NVIDIAは3月16日から19日にかけてサンノゼで開催されているGTC 2026において、CEOジェンセン・ファン(Jensen Huang)が基調講演を行い、エージェントAI向け次世代プラットフォームや医療AI、新たなソフトウェアスタック群を相次いで発表した。過去最大規模となった今回の発表では、NVIDIAが「AIインフラのOS」を目指す姿勢が鮮明になった。
エージェントAI時代に対応する新ハードウェア「Vera Rubin」と「Feynman」
NVIDIAはエージェント型AIワークロード向けに設計した「Vera Rubin」プラットフォームを発表した。7種類のチップで構成されるフルスタック構成で、AIエージェントが自律的に長期タスクを実行する用途を想定している。さらに次の世代アーキテクチャとして「Feynman」も公開。新CPU「Rosa」、GPU「LP40」、ネットワーキング技術「BlueField-5」を統合した構成となる。
デスクサイドスーパーコンピュータ「DGX Station GB300」も登場した。748GBのコヒーレントメモリを備え、最大1兆パラメータのモデルを手元で実行できる。企業がデータセンターを持たずとも大規模なAI推論をローカルで行える環境を提供するものだ。
AIエージェントの「OS」を狙うOpenClawとNemoClaw
ソフトウェア面ではAIエージェント向けオープンソーススタック「OpenClaw」を公表した。ファン氏は「エージェントコンピュータのオペレーティングシステムをオープンソース化した」と表現し、その重要性を強調した。また、企業向けにポリシー強制とプライバシールーティングを組み合わせたセキュアなスタック「NemoClaw」を発表。社内業務へのAIエージェント導入を後押しする。
グローバルなAIラボの連合体「Nemotronコアリション」も設立された。言語・ビジョン・ロボティクス・自動運転・生物学・気候科学の6分野にわたる大規模モデルファミリーを共同開発する枠組みで、Black Forest Labs、Perplexity、Mistral、Cursorなどが参加している。
医療AIで外科手術ロボット向けデータセット公開
医療分野でも踏み込んだ発表があった。NVIDIAは「Open-H」として外科手術映像776時間分からなる世界最大の医療ロボティクスデータセットを公開。合成データ生成モデル「Cosmos-H」と、外科ロボット向けビジョン・言語・アクションモデル「GR00T-H」も合わせて発表した。Johnson & JohnsonやCMR Surgicalがすでに採用を進めているという。
クラウド大手との連携拡大と1兆ドル規模の見通し
クラウドパートナーシップも拡充した。AWSはグローバルリージョンで100万基以上のNVIDIA GPUを展開する予定で、MicrosoftはNVIDIAモデルをFoundryプラットフォームおよびAzureインフラに統合した。Oracleはベクトル検索の高速化にcuVSライブラリを活用するパートナーシップを結んだ。
開発者エコシステムの拡大——NVIDIAが狙う「AIのOS」ポジション
今回のGTC 2026で最も注目すべき戦略的メッセージは、NVIDIAがハードウェアベンダーからAIプラットフォーム企業への転換を加速させている点だ。OpenClawのオープンソース化、NemoClawのエンタープライズ展開、Nemotronコアリションの設立——これらはすべて、NVIDIAがGPUの上に構築されるソフトウェアスタック全体を支配する意図を示している。
この戦略は、AppleのiOS戦略と類似している。AppleがiPhoneのハードウェアを売りながら、App Storeというソフトウェアプラットフォームで継続的な収益を得ているように、NVIDIAはGPUを売りながら、その上で動くAIソフトウェアスタックのデファクトスタンダードを狙っている。
日本企業への影響
日本のAI戦略にとっても、GTC 2026の発表は重要な示唆を含んでいる。NVIDIAは日産、いすゞとの自動運転パートナーシップを発表しており、日本の自動車産業がNVIDIAのエコシステムに深く組み込まれる構図が鮮明になった。また、ソフトバンクはNVIDIAと共同でAIデータセンターの国内構築を進めており、日本のAIインフラがNVIDIA依存を強める方向にある。
「1兆ドル」の数字をどう読むか
Huang氏が言及した「1兆ドルの収益見通し」は、2025年から2027年の3年間の累計だ。2025年度の予想収益が約2,000億ドルであることを考えると、年平均3,000億ドル以上のペースを想定していることになる。この数字はNVIDIA単体の売上としては驚異的だが、AI関連の設備投資総額(2026年に約3,000億ドルと推定)の大部分をNVIDIAが獲得するという前提に立っている。
この前提が維持されるかどうかは、顧客企業のAI投資ROIにかかっている。現時点でAI投資の明確なROIを示せている企業は限定的であり、「期待先行」の投資サイクルが永続する保証はない。NVIDIAの1兆ドル見通しは、AIバブルが弾けないことを前提にした数字だと理解しておくべきだ。歴史を振り返ると、Ciscoは2000年のドットコムバブル時に時価総額5,000億ドルを記録したが、バブル崩壊後に80%以上下落し、20年以上経った2024年にようやく当時の水準を回復した。テクノロジーサイクルの教訓は、「需要は本物でも、評価額は行き過ぎる」ということだ。NVIDIAがCiscoの轍を踏むかどうかは、今後2年間のAI投資ROIの可視化にかかっている。
ファン氏は基調講演の中で「ここ数年でコンピューティング需要は100万倍に増加した」と述べ、2025年から2027年にかけての収益を1兆ドル規模と見込んでいると語った。
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