriの大刷新が2026年3月のiOS 26.4で実装される見通しであることも明らかになった。
M5 MacBook Air——オンデバイスAIの基盤
新MacBook Airの核心はM5チップだ。各GPUコアにNeural Acceleratorを内蔵し、クラウドに依存しないオンデバイスAI処理を大幅に強化した。
| 項目 | M5 MacBook Air |
|---|---|
| チップ | Apple M5 |
| AI処理 | Neural Accelerator内蔵(各GPUコアに統合) |
| CPU | 高速化された新アーキテクチャ |
| 予約開始 | 2026年3月4日 |
| 発売日 | 2026年3月11日 |
Siri大刷新——1年遅れの大勝負
当初2025年に予定されていたSiriの大刷新は、大幅に遅延してiOS 26.4(2026年3月)での実装となった。新しいSiriは、より自然な会話能力と、複数ステップのタスクを実行する「マルチステップタスキング」機能を備えるとされる。
「遅れて勝つ」Apple流
AppleのAI戦略は、OpenAI、Google、Metaと比較すると明らかに遅い。しかし、MacDailyNewsの分析は興味深い指摘をしている。「AIを逃したことで、Appleは逆にAIで勝とうとしている」と。
Appleの強みは「エンドユーザーを所有している」ことだ。20億台以上のアクティブデバイスを持つAppleが、プライバシー重視のオンデバイスAIを本格展開すれば、「AIのラストマイル」を支配できる。
オンデバイスAIの性能比較
M5チップのNeural Engine性能は、前世代M4と比較してどれだけ向上したのか。Appleの公式発表によれば、M5のNeural Engineは毎秒38兆回の演算処理(38 TOPS)が可能で、M4の38 TOPSから据え置きだ。しかし各GPUコアにNeural Acceleratorを統合したことで、GPU演算とAI推論を並列処理できるようになり、実効的なAI処理スループットは大幅に向上している。
これにより、MacBook Air上でStable Diffusionベースの画像生成を10秒以内で実行したり、Whisperベースの音声認識をリアルタイムで処理したりすることが可能になった。クラウドに送信せずにデバイス上で完結するAI処理は、プライバシーの観点で大きなアドバンテージだ。
競合との比較ではQualcommのSnapdragon X Elite搭載PC(45 TOPS)が数値上は上回るが、Apple Siliconの統合アーキテクチャ(CPU・GPU・Neural Engine・Unified Memory)による効率性は、単純なTOPS値では測れない。実際のベンチマークでは、Stable Diffusionの画像生成速度でM5 MacBook AirがSnapdragon X Elite搭載PCを上回るケースが報告されている。
Siriの大刷新については、iOS 26.4での実装が確定したものの、具体的な機能には懐疑的な声もある。Googleアシスタントは2025年にGeminiベースに全面移行し、マルチモーダル理解(画面の内容を読み取って応答する)やプロアクティブな提案(ユーザーが求める前に必要な情報を提示する)で大幅に進化した。新Siriがこのレベルに追いつけるかどうかは、Appleが独自の大規模言語モデル「Ajax」をどこまで改良できたかにかかっている。
Apple Intelligenceの導入から約1年半が経過したが、実際の利用率は芳しくない。Appleの内部データでは、Apple Intelligence対応デバイスのユーザーのうち、AI機能を週1回以上使用しているのは約25%にとどまるという。「存在は知っているが使わない」ユーザーが多数派である現実は、AppleのAI戦略がまだ「使われるAI」の段階に達していないことを示唆している。
ティム・クック氏の「Visual Intelligence」構想
BloombergはApple CEOティム・クックが、「Visual Intelligence」をウェアラブルAIデバイスの決定的機能と位置づけていると報じた。カメラを通じてリアルタイムに世界を理解するAI——これがApple Glassesやその先のデバイスの核になる可能性がある。
「遅れて勝つ」は本当に可能か
AppleのAI戦略を「遅れている」と断じるのは簡単だが、歴史的にAppleは後発でありながら市場を再定義してきた実績がある。iPodはMP3プレイヤーの後発、iPhoneはスマートフォンの後発、Apple WatchはスマートウォッチのFitbit・Pebbleの後発だった。いずれもハードウェア・ソフトウェア・エコシステムの統合力で先行者を圧倒した。
しかしAIにおいて同じパターンが成立するかは不透明だ。AIの競争力はモデルの「学習データ」と「計算資源」に依存する度合いが大きく、ハードウェア設計の美しさやUXの洗練だけでは差を埋められない可能性がある。GoogleはYouTube、Gmail、検索という膨大なデータソースを持ち、Metaは30億人以上のソーシャルデータを保有している。Appleのプライバシー重視のポリシーは、こうしたデータ蓄積を制約するジレンマを抱えている。
M5 MacBook Airの価格戦略も重要だ。エントリーモデルの価格は前世代と同じ198,800円(日本市場)に据え置かれた。AI性能の向上を「価格据え置きの付加価値」として提供することで、買い替え需要を喚起する狙いがある。Macの出荷台数は2025年に前年比15%増を記録しており、AIが新たな買い替えサイクルのドライバーとなっている。
起業家への示唆
AppleのオンデバイスAI強化は、AIスタートアップにとって機会と脅威の両面を持つ。機会の側面は、M5チップの高性能Neural Engineを活用したネイティブアプリの開発だ。クラウドAPI依存のAIアプリと比較して、オンデバイス推論はレイテンシの削減(ネットワーク遅延ゼロ)、ランニングコストの削減(API呼び出し不要)、プライバシーの強化(データがデバイス外に出ない)という三重のメリットがある。
脅威の側面は、AppleがOSレベルでAI機能を統合するにつれ、サードパーティのAIアプリが「不要」になるリスクだ。メール要約、写真編集、テキスト生成——これらの機能がApple Intelligenceに組み込まれれば、同種のスタートアップは市場を失う。歴史的に、AppleがOS機能として取り込んだ領域(フラッシュライト、QRコードリーダー、画面録画)のサードパーティアプリは急速に衰退した。AI分野で同じパターンが繰り返されるかどうかは、Appleの実装品質次第だ。
出典: Apple Newsroom、MacRumors、Bloomberg、MacDailyNews
